2023年6月11日

F1なるほど基礎知識【F1とヘルメットの歴史②】

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さらなる安全性の追求へ。


1994年、モータースポーツ界を大きく揺るがす事件がサンマリノGPで起きてしまいました。アイルトン・セナとローランド・ラッツェンバーガーの事故死です。二人の尊い命が一つのグランプリウィークで失われたことは、大きな驚きと悲しみをモータースポーツ界にもたらしました。そして、さらなる安全性向上が必要であることを改めて痛感させたのです。

熱田護氏GP500ギャラリーにて撮影
特にアイルトン・セナの事故死はヘルメットの安全性に関わる課題を洗い出しました。強大な前後Gと横Gにさらされるドライバーにとって、ヘルメットの軽量化は大きなベネフィットをもたらしますが、安全性はそれ以上に重要です。今回のブログではヘルメットの安全性向上の歴史について解説します。

カーボンファイバー素材の登場


1994年のアイルトン・セナの事故死から10年後、F1におけるヘルメットの安全性規格(FIA8860-2004)が改訂され、これに適合するためにカーボンコンポジット製のヘルメットが登場します。日本のヘルメットメーカーのアライは『GP-5 RC』を発表し、多くのF1ドライバーがGP-5 RCを選びました。

現在のF1では、車体部品の多くがカーボンコンポジット製であることが当たり前になってきました。軽量化と高い剛性を誇る素材なのでヘルメットの素材としても最適と思えますが、ヘルメットに求められる特有の安全要件ゆえ、その適用については大きな技術的なハードルがあったようです。特に耐衝撃性試験においては、必ずしもカーボンコンポジットが優れていなかったようです。1994年から10年後の2004年に規格が改訂されたのも、こういった技術的課題を解決するために時間を要したであろうことは想像に難くありません。


各ヘルメットメーカーの開発努力の結果、カーボンコンポジット製ヘルメットは安全性の向上と軽量化を同時に果たしたものの、1日1個という生産性の低さから、当時は市場での販売はされていませんでした。その後、各メーカーはこの低生産性の課題をクリアし、今日では2輪用から4輪用からまで幅広いラインナップが揃うようになりました。



難燃性素材を用いた内装


モータースポーツはクラッシュによる火災のリスクが伴うスポーツです。記憶に新しい事故事例として、2020年のバーレーンGPでのロマン・グロージャン選手のクラッシュがあります。衝撃的なクラッシュからの奇跡的な生還を果たした彼ですが、その背後には難燃性素材の存在があります。

引用元 : Bellヘルメット公式サイト
F1を始めとした4輪モータースポーツでは、レーシングスーツやアンダーウェアにはノーメックスと呼ばれる難燃性の生地が使われています。もちろん4輪用ヘルメットの内装にも使われており、この難燃性素材をまとうことで素肌の直接的な火傷を防いでくれます。ノーメックスはデュポン社によって1960年代に開発され、モータースポーツだけでなく消防士や空軍パイロットの防護服など多くの産業で活用されています。また、最近はヘルメット内装にカラーバリエーションが用意されるなど、安全性向上だけでなく商品性向上の取り組みも見られるようになりました。

バイザーロック機構の登場


クラッシュ時、ドライバーは大きな衝撃を受けることになります。先述したロマン・グロージャンの事故では、最大67G(重力の67倍)もの衝撃だったそうです。このような悲惨な事故でもヘルメットはドライバーの頭部をしっかり守らなくてはなりませんが、ヘルメットの開口部から見える顔も保護しなくてはなりません。

このような大きな衝撃を受けた際にヘルメットのバイザーが期せずして開いてしまったらどうなるでしょうか?ドライバーの目と鼻が炎にさらされるだけでなく、破損した部品による受傷のリスクも十分に考えられます。そこで登場したのが、バイザーロック機構です。これまでもロック機構はあったものの、新しく登場したロック機構はバイザーを開く前にワンアクション必要となる構造となっています。


各メーカー毎にその機構は異なりますが、アライの場合は『ロック機構のレバーを引く⇒バイザーを上げる』となっています。アメリカのBELL社製ヘルメットでは、強固なロックと軽量性を兼ね備えたシンプルな機構となっており、各社のバイザーロック機構の考え方に違いがあり、とても興味深いです。

おわりに


最後に僕から読者の皆さんへのお願いを書いて今回のブログを締めたいと思います。大切な命を守るヘルメットには使用期限があるのをご存じでしょうか?ヘルメットに使われている衝撃吸収材は経年劣化により硬化してしまいます。このため、使用期限を過ぎてしまうと本来の安全性能を担保することが出来ません。

外装に傷がなく、購入して以来一度も衝撃に晒されたことがなくキレイに使用していたとしても、ヘルメットの性能劣化を防ぐことは出来ません。オリジナルペイントを施したヘルメットなどには愛着があるかも知れませんが、定期的な買い替えを強くオススメします。

今回のブログでは素材と機構の観点からヘルメットの安全性について解説しました。1994年の頃に比べ、現在のヘルメットは大きな進化を遂げました。しかし、安全性の追求に終わりはありません。今後もヘルメットメーカーの継続的な改良・改善から目が離せませんね。

[おわり]