はじめに。
2020年10月2日、ホンダがF1活動の終了が発表されました。このニュースを知った時、僕はイヤな予感が当たってしまった…と思いました。この発表以前から2022年以降のF1活動継続の発表がなかったので『もしかしたら…』という気がしていたからです。
ある程度予感していたからでしょうか。ホンダのF1活動終了を知っても、その時は『とても残念』という以上の感情は起きず、不思議と動揺することはありませんでした。
McLaren MP4/4 (引用元:ホンダF1公式サイト) |
そんな彼らがF1から来年末にはいなくなってしまう。この事実をどう受け止めるか?そして、どう言葉にするか?頭の中の整理にちょっと時間が掛かりましたが、僕のホンダF1への想いとメッセージを今回のブログに書きたいと思います。
技術研究という原点。
今回のホンダF1活動終了に関して様々な視点での記事を読みましたが、僕は一人の技術者として今回の事態を見つめることにします。その前に、ここでホンダの原点を振り返ろうと思います。
これがホンダの会社の正式名称(技術開発系)です。日本国内の自動車メーカーの中でも少し雰囲気が異なり、社名に『技術』、『研究』という言葉が含まれています。いかにも理科系バリバリの会社という感じがします。
ホンダジェット (引用元:本田技研工業公式サイト) |
F1はホンダのDNAか?
率直に言うと、この問いはホンダに投げかける問いとして適当ではないと僕は考えています。もし、僕が彼らに問いを投げかけるとしたら『技術と研究はホンダのDNAか?』です。恐らく本田技術研究所で働く全ての技術者はこの問いに対し『Yes』と答えるでしょう。いや、そうでなくてはなりません(もし、そうではない人がいるならば由々しき事態ですが…)。
確かにホンダには長きに渡るF1での歴史と輝かしい実績がありますが、歴史的慣行としてF1に参戦することがホンダが負うべき使命ではありません。なぜなら、ホンダの技術者にとってF1参戦はあくまで技術・研究の尖った実力を培うための少々特殊な手段であり、F1に参戦していることが目的ではないからです。
Red Bull RB16 (引用元:本田技研工業公式サイト) |
正直なところ、今回のホンダF1活動は始まりから終わりまで決してスマートだったとは言えません。また、今回の決断は『F1はずっと続ける。F1はホンダのDNAだ。』という始まりの言葉を信じたモータースポーツファンに対する背信行為なのかも知れません。僕も一人のモータースポーツファンとして残念に思う気持ちは皆さんと一緒です。
しかし、今一度ホンダの抱く『夢』を皆さんに見つめ直して欲しいのです。
一つではない夢が技術者たちにはある。
F1を筆頭にクルマの極限性能を追い求めるホンダ。2輪ではスーパーカブからCBRまで幅広い製品を世に送り出し、発動機を活用したパワープロダクトや、和光研究所でのホンダジェットやASIMOの開発など、彼らの技術研究は多岐に渡っています。
このことが意味すること。それはホンダの技術者たちはF1以外にも、たくさんの夢を追求し続けているということです。その夢はホンダがF1で勝つことと同等か、もしかしたら、それ以上に大切な夢かも知れません。
『そうだ、この手法なら何とかなるかも!』
『ダメだ…これだと残る目標性能が達成できない…』
『よし、皆で論議しよう。ワイガヤだ!』
『ん?…これは解決策になるんじゃ…?!』
『出来た!やったぞ!目標達成だ!』
こんな風に壁にぶち当たっては転び、その度に起き上がり、課題解決や目標達成に挑戦することが技術者たちの日常なのです。また、ホンダでエアバッグ開発の第一人者となった小林三郎氏のように一つの夢の実現に技術者人生の全てを費やすことも決して珍しくありません。
ホンダがF1活動で勝利を目指すことはF1活動に関わるホンダの技術者にとって確かに夢のあることですが、一方でF1に携わっていない技術者にもそれぞれに叶えたい大切な夢があるのです。そのことをモータースポーツファンの皆さんにも知って欲しいと思います。今のホンダはそんな技術者たちの夢を力強く支援しなくてはならない時にある、僕は今回のホンダの決定をこのように理解しています。
最後に。
残念ながらF1はホンダにとって優先度の高い夢ではなくなってしまいました。しかし、今回の決断で多くのホンダの技術者たちの夢が叶うのであれば、とても素晴らしい決断であったといつかは言えるようになるはずです。もちろん、F1から去るからにはホンダがこれから挑戦する目標は絶対に達成して欲しいですし、期待を大きく超える成果で世界をあっと驚かせて欲しいと思います。
夢の実現に挑戦すること。忌憚なく言えば、ホンダの技術者にとってはそれがF1という舞台であるかどうかは最重要ではないのかも知れませんが、全てのホンダの技術者の皆さんの今後の健闘を祈りつつ、今回のブログを締めたいと思います。
最後までお読み頂きありがとうございました。