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2018年5月27日

F1なるほど基礎知識【ピットストップウィンドウとは?】後編

[前回のブログ]
[重要なお知らせ(Important notification)]


セーフティカー出動に対するピットストップウィンドウ


前回のブログでは、ラップタイム変化の要因(燃料重量効果とデグラデーション)と、その変化の様子をグラフを使って解説しましたが、今回のブログではいよいよピットストップウィンドウの核心に迫ります。

Sergio Perez@Monaco(引用元:Force India公式サイト)
なお、今回の解説では読んで頂く皆さんが理解しやすいよう、レース状況や各効果を単純化している部分があります。このため、実際とは少なからず異なる点があることをご承知置きください。

セーフティカーはお得?それとも損?


ピットストップウィンドウを理解する上で一番最初に知っておくべきこと。それは『セーフティカーがピットストップ戦略にどのような影響を与えるのか?』ということです。ここで、あるシーンを想像してみることにしましょう。

あるドライバーがレースを走っているとします。レース序盤が終わる20周目、タイヤのパフォーマンスもそろそろ限界を迎えつつある…そんな時にピットから『予定通り、次の周回でピットインしてタイヤ交換するぞ!』という指示が飛んできました。と、その瞬間に、あるドライバーがコース上でクラッシュ!セーフティカーが出動しました。このような状況下で予定通りピットインすることはお得になるでしょうか?それとも損となるでしょうか?

セーフティカー(引用元:F1公式サイト)
答えは『お得になる可能性大』です。

なぜなら、自分がピットストップしている最中、ピットインをしなかった他のドライバーたちは、ありがたいことにセーフティカーの後ろでゆっくり走行してくれるからです。そして、他のドライバーたちがセーフティカー解除後にタイヤ交換を迎えた時、自分はレーシングスピードで走行できるので、その分だけ得をすることになるのです。

果たしてピット戦略は?(引用元:Force India公式サイト)
一方で、戦略上ピットイン出来なかったドライバーは(相対的に)損をすることになってしまうのです。レース後に『セーフティカーがピット戦略に味方してくれなかったよ。』というドライバーコメントを目にすることが多いと思いますが、このようなコメントは、まさにこの損得のことなのです。

このことを知っておいた上で、セーフティカー発動時にどのドライバーがピットインし、どのドライバーがステイアウト(コース上に残る)したのかを確認しておくと、その後の展開を予測して楽しむことができるようになると思います。

『あ!ピットインした!ヨシ!イイ感じ!』、『げ!ステイアウトしてる…(汗)。ヤバいな…』と、こんな感じで楽しむことができると思いますので、今後のレース観戦でぜひ注目してみることをオススメします。


セーフティカー中のピットインは常にお得か?


ここまでの解説では『そもそものピットインの予定と、セーフティカーのタイミングがズバリ一致した場合』という前提条件でした。では、ピットインする予定ではなかったドライバーが、無理にピットインの予定を早めたらどうなるのか?このような場合、果たして得をするのか、それとも損をするのか?

仮にセーフティカーの出動時に、当初の予定を無視してピットイン&タイヤ交換をしたとしましょう。このような場合でも得をする可能性は確かに生まれますが、一方で損をする可能性も同時に発生しているのです。

なぜなら、予定よりも大幅に早くピットインしてしまうと、その後は交換したタイヤで予定よりも長く走行することになるので、タイヤのデグラデーション(性能劣化)の影響が大きくなってしまうからです。つまり、後半のピットストップ戦略にシワ寄せが発生し、最終的に損をしてしまうかも知れないのです。

デグラデーションによるラップタイム変化(赤ライン)
では、セーフティカー出動時に予定より早いピットインをしてもお得なままでいられる周回数の範囲はどれくらいなのか?この疑問に対する答えが、今回のテーマ『セーフティカー出動に対するピットストップウィンドウ』なのです。

お得でいられる周回数の範囲のことを『ウィンドウ(窓)』といい、その周回数の範囲に突入すると『ウィンドウが開いたぞ!セーフティカーが出動するアクシデントが起きたらいつでもピットインしてOK!』という指示がチームから出るのです。

ピットストップ戦略とラップタイムデルタ


ここまでにピットストップウィンドウの本質について解説しましたが、前回のブログ同様、グラフを使ってピットストップウィンドウについての理解をさらに深めていくことにしましょう。ここからの解説では、次の前提条件に基づくこととします。
  1. レース周回数は58周
  2. ピットインは20周目と40周目の2ストップ作戦でロスは20秒
  3. タイヤは1種類のみを新品で3セット使用
  4. タイヤは18~20周目にパフォーマンスがピークとなる特性
  5. スタート時のラップタイムは90秒(基準タイム)
今回、ピットストップ戦略を評価・解説するに当たり『ラップタイムデルタ』という言葉を使いたいと思います。『デルタ』とは日本語で『差分』を意味します。例えば、ある周回のラップタイムが89秒だったとすると、基準タイムからの差分は90秒から89秒を引いた1秒となります。これをラップタイムデルタとします。

レースでは、全周回のラップタイムデルタを足し合わせた値が大きければ大きい程、レースを早く走り切れることを意味するのですが、言葉だけではちょっとイメージがしづらいかと思いますので、ここでグラフに登場してもらうことにしましょう。

①予定通りのピットストップ戦略の場合


上のグラフは周回数に対するラップタイムデルタの合計値の変化を表しており、上に書いた前提条件1~5を計算した結果となります(緑ライン)。

この戦略では、2回のピットストップによるロス(20秒×2回)を除けば、タイヤの限界を迎える直前にタイヤを交換しているので、ムダなくラップタイムデルタを稼げています。最終的にこの戦略では、ピットストップなし&全ラップ90秒で周回した場合に対して約42秒も早くレースをフィニッシュできることが分かりました。

②一回目のピットストップを5周早めた場合


上の①に対して、一回目のピットストップを5周だけ早めた場合の計算結果が上のグラフ(青ライン)となります。注目すべきポイントは、最終的なラップタイムデルタの合計値(58周目)です。ピットストップを前倒しした結果、2回目のピットストップ後の走行においてタイヤのデグラデーションによる損をしていることが分かります。

その差はなんと約7秒!7秒も遅いとポジションが2つほど落ちていても不思議はありませんね(汗)。この時思い出して欲しいのが、セーフティカー出動時にピットインで得する時間のことです。もし、得する時間が損失時間と同じ7秒なのであれば、15周目にピットストップウィンドウが開くことになります。

一方で得する時間が7秒よりも短い5秒である場合は、ウィンドウが開くのは15周目よりも遅い17周目あたりになります。このように、得失がバランスする周回数をピットストップウィンドウの始まりとしているのです。

③[参考]一回目のピットストップを遅らせた場合

参考までに、一回目のピットストップを5周遅らせた場合も計算してみました。とても興味深い結果です。タイヤのデグラデーションの影響が大きく、②ピットストップを5周早めた場合よりも、さらに約9秒も悪化する結果となってしまいました。①の場合に対してはなんと16秒!さすがにこれでは勝負になりませんね(汗)。

まとめ


ちょっと難解だけど、知っておくとレースがより楽しく見れる『ピットストップウィンドウ』について解説しました。いかがでしたか?理解できたでしょうか?今回の内容を以下にまとめてみました。
  • セーフティカーの出動時にピットイン&タイヤ交換した場合、最終的に得をする可能性が高まる
  • ピット予定を早め過ぎると最終的にタイヤのデグラデーションによって損をする可能性を高めてしまうことになる
  • 早めにピットインする場合、最終的な損得を計算した上でピットインしても良い周回数の幅をあらかじめ決めておく必要がある
  • セーフティカーの出動時にピットインしても良い周回数の幅のことを『セーフティカー出動に対するピットストップウィンドウ』という。
以上、4点となります。実際にはタイヤは7種類あり、セーフティカーの出動周回数の長さ、サーキットの特性の違いなどを考慮する必要があるので、実際の戦略はここに書いた以上に複雑で難解です(汗)。

ですが、このブログでの解説を通じてレースへの理解がより深まり、レースをもっと楽めるようになるのであれば僕としても嬉しい限りです。今後もそういったトピックスにフォーカスを当てて執筆していこうと思いますので、今後のブログ更新にもご期待ください。

以上、第一回『F1なるほど基礎知識』でした!

[おわり]

ふ~今回は書くの大変だったな~(汗)。

2018年5月23日

F1なるほど基礎知識【ピットストップウィンドウとは?】前編

[重要なお知らせ(Important notification)]


セーフティカー出動に対するピットストップウィンドウ


F1を見ていると『う~ん、何だか良く分からない…』こんなことって少なくないと思います。そんな『う~ん』を減らして、F1ファンの皆さんにF1をもっと楽しんでもらいたい。そんな想いから始めることにしました、F1なるほど基礎知識シリーズ。題名がちょっと安易な感じですが(汗)、お付き合いください。

第一弾のお題は『ピットストップウィンドウ』についてです。この『ピットストップウィンドウ』にはいくつか種類があるのですが、今回は最も難解な『セーフティカー出動に対するピットストップウィンドウ』について取り上げたいと思います。

ピットストップ(引用元:Force India F1公式サイト)
初回から説明の難しいトピックスを自ら選んでしまいましたが(汗)、できる限り分かりやすい説明を心掛けて書いてみましたので、楽しんで頂ければ幸いです。

タイヤと規則の基礎知識


2018年現在、ピレリがタイヤをF1へ供給していますが、ドライタイヤだけで何と7種類(2019年シーズンになり5種類に減りました)もあります。パフォーマンスの高さ順に次のようなラインナップになっています。
  1. ハイパーソフト(ピンク)
  2. ウルトラソフト(パープル)
  3. スーパーソフト(レッド)
  4. ソフト(イエロー)
  5. ミディアム(ホワイト)
  6. ハード(アイスブルー)
  7. スーパーハード(オレンジ)
ピレリタイヤ
タイヤは柔らかいゴムであるほどラップタイムは速くなりますが、柔らかいがゆえに摩耗が激しく、ピークを過ぎるとタイムが著しく悪化します。一方で固いゴムのタイヤの場合では逆のことが起きます。つまり、タイムはさほど良くありませんが、そこそこのペースが比較的長続きするわけです。

一方で『う~ん…でも、なんでタイヤが7種類もあるのさ…』と疑問に感じる人も少なくないと思います。さらに規則により各チームは各グランプリ毎に7種類の中から3種類を選ばなくてはならないのですが、こうなってしまうとレースでどんなことが起きるのか予想・理解するのが難しくなってきます。

そこで、いったん話を単純化してみることにしましょう。7種類のタイヤのことは忘れて、まずは次の2つのことを覚えておくと良いでしょう。

・どのタイヤも、そのパフォーマンスを1レース維持することはできない

・決勝レース中は少なくとも2種類のタイヤを使用する義務がある

しかし、上の2つのことだけを知っていてもピットストップウィンドウの理解に辿り着くのは少し難しいかも知れません(汗)。この二つがどのようにピットストップウィンドウと関連することになるのか?今回のブログではもう少しだけ詳しく深掘りしていくことにしましょう。


タイヤのパフォーマンス変化とは?


F1のレースを観戦していると、レースペースが思ったほど上がらずに順位を落とすドライバーもいれば、逆に想定以上にレースペースが良く、順位を上げるドライバーもいます。このようなペースの良し悪しはどのように決まるのでしょうか?F1に限った話ではありませんが、一般的にレースペースは主に次の要因によって決まります。

・車両の総重量変化

・タイヤの性能劣化

現在のF1ではレーススタート時に燃料をフルタンク状態にしてスタートします。スタート後は燃料の消費により車両が軽くなっていくので、ラップタイムは速くなります。一方、周回数を重ねる毎にタイヤの性能は劣化していくので、ラップタイムは遅くなります。

そう、上の二つの要因はそれぞれ逆の現象を引き起こしているのです。実際には二つのことが同時に起きているのですが、その様子をグラフを使って段階的に図解していくことにしましょう。

①レース中に重量とタイヤ性能がどちらも変化しない場合

仮にレース中にマシンの重さも一定、タイヤ性能も一定で変わらないとしたら、ラップタイムはどうなるでしょうか?答えは簡単ですね?『ずっと同じペースで走れる』です。この状況をグラフにすると下のようになります(緑ライン)。以降、このラインが基準線となります。

ベースライン(Baseline)

②車両の重量は軽くなるが、タイヤ性能が劣化しない場合

次に、レース中の燃料消費によってマシン重量だけが変化すると仮定しましょう。この場合、ラップタイムは周回数を重ねるごとに速くなります。近年のF1では燃料がフルタンクの状態(約100kg)と予選時のほぼ空タンクの状態(約5kg)でおよそ3~4秒のラップタイム差があります。レース周回数を50周とすると1周あたり0.06~0.08秒ずつラップタイムが縮まる計算になります。この変化もグラフにしてみましょう(黄ライン)。これを燃料重量効果(Fuel Effect)と言います。

重量効果(Mass Effect)

③タイヤの性能変化だけが起きる場合

では、車両重量が変わることなくタイヤの性能変化のみが起きる場合を考えてみましょう。この場合は②とは逆にラップタイムは徐々に遅くなっていくのですが、その変化の様子が②とはちょっと異なります。タイヤを使い過ぎると急激に劣化してペースダウンしてしまうのです。この変化もグラフにしてみると次のようになります(ピンクライン)。このようなタイヤの性能劣化をデグラデーション(Degradation)と言います。

デグラデーション(Degradation)

④重量効果とデグラデーションが同時に起こる場合

実際のレースでは燃料重量効果とデグラデーションは同時に起こるので、上の②と③の効果を足し合わせれば、おおよそ実際のラップタイム変動になります。この様子もグラフにすると次のようになります(赤ライン)。参考までに②燃料重量効果(黄ライン)と③デグラデーション(ピンクライン)のグラフも透過色にして載せてみました。

二つの効果を重ね合わせる
スタートからしばらくは燃料重量効果がデグラデーションよりも優勢なのでペースアップしていきます。しかし、徐々にデグラデーションが強くなり、それぞれの影響が釣り合ったところでペースアップが頭打ちになります(上のグラフで言うと21周目)。それ以降の周回数では完全にデグラデーションが重量効果に対して優勢となるため、ペースダウンしてしまうのです。


タイヤ交換のタイミングとは?


レースでは装着したタイヤがペースダウンになる直前まで使い切ることが基本となります。つまりタイヤ交換のタイミングはペースアップがピークとなる周回となります。上記④の赤ラインのグラフで言うと21周目がピットインの対象となります。

ところで、現在のF1では金曜日に実施されるフリー走行1とフリー走行2、土曜日午前中に実施されるフリー走行3、合計3回のテスト走行の機会があります。この3回のフリー走行では予選を想定したパフォーマンスランを実施するのですが、これ以外にもやらなくてはならない重要なことがあります。

フリー走行は重要!(引用元:Force India F1公式サイト)
それはロングランと言われる決勝を想定したタイヤテストです。決勝で使うであろうタイヤのピークを把握して、ピットストップのタイミングを決めるのがロングランの目的です。フリー走行中盤から終盤にかけて、ベストタイムが更新されなくなることが多いのは、全てのチームがこのロングランに取り組んでいるからなのです。

このため、トラブルやクラッシュなどでフリー走行の機会や時間が失われたりすると、チームとしては本当に大きな痛手になります。仮にドライバーのミスでクラッシュをしてしまった場合、レースエンジニアやメカニックからは冷た~い視線がドライバーに向けられることは間違いないでしょう(笑)。

前編まとめ


以下、前編のまとめとなります。
  • F1のタイヤは複数種類あり、どのタイヤも性能低下を起こす
  • 2種類のタイヤ使用義務により、レース中に一度のピットストップが必要
  • ラップタイム変動は、燃料重量効果とタイヤのデグラデーションによって決まる
  • 上記二つの効果が釣り合った周回がタイヤパフォーマンスのピーク周回となる
以上が前編となります。いかがだったでしょうか?まだピットストップウィンドウにまでは至っていませんが、前編での内容をおさらいしつつ後編で解説します。次回のブログ更新をお楽しみに!

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