2019年8月25日

ミニ四駆の運動と制御-第5章-

[前回のブログ]
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長きに渡る技術テーマ、空力


ミニ四駆の30年以上にもなる長い歴史の中、多くのミニ四駆ファンが抱いてきた疑問があります。それは『ミニ四駆に空力は必要か?』という疑問です。ミニ四駆の1/32というスケールゆえ、その効果は『ほとんどない、もしくはあっても限定的なのではないか?』という考えが多いかも知れません。

Dancing Dall(引用元:タミヤ公式サイト)
また、F1と異なりミニ四駆の走行速度域は一般的には25~35km/h程度です。このような速度域は空力効果が限定的と考える根拠にもなってきたようですが、僕の至った結論は少し異なるものでした。今回のブログでは僕が至った結論と、ミニ四駆における空力の考え方について紹介したいと思います。

ダウンフォースとミニ四駆


一般的にダウンフォースはコーナリングスピードを高めるために活用されます。ダウンフォースによりタイヤを路面に押し付け、タイヤが発生する横力を増加させるわけです。しかし、ミニ四駆では少し話が異なります。前々回のブログで解説した通り、車両にはタイヤの横力に起因する減速力が働きます。このため、ミニ四駆にウイングなどでダウンフォースを発生し横力を増加させると、更なる減速力を生み出してしまうのです。

コース壁からの反作用力による減速力
また、ウイングはダウンフォースを発生するだけでなくドラッグ(空気抵抗)も発生するため、最高速が伸びなくなるというデメリットもあります。このため、直線距離の締める割合が大きいコースレイアウトでは速さを発揮することができません。

『なんだ…やっぱり空力はミニ四駆には必要ないんじゃん…』

このように思ったかも知れません。コーナリングスピードを高めることを目的とするのであれば、確かにミニ四駆に空力は不要という結論になります。しかし、現在のミニ四駆のサーキットの特性を考慮すれば、新たな空力効果の活用の可能性が見出すことができるのです。


サーキットレイアウトの変遷


1988年に初開催されたジャパンカップ。その決勝の舞台となったサーキットがウルトラグレートダッシュサーキットです。予選レースでのレイアウトはもっとシンプルでしたが、この決勝用のサーキットも今となってはシンプルな印象を受けると思います。

(引用元:タミヤ公式サイト)
ここで2016年のレイアウトと1988年のレイアウトを比較すると、その違いは歴然です。コースの全長が伸びているのはもちろん、ミニ四駆がジャンプするセクションが多数設置されています。このようなサーキットのポイントは、ミニ四駆の平面的な動きに上下方向が加わることで三次元的な運動になることです。このため、1988年のようなサーキットレイアウトに比べると格段にコースアウトのリスクが高くなっています。

(引用元:タミヤ公式サイト)
今年(2019年)のジャパンカップのサーキットレイアウトはさらに進化し、これまでにないギミックもサーキットに織り込まれています。また、デジタルカーブとドラゴンバックが連続するなどコースアウトを誘発するレイアウトになっています。現在のミニ四駆競技は、ただ速いだけのマシンでは完走できず勝つことができません。スピードを適切にコントロールし、速さとコースアウトのリスクを上手にバランスさせることがとても重要になっているのです。

三次元運動を制御するには?


では、サーキットで三次元的に動くミニ四駆のコースアウトのリスクを下げるにはどうしたら良いのか?この課題の解決に活用できそうなものはないか?そんなことを考えている時にヒントとなったのがバギーRCカーのウイングでした。

バギーRCカー用フロントウイング(引用元:TEAM AZARASHI)
バギーRCカーにとってジャンプ時の姿勢コントロールは着地後のトラクション(加速)性能を左右する重要なファクターです。速度域はRCカーの方が比較的速いものの、ミニ四駆の重量を考えれば十分に効果は見込めると考えたのです。

次回のブログではバギーRCカーのようなウイングをどのように再現したのか?また、その狙いと考え方を具体的に紹介します。次回更新もどうぞお楽しみに!

[つづく]

2019年5月30日

ミニ四駆の運動と制御-第4章-

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タイヤスリップ角の定式化


前回のブログでは、コースの壁からの反作用力がミニ四駆に減速をもたらすことを解説しましたが、今回のブログは詳細に現象を理解するため、各タイヤにおけるスリップ角を定式化します。さらに得られた式からミニ四駆のセッティングとの関連性について考察します。

ダッシュ4号キャノンボール
(引用元:タミヤ公式サイト)
なお、今回のブログは安部正人氏の著書『車両の運動と制御』の第3章に記載のスリップ角の導出をより詳細に解説した内容となっています。車両運動を勉強し始めた学生や、学生フォーミュラのシャシー担当の学生にも参考になれば幸いです。

車両仕様パラメータの定義


まず初めに、定式化に必要となるパラメータを定義する必要があります。次の図にパラメータをまとめてみました。基本的な諸元は一般的な乗用車とほぼ同一ですが、自転中心は車両重心ではなく、前後ローラー間ホイールベースの中心にあることに注意してください。

図(1)諸元一覧
それぞれのパラメータは次のように定義しました。また、正負の定義は車両前方、右方向、時計回りをプラスとしています。今回は特に単位は記載していませんが、SI単位系に準拠するとします。

諸元パラメータ一覧
スリップ角は次の二段階で定式化を進めていくこととします。
  1. 各タイヤの自転による移動速度ベクトルの定式化
  2. 各タイヤの公転による移動速度ベクトルとの合成
なお、上記1および2それぞれの定式化では車両の自転中心に固定された車両座標系を前提としていることに注意してください。


タイヤの自転による移動速度ベクトル


最初に自転による移動速度ベクトルのみを定式化します。タイヤの接地点には次の図に示すように速度ベクトルが発生しており、自転中心とタイヤ接地点の距離および角速度から速度ベクトルを求めることができます。

図(2)自転運動による各タイヤの速度ベクトル
ここで、便宜的に図(2)に示す車両座標系(車両前後方向をx軸、車両横方向をy軸)に基づき、図中の速度ベクトルを分解すると図(3)のようになります。

図(3)各タイヤの速度ベクトルの分解
次に図中の四つのベクトルのx方向とy方向成分を求めます。ここで、各タイヤの自転による速度ベクトルの添え字はタイヤの位置を表します。
  • FL : Front Left
  • FR : Front Right
  • RL : Rear Left
  • RR : Rear Right
各タイヤの速度ベクトルの大きさは自転中心とタイヤ接地点の幾何学的関係によって求まり、次式のように表されます。

式群(1)各タイヤの自転速度ベクトルのx軸およびy軸の成分
それぞれのタイヤに発生している速度ベクトルの大きさ、および車両前後方向の中心線とタイヤ接地点中心の成す角度は、車両諸元と自転中心周りの角速度より定式化することができ、次のように表されます。

式群(2)自転速度ベクトルの大きさと角度の正弦・余弦
上記の式群(2)を式群(1)に代入すると、結果的に次のようにシンプルに定式化されることが分かります。

式群(3)整理後の自転速度ベクトルの大きさ
上記式群(3)は自転による速度ベクトルですから、これらに公転による速度ベクトルを足し合わせる必要があります。今回は左右のローラー軸間距離がフロントとリヤで等しいとしているため、公転による速度ベクトルは車両座標系のx軸方向にのみ速度成分を持ちます。つまり式群(4)に示す各x成分に公転の速度Vを足し合わせるだけでOKです。ベクトル合成の結果を次の図(4)に示します。

図(4)自転ベクトルと公転ベクトルの合成
なお、前後で左右のローラーの軸間距離を不等長とした場合、自転の回転中心周りに定常的な車両スリップ角が発生します。このため、もう少し複雑な式になるのですが、労力と時間の都合上、今回のブログでは割愛させて頂きます(汗)。興味のある方はぜひ定式化にチャレンジしてみてください。

さあ、ようやく自転と公転それぞれの速度ベクトル成分を足し合わせる段階まできました。上述の通り、式群(3)に示されている自転速度ベクトルのx成分に速度Vを足せば次の式群(4)を得ます。

式群(4)公転速度V加算後の速度ベクトルの大きさ
各タイヤのx軸とy軸方向成分が導出できたので、あとは式群(4)を使ってスリップ角を求めるのみです。ここでは、三角関数の近似を適用せず、正接の逆関数で各タイヤのスリップ角を求めることとします。

式群(5)各タイヤのスリップ角
安部正人氏の著書『車両の運動と制御』の第3章では、スリップ角が十分に小さいと仮定し三角関数の近似を適用しているため、もっとシンプルな式になります。しかし、ミニ四駆の場合は近似を適用できるほどタイヤスリップ角が小さくなりそうにないため、近似はせず、逆三角関数をそのままにしていることに注意してください。

ところで、ミニ四駆はコースの壁に沿って走行しているため、式群(5)に含まれる公転速度Vは、公転半径Rと自転の角速度ωの積に等しいという束縛条件を持ちます。この束縛条件を式群(5)に導入すれば、最終的に各タイヤのスリップ角は更にシンプルに次のように表されます。

式群(6)各タイヤのスリップ角(束縛条件適用後)
上記式群(6)の最大の特徴は、スリップ角が全て幾何学的な関係として表現されることです。つまり速度とは無関係にスリップ角が決まるのです。ただし、この束縛条件は定常的な旋回運動の時にのみ成立し、コーナーへの進入・脱出時の過渡的な旋回運動では成立せず、タイヤスリップ角は速度依存性を持ちます。

まとめ


今回のブログでは、タイヤスリップ角の定式化について取り組んだ結果、次のことが分かりました。
  • タイヤスリップ角がホイールベースとトレッド幅に依存する
  • タイヤスリップ角は左右間で異なり、その差異はトレッド幅によって決まる
  • 束縛条件を適用すると、タイヤスリップ角の速度依存性が消える
  • ただし、その束縛条件はコーナー進入・脱出時には適用できない
ここで分かったことを元にコーナリング速度の向上策を考えるならば、『トレッド幅を大きく』しつつ『車両のロール運動を誘発するローラーセッティングを施す』ことなどが挙げられます。

トレッド幅を大きくした場合、外側タイヤのスリップ角は減少する一方で内側タイヤのスリップ角は増加してしまいます。そこで、車両のロールを誘発するローラーセッティングとすることで内側タイヤの荷重を減らす(もしくは接地させない)ことで、内側タイヤの影響を小さくする…というのがこのセッティングの狙いです。

今回のブログの内容は理論に終始したため少々難しく感じたかも知れませんが(汗)、次の最終回では空力とミニ四駆の運動の関係性について解説したいと思います。次回ブログの更新もどうぞお楽しみに!

[続きはコチラ]

2019年4月28日

ミニ四駆の運動と制御-第3章-

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タイヤと旋回性能を考える


前回のブログではスリップ角の考え方とタイヤ横力の発生メカニズムについて解説しましたが、今回のブログではそのタイヤ横力がミニ四駆の旋回運動にどのような影響を及ぼしているのかを解説します。

ダッシュ3号シューティングスター
(引用元:タミヤ公式サイト)
最近のミニ四駆の公式大会ではマルーンタイヤと呼ばれる低フリクションのタイヤが選ばれることが多いようですが、なぜ低フリクションのタイヤが好んで使われるようになったのか?その技術的な理由についても今回のブログで明かしていきます。

前後で異なる反作用力


一定速度で旋回走行するミニ四駆には慣性力(見かけ上の力である遠心力)が働いており、その慣性力は反作用力の大きさと等しくなります。ここでは簡単な理解のため、いったんタイヤ横力をゼロと仮定してみましょう。下の図は、このような状況下におけるミニ四駆の力関係を示しています。

慣性力と前後の反作用力の関係
この時、ミニ四駆に働くそれぞれの力には、一般的に次の関係が成り立つことになります。
  • 前後の反作用力の大きさは等しい
  • 前後の反作用力のベクトル和の大きさは、慣性力の大きさに等しい
  • 慣性力の大きさは、旋回半径と速さによってのみ決まる
ここで理解しておきたい重要なことは『タイヤ横力がゼロであれば、前後の反作用力は等しくなる』ことです。もし、このような前後の対称性が常に成立すのであれば、反作用力がミニ四駆の旋回性能に及ぼす影響はなくなるのですが、そうはなりません(汗)。

タイヤ横力の存在がその対称性を打ち崩してしまうのです。では、ここで改めてタイヤ横力を図に追加してみましょう。

前後で向きの異なるタイヤ横力が加わる
上の図に示すように、タイヤ横力はコース外向きの力コース内向きの力、二つのタイプに分けることができます。さらにここでポイントとなるのは、これらタイヤ横力の発生している位置(着力点)です。着力点はフロント側とリヤ側に分かれているため、次のようにしてコースの壁に作用します。

フロントのタイヤ横力
  • フロントローラーをコースの壁へと押し付けるように作用する
リヤのタイヤ横力
  • リヤローラーをコースの壁から遠ざけるように作用する

上記のような作用力が慣性力と一緒にコースの壁に作用するため、コースの壁からの反作用力は、フロント側は大きくなり、リヤ側が小さくなってしまうのです。これをミニ四駆における前後反作用力の非対称性と言います。


非対称性が引き起こすデメリット


では、この非対称性がどんなデメリットを引き起こすのでしょうか?ここで改めて、ミニ四駆の旋回を支配する反作用力に着目してみましょう。

反作用力を分力化する
上の図で注目すべき点は、反作用力が車体横方向に平行ではないということです。このため、図に示すようにフロントの反作用力をミニ四駆の前後方向と横方向に分力した時、その前後方向の分力は減速力になります。これに対して、リヤの反作用力は加速力になります。

この節の最初で仮定したように、もし前後の反作用力が等しいのであれば、上述の減速力と加速力は釣り合うために影響はゼロになります。しかし、ミニ四駆に伝わる反作用力は前後では同じではありませんから、その関係は常に『減速力>加速力』となってしまうのです。

ローフリクションタイヤ(引用元:タミヤ公式サイト)
この傾向はタイヤのグリップ力が高ければ高いほど顕著になり、コーナリングスピードは減少しますが、逆にグリップ力を下げることで減速力は小さくなり、より高いコーナリング速度が実現できます。これが公式大会においてローフリクションタイヤで多く使われる理由です。また、タイヤの接地幅を小さくしてもグリップ力が低減しますので、同様にコーナリング速度の向上が期待できます。

実証実験による効果の確認


ここまでは図と文章で解説しましたが『どうもピンと来ない…』という方も少なくないかと思います。実際に自分自身で実証実験ができればベストなのですが、なんと!実証実験の動画を公開している人気ミニ四駆YouTuber、【Woowa】しろっこさんの動画を発見しましたので、ここで紹介させて頂きたいと思います。



しろっこさんの動画では、セッティングによる性能の変化代を同一の走行条件で切り出しています。このため、とても信頼性の高い実証実験となっているのが特徴です。ぜひ参考にしてみてください。また、本動画の掲載に当たり、しろっこさんより事前承認を頂いております。本ブログへの掲載をご快諾頂き、本当にありがとうございました。

まとめ


以下、今回のまとめとなります。
  • タイヤ横力により前後の反作用力は同じにならない
  • フロント側の反作用力はリヤ側より大きくなる
  • 前後非対称の反作用力により、ミニ四駆には減速力が働く
  • タイヤのグリップ力を減らすとコーナリング速度が向上する
次回以降のブログでは、ちょっと理論寄りのトピックスになりますがミニ四駆のタイヤのスリップ角の定式化を紹介します。次回のブログ更新もどうぞお楽しみに!

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