2018年5月23日

F1なるほど基礎知識【ピットストップウィンドウとは?】前編

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セーフティカー出動に対するピットストップウィンドウ


F1を見ていると『う~ん、何だか良く分からない…』こんなことって少なくないと思います。そんな『う~ん』を減らして、F1ファンの皆さんにF1をもっと楽しんでもらいたい。そんな想いから始めることにしました、F1なるほど基礎知識シリーズ。題名がちょっと安易な感じですが(汗)、お付き合いください。

第一弾のお題は『ピットストップウィンドウ』についてです。この『ピットストップウィンドウ』にはいくつか種類があるのですが、今回は最も難解な『セーフティカー出動に対するピットストップウィンドウ』について取り上げたいと思います。

ピットストップ(引用元:Force India F1公式サイト)
初回から説明の難しいトピックスを自ら選んでしまいましたが(汗)、できる限り分かりやすい説明を心掛けて書いてみましたので、楽しんで頂ければ幸いです。

タイヤと規則の基礎知識


2018年現在、ピレリがタイヤをF1へ供給していますが、ドライタイヤだけで何と7種類(2019年シーズンになり5種類に減りました)もあります。パフォーマンスの高さ順に次のようなラインナップになっています。
  1. ハイパーソフト(ピンク)
  2. ウルトラソフト(パープル)
  3. スーパーソフト(レッド)
  4. ソフト(イエロー)
  5. ミディアム(ホワイト)
  6. ハード(アイスブルー)
  7. スーパーハード(オレンジ)
ピレリタイヤ
タイヤは柔らかいゴムであるほどラップタイムは速くなりますが、柔らかいがゆえに摩耗が激しく、ピークを過ぎるとタイムが著しく悪化します。一方で固いゴムのタイヤの場合では逆のことが起きます。つまり、タイムはさほど良くありませんが、そこそこのペースが比較的長続きするわけです。

一方で『う~ん…でも、なんでタイヤが7種類もあるのさ…』と疑問に感じる人も少なくないと思います。さらに規則により各チームは各グランプリ毎に7種類の中から3種類を選ばなくてはならないのですが、こうなってしまうとレースでどんなことが起きるのか予想・理解するのが難しくなってきます。

そこで、いったん話を単純化してみることにしましょう。7種類のタイヤのことは忘れて、まずは次の2つのことを覚えておくと良いでしょう。

・どのタイヤも、そのパフォーマンスを1レース維持することはできない

・決勝レース中は少なくとも2種類のタイヤを使用する義務がある

しかし、上の2つのことだけを知っていてもピットストップウィンドウの理解に辿り着くのは少し難しいかも知れません(汗)。この二つがどのようにピットストップウィンドウと関連することになるのか?今回のブログではもう少しだけ詳しく深掘りしていくことにしましょう。


タイヤのパフォーマンス変化とは?


F1のレースを観戦していると、レースペースが思ったほど上がらずに順位を落とすドライバーもいれば、逆に想定以上にレースペースが良く、順位を上げるドライバーもいます。このようなペースの良し悪しはどのように決まるのでしょうか?F1に限った話ではありませんが、一般的にレースペースは主に次の要因によって決まります。

・車両の総重量変化

・タイヤの性能劣化

現在のF1ではレーススタート時に燃料をフルタンク状態にしてスタートします。スタート後は燃料の消費により車両が軽くなっていくので、ラップタイムは速くなります。一方、周回数を重ねる毎にタイヤの性能は劣化していくので、ラップタイムは遅くなります。

そう、上の二つの要因はそれぞれ逆の現象を引き起こしているのです。実際には二つのことが同時に起きているのですが、その様子をグラフを使って段階的に図解していくことにしましょう。

①レース中に重量とタイヤ性能がどちらも変化しない場合

仮にレース中にマシンの重さも一定、タイヤ性能も一定で変わらないとしたら、ラップタイムはどうなるでしょうか?答えは簡単ですね?『ずっと同じペースで走れる』です。この状況をグラフにすると下のようになります(緑ライン)。以降、このラインが基準線となります。

ベースライン(Baseline)

②車両の重量は軽くなるが、タイヤ性能が劣化しない場合

次に、レース中の燃料消費によってマシン重量だけが変化すると仮定しましょう。この場合、ラップタイムは周回数を重ねるごとに速くなります。近年のF1では燃料がフルタンクの状態(約100kg)と予選時のほぼ空タンクの状態(約5kg)でおよそ3~4秒のラップタイム差があります。レース周回数を50周とすると1周あたり0.06~0.08秒ずつラップタイムが縮まる計算になります。この変化もグラフにしてみましょう(黄ライン)。これを燃料重量効果(Fuel Effect)と言います。

重量効果(Mass Effect)

③タイヤの性能変化だけが起きる場合

では、車両重量が変わることなくタイヤの性能変化のみが起きる場合を考えてみましょう。この場合は②とは逆にラップタイムは徐々に遅くなっていくのですが、その変化の様子が②とはちょっと異なります。タイヤを使い過ぎると急激に劣化してペースダウンしてしまうのです。この変化もグラフにしてみると次のようになります(ピンクライン)。このようなタイヤの性能劣化をデグラデーション(Degradation)と言います。

デグラデーション(Degradation)

④重量効果とデグラデーションが同時に起こる場合

実際のレースでは燃料重量効果とデグラデーションは同時に起こるので、上の②と③の効果を足し合わせれば、おおよそ実際のラップタイム変動になります。この様子もグラフにすると次のようになります(赤ライン)。参考までに②燃料重量効果(黄ライン)と③デグラデーション(ピンクライン)のグラフも透過色にして載せてみました。

二つの効果を重ね合わせる
スタートからしばらくは燃料重量効果がデグラデーションよりも優勢なのでペースアップしていきます。しかし、徐々にデグラデーションが強くなり、それぞれの影響が釣り合ったところでペースアップが頭打ちになります(上のグラフで言うと21周目)。それ以降の周回数では完全にデグラデーションが重量効果に対して優勢となるため、ペースダウンしてしまうのです。


タイヤ交換のタイミングとは?


レースでは装着したタイヤがペースダウンになる直前まで使い切ることが基本となります。つまりタイヤ交換のタイミングはペースアップがピークとなる周回となります。上記④の赤ラインのグラフで言うと21周目がピットインの対象となります。

ところで、現在のF1では金曜日に実施されるフリー走行1とフリー走行2、土曜日午前中に実施されるフリー走行3、合計3回のテスト走行の機会があります。この3回のフリー走行では予選を想定したパフォーマンスランを実施するのですが、これ以外にもやらなくてはならない重要なことがあります。

フリー走行は重要!(引用元:Force India F1公式サイト)
それはロングランと言われる決勝を想定したタイヤテストです。決勝で使うであろうタイヤのピークを把握して、ピットストップのタイミングを決めるのがロングランの目的です。フリー走行中盤から終盤にかけて、ベストタイムが更新されなくなることが多いのは、全てのチームがこのロングランに取り組んでいるからなのです。

このため、トラブルやクラッシュなどでフリー走行の機会や時間が失われたりすると、チームとしては本当に大きな痛手になります。仮にドライバーのミスでクラッシュをしてしまった場合、レースエンジニアやメカニックからは冷た~い視線がドライバーに向けられることは間違いないでしょう(笑)。

前編まとめ


以下、前編のまとめとなります。
  • F1のタイヤは複数種類あり、どのタイヤも性能低下を起こす
  • 2種類のタイヤ使用義務により、レース中に一度のピットストップが必要
  • ラップタイム変動は、燃料重量効果とタイヤのデグラデーションによって決まる
  • 上記二つの効果が釣り合った周回がタイヤパフォーマンスのピーク周回となる
以上が前編となります。いかがだったでしょうか?まだピットストップウィンドウにまでは至っていませんが、前編での内容をおさらいしつつ後編で解説します。次回のブログ更新をお楽しみに!

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