2019年9月28日

イギリスとレーシングカート①【文化編】

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イギリスのモータースポーツ文化


いきなりですが、ここに断言します。イギリスにおけるF1はサッカーに並ぶほどの超メジャースポーツです。ご近所のおばあちゃんともF1談義ができてしまうほど、モータースポーツの文化がイギリス人には浸透しており、老若男女問わず多くのイギリス人がF1チャンピンであるルイス・ハミルトンやジェンソン・バトンの名前を知っています。また、イギリスGPともなると全グランプリ中で最多の約34万人の観客が集まり、イギリスでも屈指の人気を誇る一大スポーツイベントと言えます。

引用元:BBCスポーツ公式サイト
その絶大なF1人気はイギリスの公共放送であるBBCのスポーツサイトからも伺い知ることができます。そのスポーツサイトでは、Footballのすぐ横にFormula 1の文字が並べられているのです(上画像の赤枠)。世界的な人気を誇るプレミアリーグに勝るとも劣らないほどにイギリス人の関心がある…それがF1というスポーツなのです。

イギリスでのモータースポーツ人気はそれだけではありません。モータースポーツを自分たちで楽しむことにも絶大な人気があります。そこで今回のブログシリーズ『イギリスとレーシングカート』では、イギリスでのカートの文化とその楽しみ方について紹介します。

イギリスのカートコースとその特徴


このブログの執筆にあたり、ある調査をしてみました。それは『イギリスにはいくつのカートコースが存在しているのだろうか?』という調査です。イギリスのカート情報まとめサイト『UK Karting』を使って調べた結果、イギリスには屋外サーキット67ヶ所、屋内サーキット63ヶ所、合計で130ヶ所ものサーキットがあることが分かりました。

調査を始める前は『さすがに3桁もないだろう…』とタカをくくっていましたが、僕の予測を大きく上回る数で驚きました。その数の多さに加え、カートコースがビジネスとしてちゃんと成立していることにも驚きました。

引用元:Daytona公式サイト
次に、イギリスのカートコースの特徴について注目してみましょう。次のコース図を見てください。僕の現在のホームコースDaytona Milton Keynesのコース図で、その全長は1360mです。

引用元:Daytona公式サイト
日本では1000mを超えるカートコースはそう多くありませんが、イギリスでこの規模のコースは標準サイズです。そして、驚くべきことはこの規模でありながらもDaytonaは『レンタルカート』専業であることです。

さて、他のコースにも注目してみましょう。実はイギリスには世界的に見ても特徴的な立体交差を備えるコースがあります。そのコースとはロンドンから200㎞ほど北にあるPF Internationalです。2017年にFIAカート世界選手権を観戦するために訪れたことがあるのですが、カートコースとしてはケタ違いの規模に驚愕したことを記憶しています。

引用元:PF International公式サイト
元々のコースは立体交差のない平面的なレイアウトだったそうですが、オーナーが改修を決意した結果、立体交差化されたようです。また、FIAカート世界選手権が開催されるなど国際格式のコースでありながら、レンタルカートも営業しておりSODIカートで国際格式のコースを楽しむことが可能です。


レンタルカートのスタンダード


近年、ヨーロッパでレンタルカートと言えばSODIカートという程までにSODI製のレンタルカートが普及しています。フランス在住時に足繁く通っていたリヨン郊外のアウトドアカートコース Actuaや、リヨンの街の南にあるインドアカートKart-InでもSODIカートでした。イギリスのアウトドアサーキットでも多くのカートコースがSODIカートを導入しています。

SODI RT8(引用元:SODI Kart公式サイト)
搭載されているエンジンはHONDAのGX390で、GXシリーズの中で最もパワフルなタイプ。日本ではGX270が主流のようですが、コース規模の大きいヨーロッパではGX390が主流です。Daytona Milton Keynesのコースでは平均時速が約70km/hで、最高速も85km/hですので、レーシングカートに近い速度域で走らせることができます。

難点は安全性、耐久性、快適性の追求に起因する重さでしょうか。最高速は伸びますが、その重さ故に従来のレンタルカート(Birel N35)に比べるとコーナリングでの軽快感に劣ります。また、ステアリングジオメトリにちょっとクセがあるようで、速く走らせるためにはちょっとしたコツを学ぶ必要がありそうです。

引用元:SODI World Series公式サイト
しかし、SODIカートの凄いところは、SODI WORLD SERIESというレンタルカートでの世界戦を開催していることです。もちろん日本からのエントリー可能ですので、その世界戦を目指して頑張ってみるのも楽しいかも知れません。なお、エントリー方法についての詳細は公式サイトを確認してみてください。

イギリス人のレーシングメンタリティ


日本とイギリスでは多くの違いがあれど、その中での最大の違い。それがレーシングメンタリティです。職場のカートサークルのレースに初めて参加した時に驚いたこと。それは日本では考えられない程にハードなオーバーテイクが繰り広げられることです。日本であれば確実に『マナー違反!』と激しいクレームが出るレベルです。

空いているインを体当たりで差すのも日常茶飯事…
一般のカートコースで主催されているオープンレースであっても、そのメンタリティは変わりません。そんなハードなレーススタイルでもレースが終われば『いやぁ、いいレースだったね!』とケロっとライバルと握手し合うのです。今となっては僕も同じメンタリティに染まっているかも知れませんが…。

そんなモータースポーツの本場、イギリスでのレンタルカートを機会があればぜひ経験してもらいたいのですが、次回のブログではイギリス現地でのレンタルカートの具体的な楽しみ方を紹介したいと思います。どうぞお楽しみに!

[つづきはコチラ]

2019年8月25日

ミニ四駆の運動と制御-第5章-

[前回のブログ]
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長きに渡る技術テーマ、空力


ミニ四駆の30年以上にもなる長い歴史の中、多くのミニ四駆ファンが抱いてきた疑問があります。それは『ミニ四駆に空力は必要か?』という疑問です。ミニ四駆の1/32というスケールゆえ、その効果は『ほとんどない、もしくはあっても限定的なのではないか?』という考えが多いかも知れません。

Dancing Dall(引用元:タミヤ公式サイト)
また、F1と異なりミニ四駆の走行速度域は一般的には25~35km/h程度です。このような速度域は空力効果が限定的と考える根拠にもなってきたようですが、僕の至った結論は少し異なるものでした。今回のブログでは僕が至った結論と、ミニ四駆における空力の考え方について紹介したいと思います。

ダウンフォースとミニ四駆


一般的にダウンフォースはコーナリングスピードを高めるために活用されます。ダウンフォースによりタイヤを路面に押し付け、タイヤが発生する横力を増加させるわけです。しかし、ミニ四駆では少し話が異なります。前々回のブログで解説した通り、車両にはタイヤの横力に起因する減速力が働きます。このため、ミニ四駆にウイングなどでダウンフォースを発生し横力を増加させると、更なる減速力を生み出してしまうのです。

コース壁からの反作用力による減速力
また、ウイングはダウンフォースを発生するだけでなくドラッグ(空気抵抗)も発生するため、最高速が伸びなくなるというデメリットもあります。このため、直線距離の締める割合が大きいコースレイアウトでは速さを発揮することができません。

『なんだ…やっぱり空力はミニ四駆には必要ないんじゃん…』

このように思ったかも知れません。コーナリングスピードを高めることを目的とするのであれば、確かにミニ四駆に空力は不要という結論になります。しかし、現在のミニ四駆のサーキットの特性を考慮すれば、新たな空力効果の活用の可能性が見出すことができるのです。


サーキットレイアウトの変遷


1988年に初開催されたジャパンカップ。その決勝の舞台となったサーキットがウルトラグレートダッシュサーキットです。予選レースでのレイアウトはもっとシンプルでしたが、この決勝用のサーキットも今となってはシンプルな印象を受けると思います。

(引用元:タミヤ公式サイト)
ここで2016年のレイアウトと1988年のレイアウトを比較すると、その違いは歴然です。コースの全長が伸びているのはもちろん、ミニ四駆がジャンプするセクションが多数設置されています。このようなサーキットのポイントは、ミニ四駆の平面的な動きに上下方向が加わることで三次元的な運動になることです。このため、1988年のようなサーキットレイアウトに比べると格段にコースアウトのリスクが高くなっています。

(引用元:タミヤ公式サイト)
今年(2019年)のジャパンカップのサーキットレイアウトはさらに進化し、これまでにないギミックもサーキットに織り込まれています。また、デジタルカーブとドラゴンバックが連続するなどコースアウトを誘発するレイアウトになっています。現在のミニ四駆競技は、ただ速いだけのマシンでは完走できず勝つことができません。スピードを適切にコントロールし、速さとコースアウトのリスクを上手にバランスさせることがとても重要になっているのです。

三次元運動を制御するには?


では、サーキットで三次元的に動くミニ四駆のコースアウトのリスクを下げるにはどうしたら良いのか?この課題の解決に活用できそうなものはないか?そんなことを考えている時にヒントとなったのがバギーRCカーのウイングでした。

バギーRCカー用フロントウイング(引用元:TEAM AZARASHI)
バギーRCカーにとってジャンプ時の姿勢コントロールは着地後のトラクション(加速)性能を左右する重要なファクターです。速度域はRCカーの方が比較的速いものの、ミニ四駆の重量を考えれば十分に効果は見込めると考えたのです。

次回のブログではバギーRCカーのようなウイングをどのように再現したのか?また、その狙いと考え方を具体的に紹介します。次回更新もどうぞお楽しみに!

[続きはコチラ]

2019年5月30日

ミニ四駆の運動と制御-第4章-

[前回のブログ]
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タイヤスリップ角の定式化


前回のブログでは、コースの壁からの反作用力がミニ四駆に減速をもたらすことを解説しましたが、今回のブログは詳細に現象を理解するため、各タイヤにおけるスリップ角を定式化します。さらに得られた式からミニ四駆のセッティングとの関連性について考察します。

ダッシュ4号キャノンボール
(引用元:タミヤ公式サイト)
なお、今回のブログは安部正人氏の著書『車両の運動と制御』の第3章に記載のスリップ角の導出をより詳細に解説した内容となっています。車両運動を勉強し始めた学生や、学生フォーミュラのシャシー担当の学生にも参考になれば幸いです。

車両仕様パラメータの定義


まず初めに、定式化に必要となるパラメータを定義する必要があります。次の図にパラメータをまとめてみました。基本的な諸元は一般的な乗用車とほぼ同一ですが、自転中心は車両重心ではなく、前後ローラー間ホイールベースの中心にあることに注意してください。

図(1)諸元一覧
それぞれのパラメータは次のように定義しました。また、正負の定義は車両前方、右方向、時計回りをプラスとしています。今回は特に単位は記載していませんが、SI単位系に準拠するとします。

諸元パラメータ一覧
スリップ角は次の二段階で定式化を進めていくこととします。
  1. 各タイヤの自転による移動速度ベクトルの定式化
  2. 各タイヤの公転による移動速度ベクトルとの合成
なお、上記1および2それぞれの定式化では車両の自転中心に固定された車両座標系を前提としていることに注意してください。


タイヤの自転による移動速度ベクトル


最初に自転による移動速度ベクトルのみを定式化します。タイヤの接地点には次の図に示すように速度ベクトルが発生しており、自転中心とタイヤ接地点の距離および角速度から速度ベクトルを求めることができます。

図(2)自転運動による各タイヤの速度ベクトル
ここで、便宜的に図(2)に示す車両座標系(車両前後方向をx軸、車両横方向をy軸)に基づき、図中の速度ベクトルを分解すると図(3)のようになります。

図(3)各タイヤの速度ベクトルの分解
次に図中の四つのベクトルのx方向とy方向成分を求めます。ここで、各タイヤの自転による速度ベクトルの添え字はタイヤの位置を表します。
  • FL : Front Left
  • FR : Front Right
  • RL : Rear Left
  • RR : Rear Right
各タイヤの速度ベクトルの大きさは自転中心とタイヤ接地点の幾何学的関係によって求まり、次式のように表されます。

式群(1)各タイヤの自転速度ベクトルのx軸およびy軸の成分
それぞれのタイヤに発生している速度ベクトルの大きさ、および車両前後方向の中心線とタイヤ接地点中心の成す角度は、車両諸元と自転中心周りの角速度より定式化することができ、次のように表されます。

式群(2)自転速度ベクトルの大きさと角度の正弦・余弦
上記の式群(2)を式群(1)に代入すると、結果的に次のようにシンプルに定式化されることが分かります。

式群(3)整理後の自転速度ベクトルの大きさ
上記式群(3)は自転による速度ベクトルですから、これらに公転による速度ベクトルを足し合わせる必要があります。今回は左右のローラー軸間距離がフロントとリヤで等しいとしているため、公転による速度ベクトルは車両座標系のx軸方向にのみ速度成分を持ちます。つまり式群(4)に示す各x成分に公転の速度Vを足し合わせるだけでOKです。ベクトル合成の結果を次の図(4)に示します。

図(4)自転ベクトルと公転ベクトルの合成
なお、前後で左右のローラーの軸間距離を不等長とした場合、自転の回転中心周りに定常的な車両スリップ角が発生します。このため、もう少し複雑な式になるのですが、労力と時間の都合上、今回のブログでは割愛させて頂きます(汗)。興味のある方はぜひ定式化にチャレンジしてみてください。

さあ、ようやく自転と公転それぞれの速度ベクトル成分を足し合わせる段階まできました。上述の通り、式群(3)に示されている自転速度ベクトルのx成分に速度Vを足せば次の式群(4)を得ます。

式群(4)公転速度V加算後の速度ベクトルの大きさ
各タイヤのx軸とy軸方向成分が導出できたので、あとは式群(4)を使ってスリップ角を求めるのみです。ここでは、三角関数の近似を適用せず、正接の逆関数で各タイヤのスリップ角を求めることとします。

式群(5)各タイヤのスリップ角
安部正人氏の著書『車両の運動と制御』の第3章では、スリップ角が十分に小さいと仮定し三角関数の近似を適用しているため、もっとシンプルな式になります。しかし、ミニ四駆の場合は近似を適用できるほどタイヤスリップ角が小さくなりそうにないため、近似はせず、逆三角関数をそのままにしていることに注意してください。

ところで、ミニ四駆はコースの壁に沿って走行しているため、式群(5)に含まれる公転速度Vは、公転半径Rと自転の角速度ωの積に等しいという束縛条件を持ちます。この束縛条件を式群(5)に導入すれば、最終的に各タイヤのスリップ角は更にシンプルに次のように表されます。

式群(6)各タイヤのスリップ角(束縛条件適用後)
上記式群(6)の最大の特徴は、スリップ角が全て幾何学的な関係として表現されることです。つまり速度とは無関係にスリップ角が決まるのです。ただし、この束縛条件は定常的な旋回運動の時にのみ成立し、コーナーへの進入・脱出時の過渡的な旋回運動では成立せず、タイヤスリップ角は速度依存性を持ちます。

まとめ


今回のブログでは、タイヤスリップ角の定式化について取り組んだ結果、次のことが分かりました。
  • タイヤスリップ角がホイールベースとトレッド幅に依存する
  • タイヤスリップ角は左右間で異なり、その差異はトレッド幅によって決まる
  • 束縛条件を適用すると、タイヤスリップ角の速度依存性が消える
  • ただし、その束縛条件はコーナー進入・脱出時には適用できない
ここで分かったことを元にコーナリング速度の向上策を考えるならば、『トレッド幅を大きく』しつつ『車両のロール運動を誘発するローラーセッティングを施す』ことなどが挙げられます。

トレッド幅を大きくした場合、外側タイヤのスリップ角は減少する一方で内側タイヤのスリップ角は増加してしまいます。そこで、車両のロールを誘発するローラーセッティングとすることで内側タイヤの荷重を減らす(もしくは接地させない)ことで、内側タイヤの影響を小さくする…というのがこのセッティングの狙いです。

今回のブログの内容は理論に終始したため少々難しく感じたかも知れませんが(汗)、次の最終回では空力とミニ四駆の運動の関係性について解説したいと思います。次回ブログの更新もどうぞお楽しみに!

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