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2020年5月1日

ミニ四駆の運動と制御-第8章-

[前回のブログ]
[重要なお知らせ(Important notification)]


RCバギーでは必須の空力デバイス


これまでのブログでは翼型ウイング、ディフューザについて考察しました。その結果、どちらも有意ある効果を得ることは難しいということが分かりました。それではエアダム型ウイングはどうでしょうか?

シューティングプラウドスター
(引用元:タミヤ公式サイト)
エアダム型ウイングはRCバギーの世界では必須アイテムとも言える空力パーツですが、その目的は一つではなくジャンプ時の姿勢制御にも活用されています。今回のブログでは、このようなウイングの特徴と理論について考察します。

エアダム型ウイングの特徴


まずはエアダム型ウイングがどのようにしてダウンフォースを発生するのか?そのメカニズムについて簡単に解説してみたいと思います。翼型ウイングがウイング下面に負圧を発生させることでダウンフォースを得る一方、エアダム型ウイングでは上面に正圧を発生させることでダウンフォースを発生させます。

エアダム型ウイングにおける空気流れのイメージ
(引用元:Team AZARASHI)
上図に示す様に、ウイング上面において空気を停留させる流れにすることで正圧が発生します。ウイング下面の流れに関わらず、上面の正圧さえ確保できれば容易にダウンフォースが得られることから、RCカーやミニ四駆などで有意ある効果が期待できそうです。しかし、その形状からも想像できるように、空気抵抗の大きさが想定以上に最高速度の低下を招く懸念がありそうです。


エアダム型ウイングと揚抗比の関係


一般的な話で言えば、旅客航空機にエアダム型ウイングは採用されていません。なぜなら、得られる浮力(Lift Force)の大きさに対して空気抵抗力(Drug Force)が小さいことが旅客航空機には求められるからです。この浮力と抵抗力のバランスを評価するためのパラメータとして、揚抗比L/D(浮力÷抵抗力)が用いられます。

それでは例によってムーンクラフトの空力エンジニアの神瀬氏に登場してもらい、エアダム型ウイングとその揚抗比についての見解を聞いてみましょう。

神瀬エンジニアの見解

自分
『空力効果を得ることが難しい速度域で走るミニ四駆でも、エアダム型ウイングならそれなりに効果が見込めるのでは?と考えたのだけれども、その点についてはどう考える?』


神瀬エンジニア
『ミニ四駆の速度域での超低レイノルズ数流れにおいては、エアダム型ウイングが一番効果が見込めると思います。ミニ四駆のボディ形状なども考慮すると、この手法が最も手っ取り早いと言えますね。』


自分
『懸念事項は?』

神瀬エンジニア
『空気抵抗が翼型ウイングやディフューザに比べると大きくなることですね。揚抗比としては不利になりそうですが、実は揚抗比に関してちょっと興味深い研究結果があるんですよ。』

アメリカのハーバード大学が開発した小型飛行ロボット
(引用元:ハーバード大学公式YouTube)

自分
『ほう。それは?!』


神瀬エンジニア
『近年、昆虫型マイクロ飛行ロボットの研究開発が盛んなのですが、トンボの羽のような薄板形状ウイングが採用されています。そして、超低レイノルズ数流れにおいては、揚抗比が翼型ウイングよりも良いという結果が得られているそうです。』


自分
『それは興味深い…』


神瀬エンジニア
『はい。エアダム型ウイングの空気抵抗が、翼型ウイングのそれと比べて小さいということはないはずですが、もしかしたら板形状ウイングの一種とも言えるエアダム型ウイングの揚抗比は思うほど悪くないかも知れません。』


エアダム型ウイングのまとめ


エアダム型ウイングについて『有意なレベルのダウンフォースの獲得が見込める』という結論を得ました。また、板形状ウイングは翼型ウイングに対し、超低レイノルズ数流れでの揚抗比において優れるという研究結果があることも分かりました。

さらに第6章~第8章の考察をまとめると『ミニ四駆にはエアダム型ウイングが最適』だと言えると思いますが、それではミニ四駆でそれをどう実現するのか?次回のブログではその実践例を紹介します。

次回更新もどうぞお楽しみに!

[つづく]

2020年4月1日

ミニ四駆の運動と制御-第7章-

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ディフューザについて考察する。


前回のブログでは翼型ウイングについて、ムーンクラフトの神瀬エンジニアと一緒に考察しました。今回のテーマは『ディフューザ(Diffuser)』です。F1やモータースポーツを良く知る人にとってはお馴染みの空力デバイスです。

ゴッドバーニングサン
(引用元:タミヤ公式サイト)
ディフューザについて良く知らない…という人もいると思うので、まずはその仕組みを簡単に紹介します。その次に、神瀬エンジニアとの考察を紹介したいと思いますが、その考察の中で『超低レイノルズ流れ』というキーワードが登場します。

果たして、このキーワードがミニ四駆の空力とどのように関係してくるのでしょうか?

ディフューザ(Diffuser)とは?


車体底面の空気流れを利用してダウンフォースを得る空力デバイスがディフューザです。F1マシンを後ろから見ると、車体フロア面が持ち上がるようにして上方に反り返っている部分のことです。ちょっと年代は古いですが、次の写真は1992年のBenetton B192というF1マシンで、赤い鎖線で囲った部分がディフューザです。

F1におけるディフューザの搭載例
フロア(車体底面)の前方から流入した空気は、ディフューザを通過する時に空間が拡がることで流速が上昇します。そして、下図に示す平面フロア後端の周辺圧力が低下することで、フロア上面との圧力差によるダウンフォースが発生します。

ディフューザによるダウンフォース発生メカニズムの概念図
このようなメカニズムでディフューザはダウンフォースを発生するのですが、果たしてミニ四駆では有効と言える程の効果が期待できるのでしょうか?


超低レイノルズ流れという障壁


それではここで前回と同様に、ムーンクラフトで空力エンジニアとして活躍している神瀬氏にアドバイザーとして登場してもらいましょう。

神瀬エンジニアの見解

自分
『翼型ウイングに続いて今度はディフューザについて。まず、僕の結論から言うと、ディフューザはミニ四駆においては十分な効果を期待できないと思う。その理由は次の3点。

①絶対的な速度が低い
②効果が見込めるディフューザ形状を作るのが難しい
③路面とフロア間の距離が安定しない

神瀬エンジニア
『ところで、ミニ四駆だとディフューザの代表長さはどれくらいですか?』


自分
『おおよそだけど、MAシャシーで最大80mmくらい。』

MAシャシー底面部
(引用元:タミヤ公式サイト)

神瀬エンジニア
『車速が最大30km/hでしたよね?ちょっと待ってください(←何やら計算を始める)。レイノルズ数を計算してみましたが、およそRe=4.42×104で、超低レイノルズ流れに相当します。通常のレーシングカーのレイノルズ数のレンジがRe=105~106なのに対し、ミニ四駆の場合は2桁もオーダーが小さいことになります。』


自分
『2桁も違うと、だいぶ大きな差だね(汗)。』


神瀬エンジニア
『なので、このような超低レイノルズ数だと、レーシングカーに期待されるレベルの効果が得られるかというと難しいと思います。ただ、非常に安定した走行条件下であれば、数グラム程度のダウンフォースが得られるかも知れません。』


自分
『ちなみにミニ四駆がジャンプすると…』


神瀬エンジニア
『お察しの通りダウンフォースは一切発生しません。地面あってのディフューザなので。僕の結論としては、ミニ四駆にディフューザは無いよりはあった方がいいけれども、過度な期待はできないかな…という感じです。ただし、ディフューザは使い方によってはリフトフォースを発生し兼ねないので、F1のような大きな形状のディフューザである必要はないです。』


ディフューザ~まとめ


『ディフューザによって有意なダウンフォースを得ることができのか?』という問いに対する結論は『非常に限定的』というものでした。

ミニ四駆の走行するサーキットの路面は完璧な平坦ではなく、最低地上高が絶え間なく変動します。このため、安定した効果を期待することはやはり難しいと言えそうです。今回、ディフューザについては少々厳しい結論に至りましたが、超低レイノルズ流れに関する調査の中で非常に興味深い文献を発見しました。

次回のブログではエアダム型ウイングについて考察しつつ、その文献の内容についても紹介したいと思います。次回更新もどうぞお楽しみに!

[つづきはコチラ]

2020年3月30日

ミニ四駆の運動と制御-第6章-

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空力の適用方法を考察する。


前回のブログでは、空力効果によってミニ四駆のジャンプ時の姿勢をコントロールすれば、コースアウトのリスクが低くなり、安定した走行が実現できるのでは?という仮説を紹介しました。今回のブログではその仮説の背景にある考察を紹介します。

ライズエンペラー
(引用元:タミヤ公式サイト)
僕のF1での仕事は車両運動性能の最適化や分析ですが、その仕事の中で空力効果についても取り扱うことになります。しかし、空力そのものが専門ではないため『空力のブログテーマでは専門的な人の見解が欲しいよなぁ』と考えました。

そこで今回のテーマでは特別にムーンクラフトで空力開発に携わる神瀬エンジニアに協力を仰ぎ、アドバイスを監修して頂きました。

もしかしたらこのブログをキッカケに、ミニ四駆における空力デバイスの存在感が今まで以上に高まるかも?知れません。果たして空力を活用する可能性を見出せるのでしょうか?!

空力デバイスの候補


まず初めに、ミニ四駆に活用できそうな空力デバイスを三つリストアップしてみました。
  • 翼型ウイング
  • ディフューザー
  • エアダム型ウイング
ミニ四駆のウイングと言えば、グレードアップパーツでは可変リヤウイングA、ミニ四駆キットではブラックセイバーなどの翼型ウイングがあります。 また、ディフューザーについてはMAシャシーなどでその効果を狙ったと思われる形状もあります。

ブラックセイバー
(引用元:タミヤ公式サイト)
この他にも様々なグレードアップパーツやミニ四駆キットに空力デバイスが見られますが、今回はこの三つの代表的な空力デバイスに絞って考察してみます。


翼型ウイング(Aerofoil)


空力デバイスとしてのウイングと言えば、最初に思いつくのが翼型ウイングです。このウイングの特徴は、ウイングの背面と腹面の空気流れに速度差を発生させ、ウイングの背面と腹面間の圧力差でダウンフォースを得ることです。

F1のリヤウイング
(引用元:Racing Point F1 Team公式サイト)
このタイプのウイングは空気抵抗を抑えつつ、ダウンフォースを効率的に得られることで知られていますが、ミニ四駆には最適なのでしょうか?ここでムーンクラフトの空力エンジニアである神瀬氏の見解を対話形式で紹介します。

神瀬エンジニアの見解

自分
『F1や航空機はこのタイプのウイングが一般的。でも、サイズも小さくて速度域の低い(最大30km/h程度)ミニ四駆だと有意性のあるダウンフォース量は得られないと思っているけど、これについてどう考える?』


神瀬エンジニア
『このタイプのウイングで気を付けるポイントはウイング背面の流れですね。速度は最大30km/hと仮定して、ミニ四駆のボディ形状とウイング搭載位置を考慮すると、ウイング背面の流れにおいて剥離が起きてしまうと思います。』

翼型ウイングの空気流れの概念図

自分
『つまり、ウイング背面に剥離が起きることで、ウイング腹面との圧力差を発生させることは難しいということ?』


神瀬エンジニア
『はい。特にミニ四駆の場合、ボディ形状が複雑なのでウイング背面に乱れのないキレイな流れを導くことが難しそうですよね。なので、この翼型ウイングで有意性のある力を得ることはちょっと難しそうです。』

Photo By Isaias Malta
CC BY-SA 2.0, from Wikipedia

自分
『ふむふむ、なるほど。』


神瀬エンジニア
『ただし、ウイング搭載位置を高くすれば。(上の写真のような)1960年代のF1のように、ウイング背面に乱れのないキレイな流れを確保することができれば、それなりの効果が期待できるとは思います。』


自分
『ミニ四駆の公式レースの規定では最大70mmまでの高さが許容されているから、マウント位置を高くしてキレイな流れを確保することも出来なくもない。』

スワンネック型ウイングマウント
(画像引用元:NISMO公式サイト)

神瀬エンジニア
『モータースポーツの世界ではスワンネック式のマウントってありますよね。あれってウイング背面の流れを乱さないようにするためなんです。とにかく背面の流れを意識する必要があります。』


自分
『う~ん…高さを確保することはできそうだけど、マウント方式やその強度、ウイングのアスペクト比を総合的に考えると、翼型ウイングの発生する力の絶対値は期待するほど得られないかもね。』


神瀬エンジニア
『はい、そんな感じがしますね(汗)。』

翼型ウイング~まとめ


翼型ウイングはその搭載位置を最適化すればダウンフォースを発生させることは可能だが、その発生量は十分ではなさそう…というのが僕と神瀬エンジニアが至った結論です。

また、レーシングカーでは走行中の車体姿勢変化が小さいため、安定した空力性能を期待できますが、ミニ四駆ではジャンプ中の車体姿勢変化により、その効果が大きく変化すると想定されます。

ジャパンカップ公式サーキット
(引用元:タミヤ公式サイト)
前回のブログでも解説したように、近年の公式大会のサーキットレイアウトでは、車体姿勢に影響を受けることなく安定した性能が求められます。このことから、翼型ウイングはミニ四駆にとってはベスト…とはどうやら言えなさそうです。

では、ディフューザーはどうでしょうか?その考察については次章にて!次回のブログ更新もどうぞお楽しみに。

[続きはコチラ]

2019年8月25日

ミニ四駆の運動と制御-第5章-

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長きに渡る技術テーマ、空力


ミニ四駆の30年以上にもなる長い歴史の中、多くのミニ四駆ファンが抱いてきた疑問があります。それは『ミニ四駆に空力は必要か?』という疑問です。ミニ四駆の1/32というスケールゆえ、その効果は『ほとんどない、もしくはあっても限定的なのではないか?』という考えが多いかも知れません。

Dancing Dall(引用元:タミヤ公式サイト)
また、F1と異なりミニ四駆の走行速度域は一般的には25~35km/h程度です。このような速度域は空力効果が限定的と考える根拠にもなってきたようですが、僕の至った結論は少し異なるものでした。今回のブログでは僕が至った結論と、ミニ四駆における空力の考え方について紹介したいと思います。

ダウンフォースとミニ四駆


一般的にダウンフォースはコーナリングスピードを高めるために活用されます。ダウンフォースによりタイヤを路面に押し付け、タイヤが発生する横力を増加させるわけです。しかし、ミニ四駆では少し話が異なります。前々回のブログで解説した通り、車両にはタイヤの横力に起因する減速力が働きます。このため、ミニ四駆にウイングなどでダウンフォースを発生し横力を増加させると、更なる減速力を生み出してしまうのです。

コース壁からの反作用力による減速力
また、ウイングはダウンフォースを発生するだけでなくドラッグ(空気抵抗)も発生するため、最高速が伸びなくなるというデメリットもあります。このため、直線距離の締める割合が大きいコースレイアウトでは速さを発揮することができません。

『なんだ…やっぱり空力はミニ四駆には必要ないんじゃん…』

このように思ったかも知れません。コーナリングスピードを高めることを目的とするのであれば、確かにミニ四駆に空力は不要という結論になります。しかし、現在のミニ四駆のサーキットの特性を考慮すれば、新たな空力効果の活用の可能性が見出すことができるのです。


サーキットレイアウトの変遷


1988年に初開催されたジャパンカップ。その決勝の舞台となったサーキットがウルトラグレートダッシュサーキットです。予選レースでのレイアウトはもっとシンプルでしたが、この決勝用のサーキットも今となってはシンプルな印象を受けると思います。

(引用元:タミヤ公式サイト)
ここで2016年のレイアウトと1988年のレイアウトを比較すると、その違いは歴然です。コースの全長が伸びているのはもちろん、ミニ四駆がジャンプするセクションが多数設置されています。このようなサーキットのポイントは、ミニ四駆の平面的な動きに上下方向が加わることで三次元的な運動になることです。このため、1988年のようなサーキットレイアウトに比べると格段にコースアウトのリスクが高くなっています。

(引用元:タミヤ公式サイト)
今年(2019年)のジャパンカップのサーキットレイアウトはさらに進化し、これまでにないギミックもサーキットに織り込まれています。また、デジタルカーブとドラゴンバックが連続するなどコースアウトを誘発するレイアウトになっています。現在のミニ四駆競技は、ただ速いだけのマシンでは完走できず勝つことができません。スピードを適切にコントロールし、速さとコースアウトのリスクを上手にバランスさせることがとても重要になっているのです。

三次元運動を制御するには?


では、サーキットで三次元的に動くミニ四駆のコースアウトのリスクを下げるにはどうしたら良いのか?この課題の解決に活用できそうなものはないか?そんなことを考えている時にヒントとなったのがバギーRCカーのウイングでした。

バギーRCカー用フロントウイング(引用元:TEAM AZARASHI)
バギーRCカーにとってジャンプ時の姿勢コントロールは着地後のトラクション(加速)性能を左右する重要なファクターです。速度域はRCカーの方が比較的速いものの、ミニ四駆の重量を考えれば十分に効果は見込めると考えたのです。

次回のブログではバギーRCカーのようなウイングをどのように再現したのか?また、その狙いと考え方を具体的に紹介します。次回更新もどうぞお楽しみに!

[続きはコチラ]

2019年5月30日

ミニ四駆の運動と制御-第4章-

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タイヤスリップ角の定式化


前回のブログでは、コースの壁からの反作用力がミニ四駆に減速をもたらすことを解説しましたが、今回のブログは詳細に現象を理解するため、各タイヤにおけるスリップ角を定式化します。さらに得られた式からミニ四駆のセッティングとの関連性について考察します。

ダッシュ4号キャノンボール
(引用元:タミヤ公式サイト)
なお、今回のブログは安部正人氏の著書『車両の運動と制御』の第3章に記載のスリップ角の導出をより詳細に解説した内容となっています。車両運動を勉強し始めた学生や、学生フォーミュラのシャシー担当の学生にも参考になれば幸いです。

車両仕様パラメータの定義


まず初めに、定式化に必要となるパラメータを定義する必要があります。次の図にパラメータをまとめてみました。基本的な諸元は一般的な乗用車とほぼ同一ですが、自転中心は車両重心ではなく、前後ローラー間ホイールベースの中心にあることに注意してください。

図(1)諸元一覧
それぞれのパラメータは次のように定義しました。また、正負の定義は車両前方、右方向、時計回りをプラスとしています。今回は特に単位は記載していませんが、SI単位系に準拠するとします。

諸元パラメータ一覧
スリップ角は次の二段階で定式化を進めていくこととします。
  1. 各タイヤの自転による移動速度ベクトルの定式化
  2. 各タイヤの公転による移動速度ベクトルとの合成
なお、上記1および2それぞれの定式化では車両の自転中心に固定された車両座標系を前提としていることに注意してください。


タイヤの自転による移動速度ベクトル


最初に自転による移動速度ベクトルのみを定式化します。タイヤの接地点には次の図に示すように速度ベクトルが発生しており、自転中心とタイヤ接地点の距離および角速度から速度ベクトルを求めることができます。

図(2)自転運動による各タイヤの速度ベクトル
ここで、便宜的に図(2)に示す車両座標系(車両前後方向をx軸、車両横方向をy軸)に基づき、図中の速度ベクトルを分解すると図(3)のようになります。

図(3)各タイヤの速度ベクトルの分解
次に図中の四つのベクトルのx方向とy方向成分を求めます。ここで、各タイヤの自転による速度ベクトルの添え字はタイヤの位置を表します。
  • FL : Front Left
  • FR : Front Right
  • RL : Rear Left
  • RR : Rear Right
各タイヤの速度ベクトルの大きさは自転中心とタイヤ接地点の幾何学的関係によって求まり、次式のように表されます。

式群(1)各タイヤの自転速度ベクトルのx軸およびy軸の成分
それぞれのタイヤに発生している速度ベクトルの大きさ、および車両前後方向の中心線とタイヤ接地点中心の成す角度は、車両諸元と自転中心周りの角速度より定式化することができ、次のように表されます。

式群(2)自転速度ベクトルの大きさと角度の正弦・余弦
上記の式群(2)を式群(1)に代入すると、結果的に次のようにシンプルに定式化されることが分かります。

式群(3)整理後の自転速度ベクトルの大きさ
上記式群(3)は自転による速度ベクトルですから、これらに公転による速度ベクトルを足し合わせる必要があります。今回は左右のローラー軸間距離がフロントとリヤで等しいとしているため、公転による速度ベクトルは車両座標系のx軸方向にのみ速度成分を持ちます。つまり式群(4)に示す各x成分に公転の速度Vを足し合わせるだけでOKです。ベクトル合成の結果を次の図(4)に示します。

図(4)自転ベクトルと公転ベクトルの合成
なお、前後で左右のローラーの軸間距離を不等長とした場合、自転の回転中心周りに定常的な車両スリップ角が発生します。このため、もう少し複雑な式になるのですが、労力と時間の都合上、今回のブログでは割愛させて頂きます(汗)。興味のある方はぜひ定式化にチャレンジしてみてください。

さあ、ようやく自転と公転それぞれの速度ベクトル成分を足し合わせる段階まできました。上述の通り、式群(3)に示されている自転速度ベクトルのx成分に速度Vを足せば次の式群(4)を得ます。

式群(4)公転速度V加算後の速度ベクトルの大きさ
各タイヤのx軸とy軸方向成分が導出できたので、あとは式群(4)を使ってスリップ角を求めるのみです。ここでは、三角関数の近似を適用せず、正接の逆関数で各タイヤのスリップ角を求めることとします。

式群(5)各タイヤのスリップ角
安部正人氏の著書『車両の運動と制御』の第3章では、スリップ角が十分に小さいと仮定し三角関数の近似を適用しているため、もっとシンプルな式になります。しかし、ミニ四駆の場合は近似を適用できるほどタイヤスリップ角が小さくなりそうにないため、近似はせず、逆三角関数をそのままにしていることに注意してください。

ところで、ミニ四駆はコースの壁に沿って走行しているため、式群(5)に含まれる公転速度Vは、公転半径Rと自転の角速度ωの積に等しいという束縛条件を持ちます。この束縛条件を式群(5)に導入すれば、最終的に各タイヤのスリップ角は更にシンプルに次のように表されます。

式群(6)各タイヤのスリップ角(束縛条件適用後)
上記式群(6)の最大の特徴は、スリップ角が全て幾何学的な関係として表現されることです。つまり速度とは無関係にスリップ角が決まるのです。ただし、この束縛条件は定常的な旋回運動の時にのみ成立し、コーナーへの進入・脱出時の過渡的な旋回運動では成立せず、タイヤスリップ角は速度依存性を持ちます。

まとめ


今回のブログでは、タイヤスリップ角の定式化について取り組んだ結果、次のことが分かりました。
  • タイヤスリップ角がホイールベースとトレッド幅に依存する
  • タイヤスリップ角は左右間で異なり、その差異はトレッド幅によって決まる
  • 束縛条件を適用すると、タイヤスリップ角の速度依存性が消える
  • ただし、その束縛条件はコーナー進入・脱出時には適用できない
ここで分かったことを元にコーナリング速度の向上策を考えるならば、『トレッド幅を大きく』しつつ『車両のロール運動を誘発するローラーセッティングを施す』ことなどが挙げられます。

トレッド幅を大きくした場合、外側タイヤのスリップ角は減少する一方で内側タイヤのスリップ角は増加してしまいます。そこで、車両のロールを誘発するローラーセッティングとすることで内側タイヤの荷重を減らす(もしくは接地させない)ことで、内側タイヤの影響を小さくする…というのがこのセッティングの狙いです。

今回のブログの内容は理論に終始したため少々難しく感じたかも知れませんが(汗)、次の最終回では空力とミニ四駆の運動の関係性について解説したいと思います。次回ブログの更新もどうぞお楽しみに!

[続きはコチラ]

2019年4月28日

ミニ四駆の運動と制御-第3章-

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タイヤと旋回性能を考える


前回のブログではスリップ角の考え方とタイヤ横力の発生メカニズムについて解説しましたが、今回のブログではそのタイヤ横力がミニ四駆の旋回運動にどのような影響を及ぼしているのかを解説します。

ダッシュ3号シューティングスター
(引用元:タミヤ公式サイト)
最近のミニ四駆の公式大会ではマルーンタイヤと呼ばれる低フリクションのタイヤが選ばれることが多いようですが、なぜ低フリクションのタイヤが好んで使われるようになったのか?その技術的な理由についても今回のブログで明かしていきます。

前後で異なる反作用力


一定速度で旋回走行するミニ四駆には慣性力(見かけ上の力である遠心力)が働いており、その慣性力は反作用力の大きさと等しくなります。ここでは簡単な理解のため、いったんタイヤ横力をゼロと仮定してみましょう。下の図は、このような状況下におけるミニ四駆の力関係を示しています。

慣性力と前後の反作用力の関係
この時、ミニ四駆に働くそれぞれの力には、一般的に次の関係が成り立つことになります。
  • 前後の反作用力の大きさは等しい
  • 前後の反作用力のベクトル和の大きさは、慣性力の大きさに等しい
  • 慣性力の大きさは、旋回半径と速さによってのみ決まる
ここで理解しておきたい重要なことは『タイヤ横力がゼロであれば、前後の反作用力は等しくなる』ことです。もし、このような前後の対称性が常に成立すのであれば、反作用力がミニ四駆の旋回性能に及ぼす影響はなくなるのですが、そうはなりません(汗)。

タイヤ横力の存在がその対称性を打ち崩してしまうのです。では、ここで改めてタイヤ横力を図に追加してみましょう。

前後で向きの異なるタイヤ横力が加わる
上の図に示すように、タイヤ横力はコース外向きの力コース内向きの力、二つのタイプに分けることができます。さらにここでポイントとなるのは、これらタイヤ横力の発生している位置(着力点)です。着力点はフロント側とリヤ側に分かれているため、次のようにしてコースの壁に作用します。

フロントのタイヤ横力
  • フロントローラーをコースの壁へと押し付けるように作用する
リヤのタイヤ横力
  • リヤローラーをコースの壁から遠ざけるように作用する

上記のような作用力が慣性力と一緒にコースの壁に作用するため、コースの壁からの反作用力は、フロント側は大きくなり、リヤ側が小さくなってしまうのです。これをミニ四駆における前後反作用力の非対称性と言います。


非対称性が引き起こすデメリット


では、この非対称性がどんなデメリットを引き起こすのでしょうか?ここで改めて、ミニ四駆の旋回を支配する反作用力に着目してみましょう。

反作用力を分力化する
上の図で注目すべき点は、反作用力が車体横方向に平行ではないということです。このため、図に示すようにフロントの反作用力をミニ四駆の前後方向と横方向に分力した時、その前後方向の分力は減速力になります。これに対して、リヤの反作用力は加速力になります。

この節の最初で仮定したように、もし前後の反作用力が等しいのであれば、上述の減速力と加速力は釣り合うために影響はゼロになります。しかし、ミニ四駆に伝わる反作用力は前後では同じではありませんから、その関係は常に『減速力>加速力』となってしまうのです。

ローフリクションタイヤ(引用元:タミヤ公式サイト)
この傾向はタイヤのグリップ力が高ければ高いほど顕著になり、コーナリングスピードは減少しますが、逆にグリップ力を下げることで減速力は小さくなり、より高いコーナリング速度が実現できます。これが公式大会においてローフリクションタイヤで多く使われる理由です。また、タイヤの接地幅を小さくしてもグリップ力が低減しますので、同様にコーナリング速度の向上が期待できます。

実証実験による効果の確認


ここまでは図と文章で解説しましたが『どうもピンと来ない…』という方も少なくないかと思います。実際に自分自身で実証実験ができればベストなのですが、なんと!実証実験の動画を公開している人気ミニ四駆YouTuber、【Woowa】しろっこさんの動画を発見しましたので、ここで紹介させて頂きたいと思います。



しろっこさんの動画では、セッティングによる性能の変化代を同一の走行条件で切り出しています。このため、とても信頼性の高い実証実験となっているのが特徴です。ぜひ参考にしてみてください。また、本動画の掲載に当たり、しろっこさんより事前承認を頂いております。本ブログへの掲載をご快諾頂き、本当にありがとうございました。

まとめ


以下、今回のまとめとなります。
  • タイヤ横力により前後の反作用力は同じにならない
  • フロント側の反作用力はリヤ側より大きくなる
  • 前後非対称の反作用力により、ミニ四駆には減速力が働く
  • タイヤのグリップ力を減らすとコーナリング速度が向上する
次回以降のブログでは、ちょっと理論寄りのトピックスになりますがミニ四駆のタイヤのスリップ角の定式化を紹介します。次回のブログ更新もどうぞお楽しみに!

[つづきはコチラ]

2019年4月6日

ミニ四駆の運動と制御-第2章-

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ミニ四駆に作用する力


前回のブログでは旋回運動の成り立ちとタイヤスリップ角について解説しました。今回のブログでは、ミニ四駆にはどのような力が作用しているのか?これを段階的に解説したいと思います。

ダッシュ2号バーニングサン(引用元:タミヤ公式サイト)
乗用車では地球からの重力や空気抵抗力などの外力を受けますが、その旋回運動はタイヤの発生する横力によって成り立っています。しかし、操舵機能を持たないミニ四駆はコースに沿って走行するため、ちょっと特殊なメカニズムで旋回運動をすることになるのですが、その詳細とは…?

作用・反作用の法則と旋回運動


さっそく次の図を見てみましょう。この図はミニ四駆が半径一定のコースを一定速度で旋回走行している様子を表しています。

コースの壁からの反作用力による旋回
この時、ミニ四駆はコースの壁にローラーを押し付け(作用)ながら走行していますが、コースの壁はミニ四駆をコースに留めようとするためミニ四駆を押し返します(反作用)。これがいわゆる中学校の物理で学習する『作用・反作用の法則』です。

ここでしっかり理解しておきたい重要な点は、乗用車ではハンドル操作によって生み出されたタイヤの横力で旋回運動が始まるのに対して、ミニ四駆は『コースの壁から受ける反作用力により旋回運動をする』(図中の青矢印)ということです。

また、コースの壁に沿って走行するミニ四駆の場合、前後のローラーが受ける反作用力は必ずしも同じ大きさにはならず、フロント側の反作用力が大きくなるという特徴があります。その理由は後述することとして、次節では反作用力に続く第二の力に着目してみましょう。


タイヤ横力の発生メカニズム


ミニ四駆のタイヤは旋回運動に対してどのような働きをしているのでしょうか?乗用車とは違うメカニズムで何らかの力を発生していることは容易に想像できますが、本節ではそのメカニズムを繙いていきます。次の図を見てください。

自転中心は公転軌跡の接線方向に速度を持つ
図に示すようにミニ四駆は公転運動をしているので、ミニ四駆の自転中心は公転軌跡の接線方向に速度ベクトルを持ちます。また、4つのタイヤの中心も車体の一部なので、同じ速度ベクトル(注記)を持ちます。しかし、この図のままだとするとスリップ角が発生しないため、タイヤ横力も発生しないことになってしまいます。

(注記)『タイヤ中心の速度ベクトル』とは車輪速(タイヤの回転する速さ)ではなく、タイヤ中心の移動する速さと方向を意味します。

ここで思い出してもらいたいのは『ミニ四駆は公転運動だけでなく、自転運動も行っている』ということです。ミニ四駆の自転中心から離れているタイヤの中心は、自転運動により刻一刻と位置が変わるので、その速度ベクトルも考慮する必要があるのです。ここではフロントタイヤを例にその速度ベクトルについて解説します。

自転によるタイヤの速度成分
図に示すようにタイヤの中心は自転運動による速度ベクトルを持ち、その方向はタイヤの自転軌跡の接線方向となります。さらに左右のタイヤの速度ベクトル前後方向左右方向にそれぞれ分解してみると、注目すべき点が現れてきます。速度ベクトルの横方向成分が左右タイヤ間で同じ向きであるのに対し、前後方向成分は逆向きになるのです。タイヤのスリップ角が左右で異なるのは、この逆方向の前後速度成分に由来しています。

上述したように、各タイヤは公転運動による速度ベクトルと、自転運動による速度ベクトルを持つので、次の図に示すように二つの速度ベクトルを足し合わせてみましょう。

自転と公転の速度ベクトルを合成
これらの速度ベクトルを合成した結果に注目です。外輪側の左タイヤは小さなスリップ角となるのに対して、内輪側の右タイヤは大きなスリップ角となり、同じにはなりません。このことは左右で発生するタイヤ横力が必ずしも同じにはならないことも意味しており、タイヤやローラーのセッティングを考える上で一つのヒントになりそうです。

(注記)上の図では理解しやすくするため、スリップ角を実際より大きく描いています。

それでは、全てのタイヤの速度ベクトルを図にしてみましょう。リヤタイヤは自転中心よりも後方にあるので、横速度成分がフロントタイヤとは逆になることがポイントとなります。

各タイヤに発生する速度ベクトルの様子
本節の一番最初に紹介した図と異なり、タイヤ中心の速度ベクトルの角度が変化したことで、スリップ角が発生していることが分かります。また、前回のブログで解説したように、スリップ角があれば、タイヤの接地点に発生するのがタイヤ横力でした。そこで上の図にタイヤ横力を描き加えてみると下の図のようになります。

スリップ角によりタイヤ横力が発生する
この図における着目ポイントは、前後でスリップ角の変化方向が異なっており、フロントタイヤの横力が車体をコースの壁に押し付ける方向に作用していることです。このため、フロント側のローラーがコースの壁から受ける反作用力はリヤ側に比べて大きくなってしまうのです。このような状況はデメリットとなりそうですが、どのようなデメリットとなるのか…?その詳細については次回以降のブログで解説していきます。

まとめ


以下、今回のまとめとなります。
  • ミニ四駆は反作用力によって旋回運動する
  • 自転と公転の速度ベクトルの合成によりタイヤの速度ベクトルが決まる
  • タイヤスリップ角は自転の影響で内輪側が大きくなる
  • 反作用力はリヤ側よりフロント側が大きい
前回のブログに比べると少し難易度が高かったかも知れませんが、いかがでしたでしょうか?次回はミニ四駆に加わる力がミニ四駆の運動にどのように作用しているのかを解説します。次回のブログ更新もどうぞお楽しみに!

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2019年3月24日

ミニ四駆の運動と制御-第1章-

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はじめに


皆さんにとってミニ四駆とはどのような存在でしょうか?

今日では日本だけでなく、海外でも広く人気を博しているホビーとしてその存在感を輝かせているミニ四駆。僕は幼少の頃からミニ四駆に親しんできましたが、小学校の友達とミニ四駆に打ち込んだ日々と1988年第一回ジャパンカップに出場したことは、良い想い出として一生の宝物にもなっています。

さらに僕にとってのミニ四駆とは、エンジニアを志すキッカケとなった大切な存在でもあります。もしミニ四駆と出会っていなかったら、F1エンジニアになるどころか自動車工学エンジニアにすらなっていなかったかも知れません。

ダッシュ1号エンペラー(引用元:タミヤ公式サイト)
さて、ミニ四駆には『もっと速いマシンにしたいな。』という向上心と、『こうすれば速くなるのではないかな?』という創造性をヒトの心に生み出す力があります。また、ミニ四駆は物理と工学の面白さを手軽に体験できる良い教材でもあります。

そんな素晴らしさを持つミニ四駆ですが、F1エンジニアになるという目標を達成した今、お世話になったミニ四駆に何か恩返しができないか?そう思ったことがキッカケとなり、新たなブログテーマとしてミニ四駆を選ぶに至りました。

そして、決めたブログタイトルは 『ミニ四駆の運動と制御』です。

タイトル決定に当たっては安部正人氏の著書『自動車の運動と制御』の書名を大いに参考にさせて頂きましたが、文系理系、老若男女問わず、より多くの人にとって理解しやすいよう、数式による解説を出来る限り控え、図を交えながらの解説を心掛けるつもりです。時にはちょっと難しい専門用語が登場するかも知れませんが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。

それでは『ミニ四駆の運動と制御』のスタートです!

お月様とミニ四駆の旋回運動


『は?なぜお月様?』と思われた方もいるかも分かりませんが(汗)、実はミニ四駆とお月様には大きく共通している点があるのです。まずは下の解説図を見てください。これは地球を中心に周る月の動きを表しています。

月の公転運動と自転運動
ご存知の通り、月は地球の周りをグルグルと回っていますが、その動きを公転運動と言います。また、これも良く知られていることですが、月は公転運動だけでなく自らもクルクル回る運動をしており、これを自転運動と言います。このように月は公転運動と自転運動を同時にしているのです。さらに、月の自転周期と公転周期は同じであるため、月は常に地球に対して同じ表側を向けているのです。

それではミニ四駆を始めとしたクルマの運動について着目してみましょう。まずは下の図を見てください。

公転だけするミニ四駆の動き
一目見てすぐに大きな違和感を感じたと思います。上の図は、ミニ四駆に公転運動だけを与えた場合の図で、クルマの中心位置は円軌道を描いていますが、クルマの向きが変わっていませんね。では、向きを変えるためミニ四駆にお月様と同じように自転運動も与えてみましょう。

公転と自転により旋回運動となる
自転運動を与えたことで違和感がなくなりました。お分かりになりましたでしょうか?ミニ四駆やクルマは、お月様と同じように公転運動と自転運動を行っており、その二つの運動が組み合わさることで旋回運動を行っているのです。このように二つの動きが組み合わさることは、タイヤに発生する力に大きな影響を及ぼすことになります。


タイヤの基本のお話


ミニ四駆やクルマの旋回運動を解説する上でとても重要なファクターとなるパーツ。それがタイヤです。この節ではそのタイヤの基本について簡単に解説したいと思います。

ところで皆さんは走行中のクルマがどのようにして力を発生しているかご存知でしょうか?

実は、走行中のクルマのタイヤは広義にはスリップすることで力を発生しています(詳細についてはブリヂストンが刊行した書籍等を参照ください)。イメージとしては、回転するゴムで地面をひっかくような感じでしょうか?また、そのスリップ方向はタイヤの前後方向と左右方向(下図)に分けることができ、それぞれのスリップ量によって発生する力が変化します。

タイヤのスリップ方向
ここで、こちらのF1のYouTube動画を見てみましょう。タイヤ交換を終えたマシンが発進する時や、ステアリングを切ってマシンが旋回しようとする時、タイヤが路面に対して様々な方向にスリップしている様子が分かると思います。発生する力の大きさこそ決定的に異なりますが、ミニ四駆のタイヤでも本質的には同じことが言えます。

(引用元:F1公式YouTubeチャンネル)
現在のミニ四駆競技では、タイヤ幅を狭める加工がトレンドになっており、その狙いはタイヤが発生する力を調整することにあります。また、ミニ四駆の旋回性能を高めるには、タイヤが発生する横方向の力を抑制することが肝要になるため、タイヤのセットアップはとても重要になります。

ミニ四駆の旋回メカニズムの詳細は今後のブログで少しずつ明らかにしていきますが、次節では、その旋回性能に大きく関係するタイヤの横方向の力を解説していきます。

タイヤのスリップ角とは?


前節では、タイヤがスリップすることによってタイヤが力を発生すると解説しましたが、タイヤがどのような状況になると力が発生するのかをここで解説します。次の図は、クルマを真上から見下ろした時のタイヤの状況を表しています。

タイヤの進行方向と前後方向が一致している時
上の図では、タイヤの前後方向(赤点線)とタイヤの進行方向が一致しています。つまり、クルマが直進状態にあるということです。クルマが真っ直ぐに走行しているので、タイヤは横方向の力を発生せずゼロとなります。このような状況から、例えばミニ四駆がコーナーに進入して旋回運動を開始すると、タイヤは次の図のような状況になります。

タイヤの進行方向と前後方向が異なる時
この時、タイヤには自転運動に起因する横方向の速度(つまり、横方向のスリップ)が発生し、タイヤの前後方向の中心線とタイヤの進行方向が一致しなくなります。このため、タイヤは横方向の速度を打ち消す方向に力を発生するようになるのです。これを一般的にタイヤ横力と呼び、タイヤの前後方向の中心線とタイヤ進行方向速度が成す角度のことをタイヤのスリップ角と呼びます。

少し専門用語が出てきましたが、スリップ角が発生すると横方向の力が発生するということをまずは覚えておきましょう。なお、横方向の速度が発生するメカニズムは今後のブログで改めて明らかにする予定です。

まとめ


以下、今回のまとめとなります。
  • クルマの旋回運動は自転と公転によって成り立つ
  • タイヤは広義にはスリップすることで力を発生する
  • タイヤ横力はスリップ角によって生み出される
次回のブログでは、実際にミニ四駆に働く力の発生メカニズムを具体的に解説していきます。次回の更新もどうぞお楽しみに!

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