2019年3月24日

ミニ四駆の運動と制御-第1章-

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はじめに


皆さんにとってミニ四駆とはどのような存在でしょうか?

今日では日本だけでなく、海外でも広く人気を博しているホビーとしてその存在感を輝かせているミニ四駆。僕は幼少の頃からミニ四駆に親しんできましたが、小学校の友達とミニ四駆に打ち込んだ日々と1988年第一回ジャパンカップに出場したことは、良い想い出として一生の宝物にもなっています。

さらに僕にとってのミニ四駆とは、エンジニアを志すキッカケとなった大切な存在でもあります。もしミニ四駆と出会っていなかったら、F1エンジニアになるどころか自動車工学エンジニアにすらなっていなかったかも知れません。

ダッシュ1号エンペラー(引用元:タミヤ公式サイト)
さて、ミニ四駆には『もっと速いマシンにしたいな。』という向上心と、『こうすれば速くなるのではないかな?』という創造性をヒトの心に生み出す力があります。また、ミニ四駆は物理と工学の面白さを手軽に体験できる良い教材でもあります。

そんな素晴らしさを持つミニ四駆ですが、F1エンジニアになるという目標を達成した今、お世話になったミニ四駆に何か恩返しができないか?そう思ったことがキッカケとなり、新たなブログテーマとしてミニ四駆を選ぶに至りました。

そして、決めたブログタイトルは 『ミニ四駆の運動と制御』です。

タイトル決定に当たっては安部正人氏の著書『自動車の運動と制御』の書名を大いに参考にさせて頂きましたが、文系理系、老若男女問わず、より多くの人にとって理解しやすいよう、数式による解説を出来る限り控え、図を交えながらの解説を心掛けるつもりです。時にはちょっと難しい専門用語が登場するかも知れませんが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。

それでは『ミニ四駆の運動と制御』のスタートです!

お月様とミニ四駆の旋回運動


『は?なぜお月様?』と思われた方もいるかも分かりませんが(汗)、実はミニ四駆とお月様には大きく共通している点があるのです。まずは下の解説図を見てください。これは地球を中心に周る月の動きを表しています。

月の公転運動と自転運動
ご存知の通り、月は地球の周りをグルグルと回っていますが、その動きを公転運動と言います。また、これも良く知られていることですが、月は公転運動だけでなく自らもクルクル回る運動をしており、これを自転運動と言います。このように月は公転運動と自転運動を同時にしているのです。さらに、月の自転周期と公転周期は同じであるため、月は常に地球に対して同じ表側を向けているのです。

それではミニ四駆を始めとしたクルマの運動について着目してみましょう。まずは下の図を見てください。

公転だけするミニ四駆の動き
一目見てすぐに大きな違和感を感じたと思います。上の図は、ミニ四駆に公転運動だけを与えた場合の図で、クルマの中心位置は円軌道を描いていますが、クルマの向きが変わっていませんね。では、向きを変えるためミニ四駆にお月様と同じように自転運動も与えてみましょう。

公転と自転により旋回運動となる
自転運動を与えたことで違和感がなくなりました。お分かりになりましたでしょうか?ミニ四駆やクルマは、お月様と同じように公転運動と自転運動を行っており、その二つの運動が組み合わさることで旋回運動を行っているのです。このように二つの動きが組み合わさることは、タイヤに発生する力に大きな影響を及ぼすことになります。


タイヤの基本のお話


ミニ四駆やクルマの旋回運動を解説する上でとても重要なファクターとなるパーツ。それがタイヤです。この節ではそのタイヤの基本について簡単に解説したいと思います。

ところで皆さんは走行中のクルマがどのようにして力を発生しているかご存知でしょうか?

実は、走行中のクルマのタイヤは広義にはスリップすることで力を発生しています(詳細についてはブリヂストンが刊行した書籍等を参照ください)。イメージとしては、回転するゴムで地面をひっかくような感じでしょうか?また、そのスリップ方向はタイヤの前後方向と左右方向(下図)に分けることができ、それぞれのスリップ量によって発生する力が変化します。

タイヤのスリップ方向
ここで、こちらのF1のYouTube動画を見てみましょう。タイヤ交換を終えたマシンが発進する時や、ステアリングを切ってマシンが旋回しようとする時、タイヤが路面に対して様々な方向にスリップしている様子が分かると思います。発生する力の大きさこそ決定的に異なりますが、ミニ四駆のタイヤでも本質的には同じことが言えます。

(引用元:F1公式YouTubeチャンネル)
現在のミニ四駆競技では、タイヤ幅を狭める加工がトレンドになっており、その狙いはタイヤが発生する力を調整することにあります。また、ミニ四駆の旋回性能を高めるには、タイヤが発生する横方向の力を抑制することが肝要になるため、タイヤのセットアップはとても重要になります。

ミニ四駆の旋回メカニズムの詳細は今後のブログで少しずつ明らかにしていきますが、次節では、その旋回性能に大きく関係するタイヤの横方向の力を解説していきます。

タイヤのスリップ角とは?


前節では、タイヤがスリップすることによってタイヤが力を発生すると解説しましたが、タイヤがどのような状況になると力が発生するのかをここで解説します。次の図は、クルマを真上から見下ろした時のタイヤの状況を表しています。

タイヤの進行方向と前後方向が一致している時
上の図では、タイヤの前後方向(赤点線)とタイヤの進行方向が一致しています。つまり、クルマが直進状態にあるということです。クルマが真っ直ぐに走行しているので、タイヤは横方向の力を発生せずゼロとなります。このような状況から、例えばミニ四駆がコーナーに進入して旋回運動を開始すると、タイヤは次の図のような状況になります。

タイヤの進行方向と前後方向が異なる時
この時、タイヤには自転運動に起因する横方向の速度(つまり、横方向のスリップ)が発生し、タイヤの前後方向の中心線とタイヤの進行方向が一致しなくなります。このため、タイヤは横方向の速度を打ち消す方向に力を発生するようになるのです。これを一般的にタイヤ横力と呼び、タイヤの前後方向の中心線とタイヤ進行方向速度が成す角度のことをタイヤのスリップ角と呼びます。

少し専門用語が出てきましたが、スリップ角が発生すると横方向の力が発生するということをまずは覚えておきましょう。なお、横方向の速度が発生するメカニズムは今後のブログで改めて明らかにする予定です。

まとめ


以下、今回のまとめとなります。
  • クルマの旋回運動は自転と公転によって成り立つ
  • タイヤは広義にはスリップすることで力を発生する
  • タイヤ横力はスリップ角によって生み出される
次回のブログでは、実際にミニ四駆に働く力の発生メカニズムを具体的に解説していきます。次回の更新もどうぞお楽しみに!

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