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はじめに。
ブログテーマ『シミュレータ技術の世界とその基礎』もいよいよ最終回です。これまで3回に渡り、シミュレータやシミュレーションに関わる技術や考え方について解説しましたが、今回はいよいよ核心的なトピックである『Simレーサーとリアルレーサー』の違いについて解説したいと思います。
(引用元:iRacing公式サイト) |
今回は結論から言おう。
最終的な結論が気になって仕方ない人が多い(?)と思うので、まずは結論から書くことにします。僕が辿り着いた結論は以下の通りです。
『Simレーサーがリアルレーサーに転向することは可能だが、プロフェッショナルなレーシングドライバーとして成功する可能性は低いかもしれない』
この結論に関しては賛否両論あるのは間違いないと思います。シミュレータの愛好家の方からすると、この結論を残念に思う方もいらっしゃるかと思いますが、なぜこのような結論に至ったのか?そのロジックをドライバーの運転行動様式と心理、これら2つの視点を交えながら解説します。
ドライバーの運転行動様式
以前のブログではドライバーがどのような行動サイクルに基づいて運転しているのかを解説しました。ここでは復習を兼ねて簡単にその内容を振り返ってみましょう。まずは次の図を見てください。
ドライバーは自身が置かれている状況を『認知』し、様々なことを『判断』します。例えば、視覚情報として赤信号を『認知』すれば、減速・停止するという『判断』を下します。そして、その『判断』に基づきブレーキを『操作』します。 その後、ブレーキ操作入力を受けた車両は減速をし始めるのですが、その『車両挙動』の変化を受けてドライバーは再び『認知』、『判断』、『操作』を繰り返します。これがドライバーの運転行動様式です。
シミュレータでも、次の図に示すように基本的にはリアルと同じ運転行動様式となります。リアルと大きく異なる点は、ドライバーへの車両挙動のフィードバック情報量が大きく制限されてしまうことでしょう。また、ゲーミングシミュレータではドライバーにフィードバックされる情報が現実の車両挙動から乖離していることも課題です。
ここで注意すべき点は、上で述べたシミュレータの抱える課題がSimレーサーとリアルレーサーの優劣を決めるものではないということです。リアルレーサーは実車から膨大な車両挙動の情報を処理して速さを実現する能力がある一方、Simレーサーは非常に限られた車両挙動フィードバックの中で驚異的な速さを絞り出す能力に長けるからです。
つまり、運転行動様式という観点で言えば、どちらもそれぞれの環境で卓越したスキルを持っていると言えるのです。
ドライバーの心理状況の違い
リアルレーサーとSimレーサーで心理状況はどのように異なるのでしょうか?僕の考えとしては、この心理状況の違いを克服することがSimレーサーがリアルレーサーに転向するに当たって最も大きな課題であると考えています。
ここでは例として、富士スピードウェイのストレートを時速250km/hで走行することを想定してみましょう。リアル、シミュレータ、どちらも時速250km/hを出すことは難しいことではないでしょう。しかし、リアルな走行では人間の心理には『生命の危険』が確実に生じます。
© DUTCH PHOTO AGENCY/RED BULL CONTENT POOL |
加えて、肉体的にも極限まで追い込まれた状況で常に適切な『判断』と『操作』を実行しレースで強さを発揮する能力は、やはりリアルでしか得られないものでしょう。
まとめ。
Simレーサーがリアルに転向した場合、恐らく『速さ』という点ではリアルレーサーに匹敵ないし凌駕することは十分に考えられます。しかし、リアルでは、シミュレータとは絶対的に異なる心理状況にドライバーが置かれることから、Simレーサーはリアルなレースでの『強さ』という点では苦戦する可能性が高いと言えます。
これが、このブログの冒頭で述べた結論、『Simレーサーがリアルレーサーに転向することは可能だが、プロフェッショナルなレーシングドライバーとして成功する可能性は低いかもしれない』に至った理由です。
Lando Norris (引用元:F1公式サイト) |
リアルなレースを通じて『強さ』を、シミュレータでのトレーニングで『速さ』を、これら2つをバランス良く獲得した新世代のドライバーがF1の世界でもすでに活躍していることから、今後この傾向はどんどん高まってくることでしょう。もしかしたら、シミュレータでの『速さ』の追求はプロドライバーになるための必須条件になっている、すでにそう言っても過言ではないのかも知れません。
[おわり]