2018年2月4日

クルマのバネ上共振周波数とは?①

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はじめに


自動車技術用語における『バネ上共振周波数』とは何なのか?今回のブログでは、この技術用語について解説します。学生フォーミュラ大会の静的審査でも、スペックシートへの記載が求められるなど自動車のサスペンションにおいては最も基本となるパラメータです。

(デルフト工科大学DUT15)
さて、高校では『共振周波数』を学習したと思います。教科書や参考書には、物体がバネで吊るされている図が掲載されていたはずです。しかし、今回このブログで解説するのは『バネ上共振周波数』です。高校物理の教科書には書かれていなかった『バネ上』という言葉が付け加えられているので、この『バネ上』の意味と、それが付け加えられた背景も解説したいと思います。

そもそもバネ上とは?


上述したように高校物理では、物体が『吊るされている状態』を前提としていましたが、『バネ上』を理解するためには、自動車開発では全く逆の状況であることを理解する必要があります。次の図を見てください。

高校物理との前提条件の違い
図に示すように、物体の支持方式が高校物理では『天井から吊るす』方式であるのに対し、自動車開発では『地面で支える』方式になっているのです。このため、自動車開発では物体が文字通りバネの上にあるので『バネ上』と表現するようになりました。ここで勘の良い人は次の疑問が頭に浮かんだと思います。

『物体の支持方式に関わらず共振周波数は変わらないので、バネ上と表現する必要はないのでは?』

その通りなのですが、自動車開発ではあえて『バネ上』とする理由があるのです。なぜなら、自動車にはサスペンションの持つバネ要素の他に『バネ下』にタイヤの弾性変形というバネ要素があり『バネ下共振周波数』も存在するからです。これらを明確に区別するために『バネ上』、『バネ下』と表現しているのです。

自動車メーカー毎に、または各業界ごとに多少の定義の違いはあるかも知れませんが、自動車開発ではサスペンションによって支えられている車体全体(つまり自動車からサスペンションとタイヤを取り除いた状態)を『バネ上』と言います。


自動車開発のバネ上共振周波数


まずは高校物理で学んだ共振周波数について振り返ってみましょう。下図中の物体を手で引っ張り上げ、手を離すと、ある一定の周期で自由振動を続けます。この時の1秒あたりの物体の往復回数を共振周波数と言います。

1自由度バネマスモデル
一方、自動車開発におけるバネ上共振周波数は、本質的には高校物理で学習する共振周波数と同じですが、大きな違いが一つあります。高校物理では物体と天井がバネで直接的に繋がれており、次の関係が前提となっています。

『物体の上下移動量』=『バネの伸縮量』

ところが、自動車開発では車体とタイヤがサスペンションを介して繋がれているため等しくなりません。このような場合、バネ上共振周波数を計算するには『車体の上下移動量』と『バネの伸縮量』を関係付けるパラメータ、つまりモーション比が必要となるのです。

京都大学2014年車両のフロントサスペンション機構
結果としてバネ上共振周波数の計算にはモーション比が織り込まれることになり、計算式は次のようになります。

バネ上共振周波数の計算式
それでは計算に必要となる各物理パラメータをここでまとめてみましょう。

車両バネ上質量(Vehicle Sprung Mass)

車両からサスペンションとタイヤを取り除いた部分を車両のバネ上といい、その質量を車両バネ上質量と言います。この記事では [kg]と表すこととします。

バネ定数(Spring Stiffness)

バネのたわみやすさを表す数値で、例えばバネを1cm縮めるのに必要な力が10Nであった場合、バネ定数はSI単位系で1000[N/m]となります。この数値が大きくなれば固くなることを意味します。この記事では [N/m]と表すこととします。

モーション比(Motion Ratio)

バネ上の上下移動量とバネ伸縮量の比のことをモーション比と言います。この記事ではモーション比 α =[バネ伸縮量] / [上下移動量]とします。


設計パラメータとしてのバネ上共振周波数とは


上記三つの物理パラメータのうち、車両バネ上質量は設計変更により増減することの多いパラメータです。このため、車両バネ上質量が昨年に比べて重くなっているにも関わらず、バネ定数とモーション比が同じままだと、車両バネ上質量の挙動は変わってしまいます。このような設計変更による影響をDymolaによる1自由度のバネマスモデルで簡易的に検証してみましょう。

Dymolaによる1自由度バネマスモデル
上図のモデルでは、バネは自然長の状態から始まり、重力によって物質が振動する様子を再現しています。その計算結果は次の図のようになります。なお、ここでは簡単のため減衰力はゼロにして計算しています。

1自由度バネマスモデルの自由振動の様子
それでは次に質量を1.5倍にしてみるとどうでしょうか?計算式上はバネ上共振周波数は低くなり、かつ重くなった分だけ振幅が大きくなるはずです。

質量を増加させた場合の結果(赤線)
上述した通り、質量が増えたことで振動モードが変わりました。ここで、質量だけでなくバネ定数も1.5倍にして再び計算してみましょう。その結果が次の図です。

共振周波数を同じにした結果、振動モードが等しくなる
バネ定数を質量と同じく1.5倍にした結果、振動モードが同じになりました。この結果からも分かるように、車両バネ上質量の挙動を同じにしたい場合、質量の変化に合わせてバネ定数も変更し、バネ上共振周波数を同じにする必要があることが分かります。

なお、今回の検証では減衰力がゼロという前提条件であることに注意してください。実際の自動車開発で車両バネ上挙動を同じにするには、車両バネ上質量、バネ定数、モーション比、ダンパー減衰力をトータルで再設計する必要があります。

まとめ


今回のブログでは自動車開発における『バネ上』の一般的な定義と、共振周波数を決める二つのパラメータがバネ上の物体に与える影響について検証しました。次回のブログでは、自動車開発におけるバネ上共振周波数の相場値を紹介します。

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