はじめに
自動車技術用語における『バネ上共振周波数』とは何なのか?今回のブログでは、この技術用語について解説します。学生フォーミュラ大会の静的審査でも、スペックシートへの記載が求められるなど自動車のサスペンションにおいては最も基本となるパラメータです。
(デルフト工科大学DUT15) |
そもそもバネ上とは?
上述したように高校物理では、物体が『吊るされている状態』を前提としていましたが、『バネ上』を理解するためには、自動車開発では全く逆の状況であることを理解する必要があります。次の図を見てください。
高校物理との前提条件の違い |
『物体の支持方式に関わらず共振周波数は変わらないので、バネ上と表現する必要はないのでは?』
その通りなのですが、自動車開発ではあえて『バネ上』とする理由があるのです。なぜなら、自動車にはサスペンションの持つバネ要素の他に『バネ下』にタイヤの弾性変形というバネ要素があり『バネ下共振周波数』も存在するからです。これらを明確に区別するために『バネ上』、『バネ下』と表現しているのです。
自動車メーカー毎に、または各業界ごとに多少の定義の違いはあるかも知れませんが、自動車開発ではサスペンションによって支えられている車体全体(つまり自動車からサスペンションとタイヤを取り除いた状態)を『バネ上』と言います。
自動車開発のバネ上共振周波数
まずは高校物理で学んだ共振周波数について振り返ってみましょう。下図中の物体を手で引っ張り上げ、手を離すと、ある一定の周期で自由振動を続けます。この時の1秒あたりの物体の往復回数を共振周波数と言います。
1自由度バネマスモデル |
『物体の上下移動量』=『バネの伸縮量』
ところが、自動車開発では車体とタイヤがサスペンションを介して繋がれているため等しくなりません。このような場合、バネ上共振周波数を計算するには『車体の上下移動量』と『バネの伸縮量』を関係付けるパラメータ、つまりモーション比が必要となるのです。
京都大学2014年車両のフロントサスペンション機構 |
バネ上共振周波数の計算式 |
車両バネ上質量(Vehicle Sprung Mass)
車両からサスペンションとタイヤを取り除いた部分を車両のバネ上といい、その質量を車両バネ上質量と言います。この記事では M [kg]と表すこととします。
バネ定数(Spring Stiffness)
バネのたわみやすさを表す数値で、例えばバネを1cm縮めるのに必要な力が10Nであった場合、バネ定数はSI単位系で1000[N/m]となります。この数値が大きくなれば固くなることを意味します。この記事では K [N/m]と表すこととします。
モーション比(Motion Ratio)
バネ上の上下移動量とバネ伸縮量の比のことをモーション比と言います。この記事ではモーション比 α =[バネ伸縮量] / [上下移動量]とします。
設計パラメータとしてのバネ上共振周波数とは
上記三つの物理パラメータのうち、車両バネ上質量は設計変更により増減することの多いパラメータです。このため、車両バネ上質量が昨年に比べて重くなっているにも関わらず、バネ定数とモーション比が同じままだと、車両バネ上質量の挙動は変わってしまいます。このような設計変更による影響をDymolaによる1自由度のバネマスモデルで簡易的に検証してみましょう。
Dymolaによる1自由度バネマスモデル |
1自由度バネマスモデルの自由振動の様子 |
質量を増加させた場合の結果(赤線) |
共振周波数を同じにした結果、振動モードが等しくなる |
なお、今回の検証では減衰力がゼロという前提条件であることに注意してください。実際の自動車開発で車両バネ上挙動を同じにするには、車両バネ上質量、バネ定数、モーション比、ダンパー減衰力をトータルで再設計する必要があります。
まとめ
今回のブログでは自動車開発における『バネ上』の一般的な定義と、共振周波数を決める二つのパラメータがバネ上の物体に与える影響について検証しました。次回のブログでは、自動車開発におけるバネ上共振周波数の相場値を紹介します。
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