2019年12月14日

F1ヨーロッパ探訪記【ミルトン・キーンズ編】

[重要なお知らせ(Important notification)]

日々の生活とF1と。


僕の住んでいる街は、ノーサンプトン州(Northamptonshire)のブラックリー(Brackley)。ロンドンから120kmほど離れており、のどかな田舎町です。 お隣はバッキンガム州やオックスフォード州ですが、これらの地域には、他の地域にはない特徴があります。

(引用元:Racing Point F1 Team公式HP)
それはF1を始めとした『モータースポーツ』を生活の中に感じれること。今回のブログテーマ『F1ヨーロッパ探訪記』では、イギリスやイタリアなどのF1チームやモータースポーツにスポットを当て『F1チームってどんな街にあるの?』という素朴な疑問に、探訪記スタイルでお届けします。今回取り上げる街はミルトン・キーンズ(Milton Keynes)。さぁ、この街にあるF1チームとは一体?!

ミルトン・キーンズってどこ?


ミルトン・キーンズはロンドンの中心から北北西85kmに位置する街です。ロンドンのユーストン(Euston)駅から電車に乗れば42分ほどで街の中心にあるMilton Keynes Central駅に到着します。

Milton Keynes Central駅
このミルトン・キーンズという街の中心部はイギリスには珍しく近代的な街並みをしています。碁盤目状にキレイに区画整理されるなど、いくつかの画期的なコンセプトの下に都市開発されたそうです。が…街を歩いていると近代的な街並みにどことなくワビサビを感じさせる雰囲気があります。空きテナントもちょっと目立つ街の中心ですが、駅からの徒歩圏内(←と言っても20分)には、日本が誇る彼らの拠点があるのです!


HRD Milton Keynes


そう、Honda Racing F1のイギリス開発拠点のHRD Milton Keynes(←これが正式名称でいいのかな?)です。実は大学自動車部のT先輩がMK開発拠点の立ち上げに携わっていたそうで、それなりの縁を勝手に感じています。

HRD Milton Keynes (敷地内の標識には…)
僕にとっての(←あくまで僕にとっての)HRD Milton Keynesの最大の特徴は、正門ゲートに勤務する女性警備員です。僕は日本から友人が訪問してくると、F1に関連する施設を見せて回るのですが、今のところ100%の確率でこの女性警備員に呼び止められます。

警備員
『ちょちょ、ちょっと、あなたたち!どこから来たの!!』


友人
『あ、日本からです…。(!!もしかして怒られる?!)』


自分
『僕はイギリスに住んでて…友人にHRDを見せてあげたくて…。』


警備員
『あら、そうなの?もうこの辺りは観光したの?!』


友人
『いや、それがまだなんです(汗)。』


警備員
『だったら、あの街に行きなさい。あの街はいいわよぉ~。』


ここから彼女の話は止まりません…(汗)。そう、とってもおしゃべり好きな警備員さんなのです!訪問者が来るとテンションが上がってしまうのでしょう。ちなみにこの女性警備員さんの話好きはHRD Milton Keynesのスタッフ間でも有名(?)だそうで、『ああ、俺も彼女につかまると長いね(汗)』という某F氏の談話も。

残念ながら関係者以外は敷地内には入れませんが、外から眺めることは可能なので、イギリス旅行の際にはHRD Milton Keynesの正門前で警備員さんとのトークを楽しんでみてはどうでしょうか??

ただし…女性警備員の話は長いッス…。

Red Bull Racing


ミルトン・キーンズに所在するF1チームとは?そう、2019年からホンダPUを搭載してF1を戦っているレッドブルF1チームです。過去には日産自動車の高級車ブランドINFINITIと提携するなど、ホンダだけでなく日本人との縁があったF1チームでもあります。

Red Bull Racingのファクトリー正面玄関
とても近代的な外観の建物の正面にはF1マシンがドドーンと展示されています。もちろんファクトリーの中には入れませんが、外から眺めているだけでも『おお~ここで最新のF1マシンが開発・製造・メンテナンスされているのかっ!』と感動すること間違いなしです。

正面玄関脇に飾られているF1マシン(恐らく旧型のRB7)
現在はRed Bull Racingの他にRed Bull Advanced Technologies社の建物も新たに建設されているので、そのファクトリーも外から見学することができます。ブラックで統一された建物外観は圧巻の一言です。

Red Bull Advanced Technologies正面玄関
イギリスは公共交通機関が日本ほど充実していないので、これらのファクトリーを訪問するにはレンタカーやタクシーでの移動が推奨されますが、レースでなくともF1開発の最前線基地を訪れることはF1ファンならば興奮すること間違いナシです。

日本のF1ファンにまずは訪問をおススメしたい街。それがミルトン・キーンズです!

[つづく]

[余談]
※ミルトン・キーンズに住む日本人はミルトン・キーンズのことをミルキンと略します。


2019年12月12日

X-By-Wire(エックスバイワイヤ)技術が拡げる自動運転技術の可能性②

[前回のブログ]
[重要なお知らせ(Important notification)]

自動運転とX-By-Wire技術の関係


前回のブログで解説したように、自動車におけるX-By-Wire技術では、ドライバーの運転操作を信号に置き換えて自動車を走行させることを目的としています。しかし、航空機と異なり、ドライバーの操作力でも自動車の運転操作は可能であるにも関わらず、導入に至ったのはなぜでしょうか?

その理由は、ドライバーの運転操作が必ずしも正しいとは限らないことにあります。例えば、ドライバーが不適切なアクセル操作を操作すれば燃費の悪化に繋がりますし、ドライバーの意図通りの加速が得られないこともあるでしょう。

ダイレクトアダプティブステアリング(引用元:日産自動車公式HP)
しかし、X-By-Wire技術を応用すればドライバーの運転操作の情報に基づき、最も適切な運転操作を算出して修正することが可能となります。現在ではドライバーの運転操作には何らかの修正が加えられることは、もはや当たり前となっています。

このように、ドライバーの運転動作は何らかの形で電子制御による介入を受けていますが、エンジンスロットル、ブレーキ、ステアリングそれぞれの電子制御への介入の割合が100%となること、これがまさに自動運転です。つまり、X-By-Wire技術そのものが自動運転の土台になっているのです。

現在、全ての運転操作にX-By-Wire技術の適用が実用化されていることから、もはや自動運転の実現は時間の問題と言っても良いかも知れません。

それでもなぜ、自動運転技術の実現が難しいのか?


X-By-Wire技術はドライバー操作への介入が可能です。しかし、その介入は安全性を考慮した上で限られた条件下でのみ、作動されるように設計されています。この限られた条件を外すことが自動運転を実現することを意味しますが、この地球上に存在するすべてのドライバー、すべての道路、すべての環境条件においてドライバーの安全を担保して初めて自動運転が実現したと言えます。

しかしながら、現実的にすべての走行条件を考慮することはほぼ不可能と言っても良いかも知れません。走行条件の数は天文学的な数にのぼる上に、そのすべてに対応する必要があるからです。しかし、だからと言って自動運転の実現が不可能かと言うとそうでもありません。不確定な条件を一つ除外すれば短時間での実現は十分に可能です。


その不確定な条件とは「人による運転操作」です。全ての運転操作を電子制御の判断に置き換えれば、不確定な条件を確実に取り除くことができます。

ドライバーの体調、気分、性格は運転操作に大きな影響を与える一方、電子制御システムは常に同じ判断を短時間で正確に下すことが可能です。技術的な観点で極論を言えば、ドライバーの運転動作への関与を除外する(つまりドライバーレス)ことで技術的なハードルは各段に下がります。

自動運転開発ロードマップ(引用元:日産自動車公式HP)
もちろん、ドライバーレスをいきなり実現できるほど簡単ではないのが自動運転の技術開発であり、10年単位での時間が必要でしょう。ドライバーレスに関しては賛否両論ありますが、この圧倒的に困難な技術開発に対して有効な技術的パラダイムシフトの誕生に期待しつつ、自動運転の技術開発の進化には今後も目が離せません。

まとめ


自動運転を実現するには、X-By-Wire技術の動作シーンの圧倒的な拡大が必要であり、その拡大には困難を伴うことは明らかです。

自動車メーカー、IT企業それぞれ単独での開発ではユーザーにとって真に価値のある完全自動運転(Level 4)の実現は困難ですので、双方の強みと技術アセットを、会社の枠組みを超えて融合させていくことこそが、自動運転の実現のキーポイントになるのではないかと思います。また、その流れはすでにAlphabet(Google)が子会社化したWaymoの動向にも顕著に現れています。今後、IT企業、自動車メーカーがどのようにコラボレーションし、自動運転技術で抜きんでてくるのか?その動向にも注目です。

[おわり]

2019年12月9日

X-By-Wire(エックスバイワイヤ)技術が拡げる自動運転技術の可能性①

[重要なお知らせ(Important notification)]

はじめに。


近年、自動車メーカーに限らず様々な研究機関、IT企業による自動運転の技術開発競争が激化しています。今後もこの流れは続くと見込まれますが、一方でGoogleの自動運転技術開発の路線変更(当該事業の子会社化 + 自動車メーカーとの積極的な協業)、TESLA社の自動運転中と思われる死亡事故、Dyson社の電気自動車事業からの撤退など、電気自動車や自動運転の技術開発が難航していると思わせるニュースが少なくありません。


Steer-By-Wire搭載の日産スカイライン
(引用元:日産自動車公式HP)
なぜ、自動運転技術の開発は難しいのでしょうか?

本コラムでは、その難しさを解決するためのキー技術、『X-By-Wire(エックスバイワイヤ)技術』を紹介しつつ、自動運転技術開発の難しさの本質に迫ります。

開発工数の肥大化


この20年で自動車には数多くの統合電子制御システムが搭載されるようになってきました。その背景には、Bosch社による車載用通信プロトコルCAN(Controller Area Network)の普及があります。様々な電子制御が通信によって繋がることで、これまで実現が難しかった機能が数多く実現できるようになりました。

インテリジェントクルーズコントロール
(引用元:日産自動車公式HP)
その代表格はインテリジェントクルーズコントロールではないでしょうか。エンジン、ブレーキ、カメラ、レーダー、それぞれの電子デバイスをネットワークで繋ぎ統合制御することで、前車との距離を適切に保つ機能が実現可能になりました。このような電子制御システムの統合化は、絶大な恩恵をドライバーにもたらしますが、統合電子制御システムの開発はエンジニアにとっては大仕事を意味します。

そのシステムを世の中に出すに当たり、『安全性と信頼性を確保する』ための長大な開発プロセスが待ち受けているためです。


求められる安全性・信頼性開発力と


なぜ、システムの統合化にあたり気の遠くなるような開発プロセスが求められるのでしょうか?その理由は『安全性・信頼性開発』にあります。

安全性・信頼性開発では、FMEA(Failure Mode and Effect Analysis)や、FTA(Fault Tree Analysis)などの手法に基づき、故障時のフェールセーフ機能をシステムに織り込みますが、 故障モードは多岐に渡るため、膨大な数のフェールセーフが必要になります。さらにISO26262(車載用電子制御システムの安全性・信頼性に関する国際規格)の適用が本格化したため、統合化対象の電子制御システムの数が増えると、安全性・信頼性開発の工数が指数関数的に増大することになるのです。

ISO26262の概要(引用元:ISO公式HP)
しかし、クルマに乗るお客様の命を預かる以上、その仕事に抜け目があることは許されません。まさにエンジニアにとって安全性・信頼性開発のスキルは、身に着けなくてはならない重要な技術的リテラシーです。一般的に電子制御システムは、その機能開発よりも安全性・信頼性開発の方が圧倒的に難易度が高いのです。機能性を損なうことなく、安全性・信頼性も同時に実現する。このような技術的リテラシーを持つエンジニアは自動車会社において一流と言っても過言ではありません。

もちろん、この技術的リテラシーは自動運転技術に携わるエンジニアにとっても重要なのですが、IT企業に上述のような技術的リテラシーを持つエンジニアがいるかと言えば、残念ながら現時点では『非常に限定的な数である』と言わざる得ないでしょう。そして、このような人材の確保・育成こそが自動運転の技術開発に挑むIT企業にとって、大きな課題になっていると考えられます。

「エックスバイワイヤ(X-By-Wire)技術」とは?


明確な定義があるわけではありませんが、簡単に一般化すれば『人間の操作入力を電子信号に変換し、制御対象をモーターやアクチュエータなどの動力で制御すること』でしょうか。

この技術の輸送用機器への最初の適用事例としては航空機が最初で、当初はFly-By-Wireと呼ばれていました。Fly-By-Wire技術では、パイロットの操縦桿の動きをストロークセンサで検知、電子信号に置き換え、ラダーやエルロンを電子制御式の油圧アクチュエータなどで作動させます。

Photo By Ralf Roletschek - Own work, CC BY-SA 2.5
なぜ、Fly-By-Wire技術が開発されたのでしょうか?その理由は航空機の大型化・高速化です。第二次世界大戦の頃、航空機には自動車と同じレシプロエンジンが採用されていました。パイロットの操縦は機械式が採用されており、パイロットの手足の動きが機械的にエンジンスロットル、ラダーに伝わり、機体の動きを制御していたのです。

しかし、ジェットエンジンの登場で航空機の速度が著しく増加したことで人力による制御が困難になります。この課題を解決するため、より大きな力で、かつ正確な位置制御が可能なFly-By-Wire技術が開発されました。現在では様々な分野にFly-By-Wire技術は適用されていますが、制御対象が航空機だけでなくなったことから、X-By-Wire技術と呼ばれるようになったのです。

自動車において、X-By-Wire技術は、エンジンスロットル、ブレーキにも採用され、現在では一般的な技術として広く普及しています。また、これまでに適用が難しいとされていたステアリングシステムについても、日産自動車が実用化に成功しています。このように、現在の自動車はドライバーの運転操作が全て電子信号に置き換えられて走行することが可能となっているのです。

[つづきはコチラ]

2019年12月8日

車載用通信ネットワークの"開国"-第2章-

[前回のブログ]
[重要なお知らせ(Important notification)]

CANは限界を迎えつつある。


電子制御システムの増加により、膨大な情報がCANを使って共有されていることは前回のブログで解説した通りですが、すでに通信バスは負荷限界に達しています。複数のCANを用意し負荷を下げるも、電子システムに求められる機能の高度化にはとても対応できない状況になりつつあります。

日産IDS コンセプト(引用元:日産自動車公式HP)
このような課題を解決するため、通信速度が圧倒的に速いEthernet導入をドイツのBOSCH社が提唱しています。インターネットがEthernetを使っている現状を鑑みれば、Ethernetを車載用に転用することは当然の選択と言えます。また、既存のインターネット用プロトコルが使えるようになれば、システム間通信速度の圧倒的な向上に加え、インターネットへのアクセスが容易になります。正に”コネクテッド・カー”には必須と言っても過言ではないかも知れません。

今回のブログでは、Ethernetがどのようにして車載用通信ネットワークを鎖国から開国へと導くことになるのか?その見通しを論じてみることにします。

Ethernetがもたらすメリットとは?


Ethernetの導入により想定されるメリットとしては、電子制御システムの遠隔アップデートが挙げられます。ソフトウェアに関するリコールが発生した場合、ユーザーはディーラーに車両を持ち込み、ソフトウェアのアップデート処理をする必要がありました。しかし、ネット経由で新しいソフトウェアにアップデート出来るので、ユーザーはソフトウェアの配信を待つだけで済みます。

(引用元:日産自動車公式HP)
また、好みの運転フィールを実現するために、スポーティなエンジン制御マップやステアリングアシスト制御のロジックをメーカーHPからダウンロード販売で購入するなど、ユーザーカスタマイズなどにも活用出来そうです。このように、これまで鎖国化されていた車両ネットワークがインターネットと繋がることで、これまでに想像もしなかった驚きの機能が実現されることになるでしょう。


Ethernet化に伴い更なるリスクヘッジが必要となる。


一方でEthernetの導入による課題は何でしょうか?

それは”セキュリティの確保”です。これはEthernetの導入を提唱するBOSCH社も課題として認識しており、悪意のあるハッキングからクルマを守ることは最重要課題と言っても過言ではありません。セキュリティが不十分でハッキングされてしまった場合、走行中にクルマが突如加速し、意図しない方向に吹っ飛んでいくといったサイバーテロも十分に考えられます。

(引用元:マカフィー公式ブログ)
運転中の車両ハッキングは人命に関わる課題ですので、この点は自動車メーカーに限らず、IT業界も巻き込んでの十分な対策が必要と言えます。今後は自動車メーカーがインターネットセキュリティ会社と緊密な連携の下に協業していくことになりそうです。

まとめ


上述のように長らく「鎖国状態」にあった車載通信ネットワークですが、今後は自動走行技術の発達と伴走するようにクルマはめまぐるしいスピードでネットワーク化が進んでいくのではないかと想像します。もっといえば、クルマとクルマ、クルマと道路、クルマと家や建物など、都市全体がネットワークでつながっていく時代の到来もそう遠くないでしょう。

とはいえ、繰り返しになりますがそこにはハッキングや悪意あるサイバーテロの標的ともなりやすいという側面も持ちます。クルマのIoT化は、自動車技術のパラダイムシフトに繋がる可能性を大いに秘めていますが、PCや携帯電話と異なり人命に直結しているものなので、相応のセキュリティ対策や注意深い運用が必要になります。

今後のクルマの発達は、まさに技術発展とそれを逆手に取ろうとするサイバーテロリズムとの一進一退の攻防をくぐり抜けて行くことになるとも言えそうです。

[おわり]

車載用通信ネットワークの"開国"-第1章-

[重要なお知らせ(Important notification)]

はじめに。


近年、“IoT (Internet of Things)”という言葉は、IT業界ではもちろん一般の人でも多くの人が知るほど市民権を得た言葉になりました。私たちの身の回りのモノがネットワークに繋がり、今の生活をより便利に、そしてこれまでに不可能であったことが可能になる時代が到来しつつあります。

自動車業界にもIoTの波は押し寄せてきており、コネクテッド・カーと呼ばれるクルマが開発され、各自動車メーカーはIoT化による新たな価値の創出に力を入れ始めています。

日産IDS コンセプト(引用元:日産自動車公式HP)
コネクテッド・カーは、簡単に言うと『インターネットとのインターフェースを持ち、何らかの情報を外部とやり取りする機能を持つクルマ』です。インターネット普及の歴史とクルマ開発の歴史を良く知る人からすれば、『クルマとインターネットを繋げるくらい、もっと昔からあっても良かったのでは?』と考えるかも知れません。実はコネクテッド・カーの登場が遅れた背景には”車載用通信ネットワークの鎖国”があり、その鎖国こそがIoT化の最大の障害となっているのです。

今回のコラムでは、車載用通信ネットワークの技術を紹介しつつ、鎖国化に至った背景とそのネットワーク解放によるメリット・デメリットを解説します。

車載用通信ネットワークCANとは?


CANとはController Area Networkの略で、1986年にドイツのBOSCH社が提唱した車載用電子システムの相互通信プロトコルのことです。現在販売されている自動車には数多くの電子システムが搭載されていますが、各電子システムが持つセンサー情報や演算結果を効率的に共有するためにCANは開発されました。

現在では、カーオーディオ、ナビゲーションシステムに始まり、インテリジェントクルーズコントロール、先進ドライバー運転支援システム(ADAS)など、様々な電子システムがCANによりネットワーク化されています。

CAN(引用元:メンター・グラフィックス・ジャパン株式会社公式HP)
CANの最大のメリットは、CANコントローラICを各電子システムに搭載し、2本の導線でシステムを結合しさえすれば、低コストで簡単にネットワークを構築できることです。このような簡便性を背景に、現在ではシマノ製自転車のギヤシフトシステムにも採用されるなど、自動車産業以外にも広く普及しました。また、個人レベルでもCANネットワークを活用した電子工作例もたくさん見られます。

このように、CANはそもそもの目的であった『車載用』という枠組みを超えたネットワークプロトコルとして様々な範囲で市民権を得たのです。


どのように活用しているのか?


参考としてインテリジェントクルーズコントロールシステム(ICC)を例に、CANがどのように活用されているのかを紹介します。ここではICCが、『ICC統合制御ユニット』、『エンジン制御ユニット』、『ブレーキ制御ユニット』によって構成されているとします。

各ユニットには複数のセンサーが搭載されており、クルーズコントロールで代表的なセンサーと言えば、前走車との距離を計測するレーダーセンサーなどがあります。エンジン制御ではエンジン回転数やアクセル開度、ブレーキ制御では各タイヤの回転数やブレーキの操作量などがセンサーにより計測され、CAN上で各電子システムと共有されています。

(引用元:日産自動車公式HP)
ICC統合制御ユニットはCAN上で共有されている情報から、最適な車両速度、車間距離などを計算し、それを実現するのに必要なエンジン出力やブレーキ動作量を計算します。そして再びCANを経由して、計算結果を指令値としてエンジン制御ユニットおよびブレーキ制御ユニットに送信します。

このように、従来は単独で動作していた制御システムの連携が可能となり、新たな機能を創出することが可能になりました。クルマの中だけの世界で言えば、実はすでに”コネクテッド”な関係がCANを中心として構築されていたのです。

CANの課題は何か?


電子システム間の効率的な連携が実現可能というメリットを享受できる一方で、課題がない訳ではありません。その課題とは、CAN信号へのアクセスを一切認めない『鎖国』という自動車メーカーの対応です。つまり、CAN上でどのような信号情報が供給されているのか?その情報のほぼ全てが秘匿化されているのです。

なぜこのような対応がなされているのか?また、今後、CANのような車載ネットワークが開国される可能性はあるのか?次回のブログではその核心に迫ります。

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2019年11月30日

F1新規参入はなぜ難しいのか?ー第3章ー

[前回のブログ]
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成功が約束された投資はない。


技術や人材への継続的な投資がなければ、F1チームとして成功することはできない…しかし、その投資が必ずしも成功するとは限らない。そんなことを前回のブログで書きました。これはF1に限った話ではなく、どんな業界、ビジネスであっても必ず成功する投資など存在しないことは自明です。

VJM09 Photo By Morio - Own work, CC BY-SA 4.0
今回のブログでは、約11年に渡りF1チームオーナーとしてF1に関わり、あるチームの技術資産の構築に貢献・成功した男性のちょっとしたエピソードを紹介します。なお、予め断っておきますが、その元F1オーナーと僕には個人的な関わりはなく、ここに書くことはあくまで僕個人の主観的な意見ということをご承知おき下さい。

企業として存在するF1チーム


さて、F1チームはその名称にチームという言葉が含まれていますが、基本的には『企業』として存在しています。僕が現在所属するチームを例に取れば、Racing Point F1 TeamはあくまでF1へのエントリー名で、実際の企業名はRacing Point UK Ltdです。

SportPesa Racing Point F1 Team
社員数を考慮すると、どのF1チームも中小企業に分類されると思いますが、その収益構造(プライズマネーとスポンサーマネー)は一般的な中小企業とは大きく異なります。このため、チーム力を向上させるためには、独特な投資方法が求められることは想像に難くありません。このような経営を前提としたF1チーム経営において、『最も効率的にポイントを獲得すること』を成し遂げた元F1チームオーナーがいます。


ヒトを愛する、チームを愛する。


その元F1チームオーナーは、お金に関連するニュースに度々取り上げられていましたが、実際の人柄はとても温厚な紳士でした。彼がどれほどチームを愛し、大切に想っていたのか?その想いが伺い知れるモノがあります。

次の写真はある年の年間ランキング上位入賞を祝して作られたTシャツです。

元F1チームオーナーのメッセージ①
そこにはこんな言葉が書かれていました。

‘It’s not the amount of arms you have, it is the quality of your weaponry’
(武器の数の多さじゃないんだ、その武器がどれだけ優れているかなんだ)


そして、Tシャツの背面にはこんな言葉も書かれていました。

‘405 Reasons we finished fourth’
(4位でフィニッシュしたことには405人分の理由がある)


元F1チームオーナーのメッセージ②
活動資金には限りがあり、順風満帆な企業経営ではなかったかも知れません。しかし、その元F1オーナーは11年間に渡りチームメンバーを大切に想い、チームの技術的・人的な資産を育てることに重きを置いていたようです。このTシャツからは彼がそんな想いと共にF1で戦い続けてきたことを伺い知ることができます。

情熱と継続性があればこそ。


企業経営は経済的に健全であることが常に求められます。しかし、F1チームの経営に関して言えば、通常のビジネスという枠組みに加え、『F1への情熱』が特に必要であるように思います。今回紹介した元F1チームオーナーに限らず、F1界を見渡せば多くのチームが継続性に重きを置いています。それは情熱があればこそだと僕は考えています。

F1に新規参入し、成功するために必要なこと。

とても陳腐な言葉ですが、『チームを育てるために、情熱的に投資が続けられること』がF1新規参入に求められる本質的な答えかも知れません。その投資は時としてビジネスを度外視しているように見えることもあります。僕はそんな情熱的な投資に感謝しつつ、最大限の成果を出すことでその投資に報いたい…そう思いながら日々のF1開発業務を頑張っています。

[おわり]

2019年11月17日

F1新規参入はなぜ難しいのか?ー第2章ー

[前回のブログ]
[重要なお知らせ(Important notification)]

F1界の諸行無常


前回のブログでは技術の積み重ね、つまり技術資産の重要性について説明しました。なぜ、2010年にF1チームに参入したF1チームは技術資産が構築できなかったのか?そして、技術資産の欠落とF1撤退にはどのような関連性があるのでしょうか?

Caterham Technology社のReceptionにて筆者撮影
今回のブログでは現代のF1チームの特徴に言及しつつ、2014年の最終戦を最後にF1から姿を消したCaterham F1 Teamを題材にF1新規参入の難しさについて解説します。

現代のF1チームの特徴とは?


彩鮮やかなチームユニフォームを着たピットクルー。ピットウォールではインカムを装着したレースエンジニアがドライバーと交信し、様々な指示を出す。ドライバーはサーキットの上で激しいバトルを展開する。

引用元:Racing Point F1公式サイト
多くのF1ファンが思い浮かべるF1の世界のイメージはこんな感じではないでしょうか?このイメージはもちろん正しいのですが、実は表舞台で見られるF1チームはそのチームの全体からすればせいぜい10%ほどでしかないのです。ここで、現代のF1チームの特徴を端的かつ的確に表現するならば、次のような表現が相応しいと僕は考えています。

『レース部門が付帯した自動車メーカー』

つまり、F1チームの根幹は自動車メーカーそのものであり、レース部門はその一部でしかないということです。F1チームで実際に働いてみると、僕がかつて勤務していた日産自動車でやっていたことと本質的には変わらず、たまにF1チームであることを忘れてしまうことがあるくらいです。これが、僕がF1で働いて実際に得られた実感です。


F1チームと技術資産


もし、あなたが十分な資本金を持つオーナーとしてゼロからF1チームを創設することを考えた時、何を最初に準備すれば良いでしょうか?

その答えは『ヒトを集める』ことです。Caterham F1 Teamもまずはそこから始まりました。技術マネジメントとしてF1での経験が長いマーク・スミス氏やジョン・アイリ―氏を招き入れ、エンジニアやスタッフを他チームからヘッドハンティングし、開発体制を整備していきました。

『F1経験者を集めれば、チームとしてすぐに機能するだろう。』

Caterham F1 Teamのオーナーであったトニー・フェルナンデス氏はそんな風に考えていたかも知れません。しかし、一つだけ落とし穴がありました。それは、F1経験者を集めればF1チームとしては機能するが、高性能なF1マシンを作る能力が伴うかどうかは別問題だということです。

By Marc Evans from Newbury, UK - Toyota-Batman, CC BY-SA 2.0
かつて、日本の自動車メーカーもドイツに拠点を置きF1に参戦しました。設備も人材も最高レベルを擁していたものの、彼らが優勝を狙えるトップレベルに登り詰めるまでには7年もの歳月が掛かり、F1で成功することの難しさを痛感したのではないでしょうか。なぜ、難しかったのか?その理由は彼ら自身の歴史を振り返ればすぐに理解できるはずです。

すなわち、ローマは一日にして成らず、長きに渡る自動車開発の歴史こそが世界を代表する自動車メーカーを作り上げたのであり、同じく自動車メーカーであるF1チームも技術資産を積み重ねることが真に大切なのです。

Caterham F1 Teamの実情


以前Twitterでも呟きましたが、僕は2014年にCaterham F1 Teamに加入することが内定していました。しかし、2014年シーズンのチーム成績は不振を極め、破綻へと一歩一歩近付いていたようです。Caterham F1 Teamで当時働いていた友人が言うには『明らかに資金繰りが悪化したことを感じ、チームから離脱することを考えた』そうです。

技術資産は積み重ねてこそ価値が高まるものであり、その醸成には長い時間が掛かります。また、F1チームとして真にパフォーマンスを発揮できるようになるためには、時間に加えて巨額な投資も必要になります。しかし、投資が止まれば崩壊することは必然であり、一瞬にして消え去ってしまうものなのです。

Liefieldのファクトリー訪問時に記念撮影(2012年)
Caterham F1 Teamは残念ながら、技術資産が醸成する前に破綻してしまいました。かつてチームの活動拠点であったLiefieldのファクトリーは現在、廃墟となっています。まさに諸行無常の響きあり…といった言葉が思い浮かばれますが、悲しいことに盛者となる前に衰退しかねないことは、F1界における理の一つなのかも知れません。

[つづきはコチラ]

2019年11月16日

F1新規参入はなぜ難しいのか?ー第1章ー

[重要なお知らせ(Important notification)]

はじめに。


F1の歴史を振り返ると、長きに渡って繁栄を続けるチームが活躍する一方、様々なチームが誕生しては消え去っていく…そんな少し悲しい側面を見ることができます。直近10年分のF1の歴史を振り返れば、2010年にTeam Lotus、Virgin Racing、Hispania Racing F1 Team、2016年にはHAAS F1 Teamが新規参入してきましたが、2010年デビューの3チームは全て消滅してしまいました。

By Morio - Own work, CC BY-SA 4.0
これら2010年組の3チームがなぜ、破滅へと導かれてしまったのか?

その要因は一つではなく、様々に絡まり合った複数の要因があることは想像に難くありません。しかし、そもそもF1チームとして本質的な要因が欠けていたのではないか?と僕は考えています。今回のブログテーマでは、F1および自動車メーカーにおける技術文化を論説の軸に置きつつ、僕の考えを書き下ろしてみたいと思います。

2010年の新規参入チーム


まずは2010年に参入してきたチームを紹介したいと思いますが、Wikipediaの内容を転載しても意味がないので(汗)、実際にそのチームで働いた経験を持つ同僚から聞いた話を交えながら紹介したいと思います。

Hispania Racing F1 Team


元々は下位カテゴリで活躍していたカンポスレーシングがチームの起源で、マドリードを拠点に発足した初のスペイン系F1チームです。スペイン系F1チームが発足するに至ったその背景にはフェルナンド・アロンソ選手の影響があります。

By Andrew Griffith from United Kingdom - Bahrain Formula One, CC BY 2.0
アロンソ選手がF1に登場する以前、スペインでのF1人気はそれほど高いものではなかったそうです。しかし、アロンソ選手が著しい活躍をするようになるとスペインでのF1人気が爆発します。その影響はスペイン人エンジニアの就職事情にも影響を与えた程で、多くの若手エンジニアがF1を目指すようになり、現在は多くのスペイン人F1エンジニアがF1業界で活躍するようになりました。

このチームは、イタリアの名門レーシングカーコンストラクターであるダラーラに車体開発を委託していましたが、本来モータースポーツ産業が盛んではないスペインに拠点を置いていたこともあり、人材や活動資本の確保にチーム発足当時から苦戦していたようです。また、経営メンバーの入れ替えに伴いチーム名称を変更するなど、いくつかの悪影響をチーム消滅までずっと引きずってしまったF1チームでした。


Virgin Racing


2010年に新規参入したチームとしては、最も存続期間の長かったのがVirgin Racingです。このチームの特徴の一つにWirth Research社とのコラボレーションが挙げられますが、全ての空力性能開発をCFDで実施するという野心的な試みは有名な話です。名称はVirgin Racingから始まり、いくつかの名称を経てManor Racingへと変遷を遂げ、2016年の最終戦アブダビGPを最後に消滅します。

By Morio - Own work, CC BY-SA 3.0
このチームの拠点はずっとイギリスにありましたが、運営拠点(ヨーク州ディニントン)と開発・製造拠点(オックスフォード州バンブリー)が離れた別の場所にあったため、効率的な活動形態ではなかったようです。2010年に参入したF1チームとしては唯一ポイント獲得の実績があっただけに、活動予算さえ確保できればF1に定着できる可能性があっただけに消滅はとても残念でした。

Manor Racingとなって以来、活動拠点はバンブリーにあるファクトリー(現在はHAAS F1 Teamがイギリス国内拠点として使用)に集約されましたが、チームの規模としては最も小さかったようです。このチームには日本人のエンジニア2名とメカニックが1名所属していましたが、チームの末期には活動予算が限られており、F1チームとは思えないほどの厳しい環境での活動を強いられていたそうです。

Team Lotus


マレーシア人実業家のトニー・フェルナンデス氏によって創設されたのがTeam Lotusです。当時、Lotus F1 TeamもF1に存在しており、Lotusという名称の使用権を巡る係争がありました。その後、フェルナンデス氏は保有するCaterhamの名称使用権を使い、Caterham F1 Teamへとチーム名称を変更します。

By Morio - Own work, CC BY-SA 3.0
残念ながらポイントを獲得することなくチームは消滅してしまいますが、他の2チームと大きく異なるのは、トニー・フェルナンデス氏がCaterham Groupとして、自動車・航空産業にCaterhamのブランドでビジネスを展開していたことでした。Caterham GroupにはF1チームの他、自動車技術のコンサルティング会社であるCaterham Technology、カーボンコンポジット事業を手掛けるCaterham Composites、そして名車Caterham 7で有名なCaterham Carsも含まれていました。

しかし、トニー・フェルナンデス氏は自動車産業でのビジネスの難しさを痛感したのか、Caterham Groupのビジネスとしての可能性に見切りをつけ、事業撤退を決断します。その結果、2014年を最後にCaterham F1 TeamはF1を撤退、Caterham Groupは解体されてしまいました。現在はCaterham Carsのみが存続しており、Composite事業も売却されたようです。

現在、F1業界ではMcLarenやWilliamsがこのようなグループ企業の形態を採用しており、株式も上場するなど、一定の成功を収めていますが、残念ながらCaterham Groupに限って言えば、そうはなりませんでした。

課題は何であったのか?


このブログの冒頭でも書いたように、これらのチームが破滅へと導かれた要因はいくつもありますし、その全てを断定することはできません。しかし、一人のエンジニアとして、自動車メーカーで働き、そしてF1チームで働いた結果、見えてきた一つの本質的な課題があります。

それは『技術資産の欠落』です。

そもそも技術を基幹とした企業が成功を収めるには、それ相応の技術力の高さが求められるのは当然のことであり、瞬間的な技術力の高さだけでなく、過去からの積み重ねも必要です。次回のブログでは、消滅してしまったCaterham F1 Teamの内情を例に、技術資産とF1撤退の関連性について解説します。次回更新もどうぞお楽しみに。

[つづきはコチラ]

2019年11月2日

イギリスとレーシングカート②【レンタルカート編】

[前回のブログ]
[重要なお知らせ(Important notification)]

イギリスでカートに乗ってみよう!


今回のブログでは、イギリスでのレンタルカートの楽しみ方を具体的に紹介します。このブログの読者の中には『将来イギリスに旅行に行ったら現地でレンタルカートに乗ってみたいけど、ちょっと英語に自信がない…』という方もいるかと思います。

引用元:Daytona公式サイト
けれども、ちょっと刺激的な走行を楽しめるのが海外のレンタルカートです。海外旅行を今後予定されているモータースポーツファンの方はチャレンジしてみてはどうでしょうか?今回のブログではMilton Keynesにある屋外レンタルカートのDAYTONAと屋内レンタルカートのFormulaFastを例に挙げていますが、イギリスには他にもたくさんレンタルカートコースはありますので、チャレンジしてみたい方はコチラで探しみてください。

イギリスのレンタルカートってどんな感じ?


最初にイギリスのレンタルカートコースの運営方法について説明しましょう。ほとんどのレンタルカートコースはいくつかの走行枠を設けており、その走行枠をネットもしくは電話で予約するのが一般的なスタイルになっています。

引用元:Daytona公式サイト
予約をしていなくても、空きがあれば現地で走行枠を確保することも可能ですが、曜日や時間帯によっては予約が一杯になってしまうこともあるので事前予約しておいた方が確実で安心できます。予約方法についてはまた次回以降のブログで紹介することとして、次節では走行枠を詳しく紹介します。


Arrive&Drive
アライブ・アンド・ドライブ


いわゆるフリー走行のことをArrive&Driveといいます。この他にもTimed PracticeやBook&Driveなどコースによって表現は色々とあるので注意が必要です(汗)。走行時間はカートコースによりますが、FormulaFastでは1セッション20分、DAYTONAでは1セッション25分になります。

引用元:Daytona公式サイト
そして気になる走行料金ですが、1セッションあたり£25~£40(3,500~5,600円)が相場です。日本と比べると1セッションの走行時間が長く設定されているので、お値段的にはほぼ同じと言えます。なお、複数セッションを予約すると割引が適用されることもあるので、せっかくなのでたくさん走りたい!という人には複数セッションの予約がオススメです。



Open Race
オープンレース


日本でも最近はSODIカートのワールドシリーズランキングの対象となっているオープンレースが人気となっていますが、イギリスでもオープンレースは毎回予約が完売になるほどの人気を博しています。DAYTONAのオープンレースではフルグリッドでなんと30台!参加ドライバーのスキルは上級者からホビー派まで幅広く参加しているので、腕に自信がない方でも十分に楽しめるはずです。

引用元:Daytona公式サイト
そんなオープンレースの走行料金ですが、DAYTONAのSODIオープンレースは£52.5(7,350円)です。ちょっとお高めですが、予選を兼ねた10分の練習走行と20分の決勝で構成されており合計30分の走行時間が確保されています。決勝が40分に拡大されたSODI D40レースは£72.5(10,150円)もあるので、とにかくバトルしながら走り込みたい人にはD40もオススメです。ちょっと高いですが…(汗)。


Junior/Bambino
ジュニア/バンビーノ


DAYTONAのMilton Keynesには子供専用のコースも完備されており、5~8歳未満向けのバンビーノと8~15歳以下のジュニアクラスがあります。走行料金はジュニア£26.5(3,710円)で走行時間は20分です。5~8歳向けのバンビーノは45分間の講習と実技のセッションが£48(6,720円)で受講できます。

引用元:Daytona公式サイト
お子さんのいらっしゃる方は、プロドライバーへの英才教育の一環として?!お子さんを参加させてみてはどうでしょうか?

まとめ


以上、イギリスのレンタルカートを紹介しましたが、ご自身のスキル、予算に合わせて楽しんでみてください。また、コースによって提供しているサービスの内容が上記の紹介と異なる場合もあるので、公式サイトをしっかりと確認した上で予約すると良いです。

なお、注意して欲しいのは旅行中のケガです。万が一の事故に備え、イギリスでカートに乗る場合は旅行傷害保険に加入しておいた方が良さそうです。

次回のブログでは具体的な予約方法について解説したいと思います。次回の更新もどうぞお楽しみに!

[つづく]

2019年9月28日

イギリスとレーシングカート①【文化編】

[重要なお知らせ(Important notification)]

イギリスのモータースポーツ文化


いきなりですが、ここに断言します。イギリスにおけるF1はサッカーに並ぶほどの超メジャースポーツです。ご近所のおばあちゃんともF1談義ができてしまうほど、モータースポーツの文化がイギリス人には浸透しており、老若男女問わず多くのイギリス人がF1チャンピンであるルイス・ハミルトンやジェンソン・バトンの名前を知っています。また、イギリスGPともなると全グランプリ中で最多の約34万人の観客が集まり、イギリスでも屈指の人気を誇る一大スポーツイベントと言えます。

引用元:BBCスポーツ公式サイト
その絶大なF1人気はイギリスの公共放送であるBBCのスポーツサイトからも伺い知ることができます。そのスポーツサイトでは、Footballのすぐ横にFormula 1の文字が並べられているのです(上画像の赤枠)。世界的な人気を誇るプレミアリーグに勝るとも劣らないほどにイギリス人の関心がある…それがF1というスポーツなのです。

イギリスでのモータースポーツ人気はそれだけではありません。モータースポーツを自分たちで楽しむことにも絶大な人気があります。そこで今回のブログシリーズ『イギリスとレーシングカート』では、イギリスでのカートの文化とその楽しみ方について紹介します。

イギリスのカートコースとその特徴


このブログの執筆にあたり、ある調査をしてみました。それは『イギリスにはいくつのカートコースが存在しているのだろうか?』という調査です。イギリスのカート情報まとめサイト『UK Karting』を使って調べた結果、イギリスには屋外サーキット67ヶ所、屋内サーキット63ヶ所、合計で130ヶ所ものサーキットがあることが分かりました。

調査を始める前は『さすがに3桁もないだろう…』とタカをくくっていましたが、僕の予測を大きく上回る数で驚きました。その数の多さに加え、カートコースがビジネスとしてちゃんと成立していることにも驚きました。

引用元:Daytona公式サイト
次に、イギリスのカートコースの特徴について注目してみましょう。次のコース図を見てください。僕の現在のホームコースDaytona Milton Keynesのコース図で、その全長は1360mです。

引用元:Daytona公式サイト
日本では1000mを超えるカートコースはそう多くありませんが、イギリスでこの規模のコースは標準サイズです。そして、驚くべきことはこの規模でありながらもDaytonaは『レンタルカート』専業であることです。

さて、他のコースにも注目してみましょう。実はイギリスには世界的に見ても特徴的な立体交差を備えるコースがあります。そのコースとはロンドンから200㎞ほど北にあるPF Internationalです。2017年にFIAカート世界選手権を観戦するために訪れたことがあるのですが、カートコースとしてはケタ違いの規模に驚愕したことを記憶しています。

引用元:PF International公式サイト
元々のコースは立体交差のない平面的なレイアウトだったそうですが、オーナーが改修を決意した結果、立体交差化されたようです。また、FIAカート世界選手権が開催されるなど国際格式のコースでありながら、レンタルカートも営業しておりSODIカートで国際格式のコースを楽しむことが可能です。


レンタルカートのスタンダード


近年、ヨーロッパでレンタルカートと言えばSODIカートという程までにSODI製のレンタルカートが普及しています。フランス在住時に足繁く通っていたリヨン郊外のアウトドアカートコース Actuaや、リヨンの街の南にあるインドアカートKart-InでもSODIカートでした。イギリスのアウトドアサーキットでも多くのカートコースがSODIカートを導入しています。

SODI RT8(引用元:SODI Kart公式サイト)
搭載されているエンジンはHONDAのGX390で、GXシリーズの中で最もパワフルなタイプ。日本ではGX270が主流のようですが、コース規模の大きいヨーロッパではGX390が主流です。Daytona Milton Keynesのコースでは平均時速が約70km/hで、最高速も85km/hですので、レーシングカートに近い速度域で走らせることができます。

難点は安全性、耐久性、快適性の追求に起因する重さでしょうか。最高速は伸びますが、その重さ故に従来のレンタルカート(Birel N35)に比べるとコーナリングでの軽快感に劣ります。また、ステアリングジオメトリにちょっとクセがあるようで、速く走らせるためにはちょっとしたコツを学ぶ必要がありそうです。

引用元:SODI World Series公式サイト
しかし、SODIカートの凄いところは、SODI WORLD SERIESというレンタルカートでの世界戦を開催していることです。もちろん日本からのエントリー可能ですので、その世界戦を目指して頑張ってみるのも楽しいかも知れません。なお、エントリー方法についての詳細は公式サイトを確認してみてください。

イギリス人のレーシングメンタリティ


日本とイギリスでは多くの違いがあれど、その中での最大の違い。それがレーシングメンタリティです。職場のカートサークルのレースに初めて参加した時に驚いたこと。それは日本では考えられない程にハードなオーバーテイクが繰り広げられることです。日本であれば確実に『マナー違反!』と激しいクレームが出るレベルです。

空いているインを体当たりで差すのも日常茶飯事…
一般のカートコースで主催されているオープンレースであっても、そのメンタリティは変わりません。そんなハードなレーススタイルでもレースが終われば『いやぁ、いいレースだったね!』とケロっとライバルと握手し合うのです。今となっては僕も同じメンタリティに染まっているかも知れませんが…。

そんなモータースポーツの本場、イギリスでのレンタルカートを機会があればぜひ経験してもらいたいのですが、次回のブログではイギリス現地でのレンタルカートの具体的な楽しみ方を紹介したいと思います。どうぞお楽しみに!

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2019年8月25日

ミニ四駆の運動と制御-第5章-

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長きに渡る技術テーマ、空力


ミニ四駆の30年以上にもなる長い歴史の中、多くのミニ四駆ファンが抱いてきた疑問があります。それは『ミニ四駆に空力は必要か?』という疑問です。ミニ四駆の1/32というスケールゆえ、その効果は『ほとんどない、もしくはあっても限定的なのではないか?』という考えが多いかも知れません。

Dancing Dall(引用元:タミヤ公式サイト)
また、F1と異なりミニ四駆の走行速度域は一般的には25~35km/h程度です。このような速度域は空力効果が限定的と考える根拠にもなってきたようですが、僕の至った結論は少し異なるものでした。今回のブログでは僕が至った結論と、ミニ四駆における空力の考え方について紹介したいと思います。

ダウンフォースとミニ四駆


一般的にダウンフォースはコーナリングスピードを高めるために活用されます。ダウンフォースによりタイヤを路面に押し付け、タイヤが発生する横力を増加させるわけです。しかし、ミニ四駆では少し話が異なります。前々回のブログで解説した通り、車両にはタイヤの横力に起因する減速力が働きます。このため、ミニ四駆にウイングなどでダウンフォースを発生し横力を増加させると、更なる減速力を生み出してしまうのです。

コース壁からの反作用力による減速力
また、ウイングはダウンフォースを発生するだけでなくドラッグ(空気抵抗)も発生するため、最高速が伸びなくなるというデメリットもあります。このため、直線距離の締める割合が大きいコースレイアウトでは速さを発揮することができません。

『なんだ…やっぱり空力はミニ四駆には必要ないんじゃん…』

このように思ったかも知れません。コーナリングスピードを高めることを目的とするのであれば、確かにミニ四駆に空力は不要という結論になります。しかし、現在のミニ四駆のサーキットの特性を考慮すれば、新たな空力効果の活用の可能性が見出すことができるのです。


サーキットレイアウトの変遷


1988年に初開催されたジャパンカップ。その決勝の舞台となったサーキットがウルトラグレートダッシュサーキットです。予選レースでのレイアウトはもっとシンプルでしたが、この決勝用のサーキットも今となってはシンプルな印象を受けると思います。

(引用元:タミヤ公式サイト)
ここで2016年のレイアウトと1988年のレイアウトを比較すると、その違いは歴然です。コースの全長が伸びているのはもちろん、ミニ四駆がジャンプするセクションが多数設置されています。このようなサーキットのポイントは、ミニ四駆の平面的な動きに上下方向が加わることで三次元的な運動になることです。このため、1988年のようなサーキットレイアウトに比べると格段にコースアウトのリスクが高くなっています。

(引用元:タミヤ公式サイト)
今年(2019年)のジャパンカップのサーキットレイアウトはさらに進化し、これまでにないギミックもサーキットに織り込まれています。また、デジタルカーブとドラゴンバックが連続するなどコースアウトを誘発するレイアウトになっています。現在のミニ四駆競技は、ただ速いだけのマシンでは完走できず勝つことができません。スピードを適切にコントロールし、速さとコースアウトのリスクを上手にバランスさせることがとても重要になっているのです。

三次元運動を制御するには?


では、サーキットで三次元的に動くミニ四駆のコースアウトのリスクを下げるにはどうしたら良いのか?この課題の解決に活用できそうなものはないか?そんなことを考えている時にヒントとなったのがバギーRCカーのウイングでした。

バギーRCカー用フロントウイング(引用元:TEAM AZARASHI)
バギーRCカーにとってジャンプ時の姿勢コントロールは着地後のトラクション(加速)性能を左右する重要なファクターです。速度域はRCカーの方が比較的速いものの、ミニ四駆の重量を考えれば十分に効果は見込めると考えたのです。

次回のブログではバギーRCカーのようなウイングをどのように再現したのか?また、その狙いと考え方を具体的に紹介します。次回更新もどうぞお楽しみに!

[続きはコチラ]

2019年5月30日

ミニ四駆の運動と制御-第4章-

[前回のブログ]
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タイヤスリップ角の定式化


前回のブログでは、コースの壁からの反作用力がミニ四駆に減速をもたらすことを解説しましたが、今回のブログは詳細に現象を理解するため、各タイヤにおけるスリップ角を定式化します。さらに得られた式からミニ四駆のセッティングとの関連性について考察します。

ダッシュ4号キャノンボール
(引用元:タミヤ公式サイト)
なお、今回のブログは安部正人氏の著書『車両の運動と制御』の第3章に記載のスリップ角の導出をより詳細に解説した内容となっています。車両運動を勉強し始めた学生や、学生フォーミュラのシャシー担当の学生にも参考になれば幸いです。

車両仕様パラメータの定義


まず初めに、定式化に必要となるパラメータを定義する必要があります。次の図にパラメータをまとめてみました。基本的な諸元は一般的な乗用車とほぼ同一ですが、自転中心は車両重心ではなく、前後ローラー間ホイールベースの中心にあることに注意してください。

図(1)諸元一覧
それぞれのパラメータは次のように定義しました。また、正負の定義は車両前方、右方向、時計回りをプラスとしています。今回は特に単位は記載していませんが、SI単位系に準拠するとします。

諸元パラメータ一覧
スリップ角は次の二段階で定式化を進めていくこととします。
  1. 各タイヤの自転による移動速度ベクトルの定式化
  2. 各タイヤの公転による移動速度ベクトルとの合成
なお、上記1および2それぞれの定式化では車両の自転中心に固定された車両座標系を前提としていることに注意してください。


タイヤの自転による移動速度ベクトル


最初に自転による移動速度ベクトルのみを定式化します。タイヤの接地点には次の図に示すように速度ベクトルが発生しており、自転中心とタイヤ接地点の距離および角速度から速度ベクトルを求めることができます。

図(2)自転運動による各タイヤの速度ベクトル
ここで、便宜的に図(2)に示す車両座標系(車両前後方向をx軸、車両横方向をy軸)に基づき、図中の速度ベクトルを分解すると図(3)のようになります。

図(3)各タイヤの速度ベクトルの分解
次に図中の四つのベクトルのx方向とy方向成分を求めます。ここで、各タイヤの自転による速度ベクトルの添え字はタイヤの位置を表します。
  • FL : Front Left
  • FR : Front Right
  • RL : Rear Left
  • RR : Rear Right
各タイヤの速度ベクトルの大きさは自転中心とタイヤ接地点の幾何学的関係によって求まり、次式のように表されます。

式群(1)各タイヤの自転速度ベクトルのx軸およびy軸の成分
それぞれのタイヤに発生している速度ベクトルの大きさ、および車両前後方向の中心線とタイヤ接地点中心の成す角度は、車両諸元と自転中心周りの角速度より定式化することができ、次のように表されます。

式群(2)自転速度ベクトルの大きさと角度の正弦・余弦
上記の式群(2)を式群(1)に代入すると、結果的に次のようにシンプルに定式化されることが分かります。

式群(3)整理後の自転速度ベクトルの大きさ
上記式群(3)は自転による速度ベクトルですから、これらに公転による速度ベクトルを足し合わせる必要があります。今回は左右のローラー軸間距離がフロントとリヤで等しいとしているため、公転による速度ベクトルは車両座標系のx軸方向にのみ速度成分を持ちます。つまり式群(4)に示す各x成分に公転の速度Vを足し合わせるだけでOKです。ベクトル合成の結果を次の図(4)に示します。

図(4)自転ベクトルと公転ベクトルの合成
なお、前後で左右のローラーの軸間距離を不等長とした場合、自転の回転中心周りに定常的な車両スリップ角が発生します。このため、もう少し複雑な式になるのですが、労力と時間の都合上、今回のブログでは割愛させて頂きます(汗)。興味のある方はぜひ定式化にチャレンジしてみてください。

さあ、ようやく自転と公転それぞれの速度ベクトル成分を足し合わせる段階まできました。上述の通り、式群(3)に示されている自転速度ベクトルのx成分に速度Vを足せば次の式群(4)を得ます。

式群(4)公転速度V加算後の速度ベクトルの大きさ
各タイヤのx軸とy軸方向成分が導出できたので、あとは式群(4)を使ってスリップ角を求めるのみです。ここでは、三角関数の近似を適用せず、正接の逆関数で各タイヤのスリップ角を求めることとします。

式群(5)各タイヤのスリップ角
安部正人氏の著書『車両の運動と制御』の第3章では、スリップ角が十分に小さいと仮定し三角関数の近似を適用しているため、もっとシンプルな式になります。しかし、ミニ四駆の場合は近似を適用できるほどタイヤスリップ角が小さくなりそうにないため、近似はせず、逆三角関数をそのままにしていることに注意してください。

ところで、ミニ四駆はコースの壁に沿って走行しているため、式群(5)に含まれる公転速度Vは、公転半径Rと自転の角速度ωの積に等しいという束縛条件を持ちます。この束縛条件を式群(5)に導入すれば、最終的に各タイヤのスリップ角は更にシンプルに次のように表されます。

式群(6)各タイヤのスリップ角(束縛条件適用後)
上記式群(6)の最大の特徴は、スリップ角が全て幾何学的な関係として表現されることです。つまり速度とは無関係にスリップ角が決まるのです。ただし、この束縛条件は定常的な旋回運動の時にのみ成立し、コーナーへの進入・脱出時の過渡的な旋回運動では成立せず、タイヤスリップ角は速度依存性を持ちます。

まとめ


今回のブログでは、タイヤスリップ角の定式化について取り組んだ結果、次のことが分かりました。
  • タイヤスリップ角がホイールベースとトレッド幅に依存する
  • タイヤスリップ角は左右間で異なり、その差異はトレッド幅によって決まる
  • 束縛条件を適用すると、タイヤスリップ角の速度依存性が消える
  • ただし、その束縛条件はコーナー進入・脱出時には適用できない
ここで分かったことを元にコーナリング速度の向上策を考えるならば、『トレッド幅を大きく』しつつ『車両のロール運動を誘発するローラーセッティングを施す』ことなどが挙げられます。

トレッド幅を大きくした場合、外側タイヤのスリップ角は減少する一方で内側タイヤのスリップ角は増加してしまいます。そこで、車両のロールを誘発するローラーセッティングとすることで内側タイヤの荷重を減らす(もしくは接地させない)ことで、内側タイヤの影響を小さくする…というのがこのセッティングの狙いです。

今回のブログの内容は理論に終始したため少々難しく感じたかも知れませんが(汗)、次の最終回では空力とミニ四駆の運動の関係性について解説したいと思います。次回ブログの更新もどうぞお楽しみに!

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