2018年11月25日

僕とF1とRCカーと【出会い編】


本能とRCカー


人は生まれて間もない頃から、ある行動をするようになります。

それは性格や性別に関係なく全ての人に共通する行動です。その行動が世界を学ぼうとする探求心によるものなのか、それとも自分を脅かす存在への警戒心によるものなのか、その行動のモチベーションの源泉が何であるのか僕には分かりません。ただ、確実に言えることは、その行動はとても本能的なものであり、大人に成長した後でも続くということです。

その行動とは『動くモノを見つめる』ことです。

生まれたばかりの赤ちゃんは視界が鮮明でないそうですが、視界に動くものを見つければ、それを目で追い続けます。さらに自我が形成され、自分に手があることを学ぶと、動くものに手を伸ばして触れようとします。それが一体何なのか?果たしてそれは自らが御すことが可能なのか?それを知ろうとする欲求に駆られるのです。

しかし、人が成長し学校や社会で生きるようになると、その本能はマナーや社会性の下で抑制されることになります。このようにして本能を抑えつけてしまうことは(たとえそれが無意識的であったとしても)、少なからずストレスを伴うでしょう。社会で生きる一員として、このような本能の抑えつけが少なからず必要であるのは言うまでもありませんが、そのストレスを発散したいという欲求を強く持つ人がいても不思議ではありません。

そんな欲求を満たすのに最適なもの。それが『モータースポーツ』です。

一般にモータースポーツと言えば、サーキットでレーシングカーを走らせる競技のことを意味しますが、今回のブログテーマである『RCカー』によるレースも立派なモータースポーツです。RCカーの最大の魅力は『動くモノを見つめる』という欲求を満たせるだけでなく、その動くモノを自らコントロールできることでしょう。また、実車でのモータースポーツに比べ、圧倒的に安価に楽しめることも魅力の一つです。

現在の愛車TB04PRO(引用元:タミヤ公式サイト)
かくいう自分もRCカーの魅力に虜になった一人なのですが、僕がF1エンジニアとなる道程でRCカーという趣味が多大な影響を与えたことは間違いありません。今回のブログテーマでは、僕とRCカーの歴史、そしてRCカーから学んだことを振り返ってみたいと思います。


RCカーとの出会い


僕が初めてRCカーと出会ったのは、残っている写真を確認する限りでは2歳になった頃のようです。下の写真は1979年11月4日に撮影されたもので、撮影したであろう父に向かって嬉しそうな笑みを浮かべています。

1979年11月4日の僕(満2歳)
写真が撮影された日から推察すると、このRCカーは父が僕に誕生日プレゼントとして買い与えてくれたようです。このRCカーは伝説のラリーカーとして名高いランチア・ストラトス。その斬新なデザインがとても印象に残っています。
確証はないのですが、どうやらこのRCカーはニッコー製のようです。プロポの前進スイッチをONにするとずっと前進し続け、ステアリングは当時としては珍しい(?)ホイーラータイプのプロポでした。


生まれて初めて与えてもらったRCカーは決して本格的なものではありませんでしたが、僕にとっては大切な宝物でした。結局、ボロボロになって壊れるまで夢中になって遊びつくしました。今となってはもう手元にありませんが、RCカー遊びは『動くモノ大好き!』という僕の本能的な欲求を満たしただけでなく、未来に向けて夢の種を僕の心に蒔いてくれていたように思います。




僕と父とRCと


『この親にしてこの子ありき』こんな言葉が、僕と父との関係性を表すのにぴったりな表現かも知れません。父も僕と同じようにRCに魅せられた一人でした。ただ、僕と決定的に違ったのは、父のカバーするRCの範囲が僕よりも広かったことでしょう。僕はRCカーのみでしたが、父の場合、RCカーは片手間で飛行機、グライダー、ヘリコプターなどの空モノがメインだったのです。

父の部屋は雑誌『ラジコン技術』で溢れ、休日には自作機体の設計・製作に勤しんでいました。父は大学で電気電子工学を専攻していましたが、畑違いの航空工学も独学で修得してしまいました。実際には比べようもないのですが、父のRC飛行機への情熱は僕のRCカーへの情熱を大きく上回っていたと思います。なぜなら、父は最終的にラジコン技術の編集部から寄稿を依頼される程だったからです。

ずっと前にその記事を見せてもらったことがあるのですが、本名ではなく母の旧姓と自分の名前を組み合わせたペンネーム(工藤勉)で寄稿されていました。父によれば、当時勤務していた会社(富士通研究所)に寄稿(副業?!)をしていることを知られたくなかったからだそうです(笑)。

ラジコン技術(引用元:電波社公式サイト)
僕が幼少の頃、家族は東京都町田市にある鶴川団地に住んでいました。当時、団地の近くには見晴らしの良い裏山のような場所がたくさんあり、RC飛行機を気軽に飛ばすことができました。休日になると、父は僕を連れてその裏山に行き、自らが設計したRC飛行機のテスト飛行に勤しむのですが、空を飛ぶ機体を真剣な眼差しで見上げる父の横顔(でもやっぱり口は開いていたと思う)、エンジンからの排気ガスの匂いが今でも記憶に残っています。

改めて振り返ってみると、父もゼロから何かを創造することが大好きな人でした。それは趣味だけでなく、仕事でも同じだったようです。富士通研究所での仕事に満足できなかった父は、富士通研究所を退職し独立します。決して意識していたワケではないのですが、僕も日産自動車を飛び出し、フランスでの修行を経てF1チームに加入するなど、僕も父とどことなく似たような人生を送っているようにも思います。『この親にしてこの子ありき』とは本当によく言ったものですね(笑)。

ちなみに余談ですが、現在の父はすでに仕事を引退して実家でのんびりしています。そして父の会社(コーダ電子株式会社)は親不孝者の僕に代わり実の姉が継いでくれています(笑)。


RCとのしばしの別れ


意外かも知れませんが、ずっとRCを楽しむ環境が続いていたわけではありませんでした。それは父の興味が全く異なる趣味へと向いてしまったことが原因でした。父に何があったのかは知りませんが、急にアウトドアライフへと目覚めてしまったのです(汗)。父にとって僕のRCカーへの想いなどはどこ吹く風。

しかし、自分のお小遣いでRCカーを楽しむことは難しく、タミヤRCカーグランプリに出場するなど夢のまた夢。結局、長きに渡ってRCカーとは縁のない生活を送ることになるのです。次回のブログでは、25年にも及ぶ僕のRCカー黎明期にどんなことがあったのか?そして、RCカーに代わり僕の本能的欲求を満たしてくれる、さらに小さなモータースポーツ(そうアレです!)との出会いを振り返ります。

[つづきはコチラ]

2018年11月18日

F1的な就職活動のススメ【F1就職最前線②】

[前回のブログ]
[重要なお知らせ/Important Notification]


僕からのメッセージ


『F1的な就職活動のススメ』もいよいよ最終回となりました。今回のブログでは、契約に至るまでのプロセスを説明しつつ、選ばれるためにはどんな存在であることが求められるのか?ということについて書こうと思います。


そして終わりに僕からのF1を目指す人へのお願いとエールで締めたいと思います。少々長文になりますが、最後までお付き合いください。また、今回の連載テーマも最後までお読み頂き本当にありがとうございました。

それでは最終回です!

まずは応募してみよう


以前のブログでも書いたように、自分がF1でどんな仕事をしたいのかを明確にする必要がありますが、ここではそれが明確になっていることを前提に話を進めて行きたいと思います。

さて、現在では多くのF1チームが公式サイトで採用情報を告知し、応募を募っています。事前にユーザー登録をする応募方法や、人事のメールアドレスに書類を添付して送付する応募方法など、いくつかスタイルがありますが、詳しくは各チームの公式サイトを確認してください。参考までに各チームの採用サイトへのリンク(2018年11月現在)を以下にまとめてみました。
  1. Racing Point Formula1 Team
  2. Mercedes AMG Formula1 Team
  3. Mercedes AMG High Performance Powertrains
  4. Scuderia Ferrari Formula1
  5. Red Bull Racing
  6. Renault Sport Formula1 Team
  7. HAAS F1 Team
  8. Scuderia Toro Rosso
  9. Williams F1 Team
  10. Sauber F1 Team
  11. McLaren Racing
なお、応募のルートはいくつかあり、公式サイト以外にもLinkedInにある各チーム公式ページなどを経由して応募することが可能な場合もあります。個人的にはチームの公式サイトを経由して応募する方が良いかなと思いますが、LinkedInは情報収集に役立つこともあるので登録しておくことをオススメします。もちろん僕も登録していますが、今ではF1関係者との繋がりをたくさん構築することができました。

(引用元:Mercedes AMG F1 Team公式サイト)
さて、各F1チーム公式サイトの求人広告チェックを続けていけば、そのうち狙いとするポジションの広告が見つかると思います。その時は躊躇することなくポチっと応募しましょう。ネット経由なので応募手続き自体はあっという間に終わります。手続きが終わると『あなたの応募を受付けました』という内容の自動返信メールが送られてきます。あとは正式に人事からの返答を待つのみ!です。

面接で最も重要なのは…


CVもちゃんと作成し、応募したポジションにふさわしい実力も備えているのであれば、応募から"一週間"も経たずに面接の日程調整の連絡が入るはずです。僕の経験上、面接に呼ばれる時はたいてい素早く連絡が入ります。逆に一週間以上も経過して何も音沙汰がなかった場合、望ましくない結果であることがほとんどです。

仮に面接に呼ばれたとしたら、次に気になるのは面接ではどんなことを聞かれるの?ということではないでしょうか。もし、エンジニアとしてF1を目指している場合、基本的に面接は技術面接になると考えて良いと思います。自身の技術レベルが果たして本当にチームが求めるレベルにあるのかどうか?それを徹底的にチェックされます。場合によっては筆記テストが課されることもあります。

では、そんな厳しいチェックがなされる面接に臨むに当たって、最も大切なことは何でしょうか?

それはどんな質問が投げかけられようとも、エンジニアとして技術的に的確な回答ができることです。これは一般的な面接対策でどうにかなることではなく、日頃から技術開発の仕事と真剣に向き合っていること。これが一番の対策になると思います。将来受けることになるであろうF1チームとの面接。日々の仕事に漫然と取り組むのではなく、来るべき時に備えてエンジニアとして技術と真正面から日々向き合うことをオススメします。


"Be the best"


面接も無事に終わり、あとは結果連絡を待つのみ…。果たして契約オファーがもらえるのか?面接が終わった日から落ち着かない日々が始まります。ところで、F1チームから面接の機会が与えられたことには意味することがあります。それはたくさんの応募者の中から最後に選ばれた5~10人ほどの中に入れたということです。

それを知ると仮に今回がダメだったとしても今後に向けた可能性を十分に実感することができるかと思います。確かにそれは間違いありません。しかし、最終的にF1チームからのオファーを勝ち取る人はどんな人なのでしょうか?

F1チームへの応募者は英国名門大学の出身者が多数
F1に限りませんが、ポジション毎に雇用するスタイルの欧米ではそのポジションで採用される人数は一人です。多くの応募者の中でたったの一人。そう、それは応募者の中で絶対的にベストな存在である人だけが契約オファーを勝ち取れることを意味します。

当たり前と言えば当たり前ですが、そんな激しい就職を勝ち抜いたベストな人材が集まった集団。それがF1チームという存在なのです。もし、F1の世界を目指すのであれば常に意識しておかねばならないこと、それがこの章のタイトルとして書いた"Be the best"なのです。

終わりに


F1的な就職活動のススメ、いかがでしたでしょうか?今後、F1の世界を目指す人が余計な遠回りをしなくて済むようにと思い、出来る限り参考となる情報とアドバイスを書いたつもりですが、少しでも参考になれば嬉しい限りです。

最後にこのテーマでブログを書こうと思ったキッカケと僕の想いを書こうと思います。まずキッカケについてですが、たくさんの方々からこんな質問を受けたことでした。

『どうしたらF1の世界で働けるようになりますか?』

これまでは時間の許す限り、相手の立場も想定しつつアドバイスをしてきましたが、個別にアドバイスをすることには時間かつ体力的に限界があります。ならば、少しでも多くの人に参考となる情報を届けたいと考え、このテーマでブログを書くことを決めました。

2018年シーズン後のパーティにて
一方、改めて気付いたこともあります。それは質問をしてきた方々にとって本当の正解を僕は持ち合わせていないということです。本来、その正解は質問をしてきた方の中にしか生まれ得ないもののはずですから、残念ながら僕がどんなに頑張ってアドバイスをしたり、情報発信をしたところで参考程度にしかならないのです。

だから、これからF1を目指す人へ僕からお願いがあります。

僕がこれまでに執筆してきた『僕がF1エンジニアになるまで』、『F1的な就職活動のススメ』は僕が経験してきたストーリーでしかありません。F1への道程をどう築き上げていくのか?その答えは自分自身の中にあります。自分自身の内なる可能性を信じ、その答えを自分自身で真剣に考え、自分自身のストーリーを築き上げていってください。

これからF1を目指して頑張る皆さんの健闘を心から祈っています。そしていつの日か、F1の世界で皆さんにお会いできることを楽しみにしています。

[おわり]

2018年11月10日

F1的な就職活動のススメ【F1就職最前線①】

[前回のブログ]
[重要なお知らせ(Important notification)]


F1の就職最前線とは?


いよいよ『F1的な就職活動のススメ』も最終章。今回のブログではF1就職最前線と題し、F1業界ではどのような採用スタイルを取っているのか?応募者数ってどれくらい?などの疑問に答えつつ、契約獲得に至るまでの経緯を紹介していきます。

(引用元:Williams F1公式サイト)
さて、決して簡単に開かないF1への門ですが、それでも諦めずにその門戸を叩き続ける情熱と根気が必要になります。しかし、かつて僕がやっていたように闇雲に叩いても意味がありません。そして、これからF1の世界で働くことを目指す人に余計な遠回りをして欲しくありません。

そこで、F1を目指す上で理解しておいて欲しいことを最初に書きたいと思います。

F1への情熱は…


突然ですが、もし、あなたがF1の世界で働くことを真剣に考えているのであれば、F1ファンとしての情熱を一旦は忘れる必要があると僕は考えています。『え?!なんで??』と思うかも知れませんが、これには明確な理由があります(その理由については後述)。

華やかな世界のF1。レース部門は世界中を転戦し、開発部門はファクトリーで最先端の技術開発に勤しみ、メカニックはピットで迅速かつ正確にマシンを組み上げ、レースではトップドライバー達が激しいバトルを繰り広げる…こんな世界で働きたいと真剣に考えている人は世界中にたくさんいます。

そんなF1の世界に憧れる人に向け、Williams F1 Teamが公式サイト上でキャリアに関する アドバイスのページを設けていることをご存知でしょうか?そこには次のようなことが書かれています。

Williams F1 Teamからのアドバイス①

[Question]
"I am GCSE student and would like advice on the best route to enhance my opportunity to achieve a career in Motorsport?"
[Answer]
"We would advise you first and foremost to give your best at school, whichever career path you chose. It’s also important to learn, particularly for a career in F1, that most often success comes from sustained hard work as opposed to occasional displays of brilliance"

[質問]
私は高校生なのですが、将来モータースポーツでのキャリアの可能性を高めるにはどうしたら良いかアドバイスを下さい。
[回答]
真っ先にアドバイスしたいことは、あなたがどんなキャリアを選ぼうとも、学校でベストを尽くすことに他なりません。特にF1でのキャリアを目指すというのであれば、一過性の努力による成果ではなく、継続的な努力こそが最終的な成功に繋がることを知っておくと良いでしょう。

さらに、この続きにはかなりストレートなアドバイスが書いてあります。どの大学が望ましいのかなど、具体的な学歴についても躊躇なくFAQで紹介するあたり、F1が常に最高の人材を求めているかが良く分かるかと思います。ある意味、イギリスは日本以上に学歴社会なのかも知れません。

Williams F1 Teamからのアドバイス②

[Additional Answer 1]
"Specifically though I would advise you follow the numerate disciplines for your GCSEs and A-Levels i.e. Maths (essential), Physics, Chemistry, Design & Technology, IT etc. You should eventually aim to do a degree in an engineering discipline i.e. Mechanical, Automotive or Aeronautical. As for choice of University or college, with Cambridge, Imperial, Brunel, Bristol, Loughborough and Southampton being popular high-end choices for F1 hopefuls."
[補足回答1]
もっと踏み込んでアドバイスをすると、高校での理系科目(数学、物理、化学、設計技術、IT分野)において最良評価を取れるようにすると良いでしょう。また、最終的には工学系の学位(機械工学、自動車工学、航空宇宙工学など)の取得を目指しましょう。大学の選択についてはケンブリッジ大学、ロンドンのインペリアルカレッジ、ブランネル大学、ブリストル大学、ラフバラ大学、サウサンプトン大学などの名門大学への進学が望ましいでしょう。

[Additional Answer 2]
"It is also important to get practical experience, so try to use your vacations or gap year etc to get some. This could be paid employment in a garage or workshop or even voluntary labour for a junior race team. When you get to University joining the Formula Student Team is a great way of getting really good hands-on experience, as well as being a lot of fun."
[補足回答2]
実践経験を積むのもまた重要なことです。そこで大型連休などを活用して実務経験を得られるようにしてください。ガレージやワークショップでの給与付きの仕事でも良いですし、下位カテゴリのレースチームでのボランティア業務も良いでしょう。また、大学に入学したら、学生フォーミュラチームに加入し、楽しみつつも実践経験を積むというのも良いでしょう。

さて、この章の冒頭で『F1ファンとしての立場は一旦は忘れるべき』と書きましたが、ここでその理由について書きたいと思います。

Williams F1 Teamのアドバイスは、F1チームでの仕事を得るためにどんな努力をすれば良いのか?その具体的な方策を示してくれていますが、そこから汲み取れるメッセージは『あなたの情熱をあなた自身の切磋琢磨に費やして欲しい』というものだと思います。

(引用元:Williams F1 Team公式サイト)
その切磋琢磨はいつも楽しいものではなく、どちらかというと厳しくも地味な道程です。あえて厳しい言い方をしますが、プロフェッショナルとしてF1チームに関わることを目指すのであれば、趣味としてF1に関わることと根本的に異なる世界に身を置くことを覚悟しなくてはなりません。

今まさにこの瞬間もその情熱を未来に向けて注いでいる人が世界にはたくさんいますから、これも一つのコンペティション(競争)です。もちろんF1ファンであることを辞める必要はありませんが、競争相手に負けないためにも、自分がF1ファンであることを忘れるくらい自己研鑽に励む必要があると僕は考えています。これがF1ファンとしての立場を一旦は忘れるべきと言う理由です。


競争を勝ち抜くには?


上の章でも述べたように、本当にたくさんの人がF1の世界を目指しています。特に競争が激しいのは大学新卒や若手の人材市場です。新卒学生の応募の多いジュニアエンジニアのポジションだけでなく、インターンシップのポジションになると1名の枠に300名以上の学生から応募があるそうです。

一方で僕のように実務経験のある場合も簡単ではありません。応募数はさほど多くありませんが、それでも応募倍率は100倍近くはあります。加えてF1の業界内にだけでなく他業界から熟練のエンジニアがこぞって応募してくるので、これもまた簡単ではありません。

『そんなに大変なのか…自分には無理かも…』

そう思う人も少なくないかも知れません。しかし!頼もしいことに、こんな熾烈な競争に挑む日本人若手エンジニアや学生も少なくないのです。その中には、すでに複数のF1チームから面接に呼ばれた実績を持つ人もいます。そんな勇猛果敢な若手エンジニアや学生たちに共通して言えるのは、以前のブログで紹介した、4つの大切な要件の4つ目に書いた『技術への探求心』が特に強いことです。

自作のムービングベルト式風洞実験機
例えば、車両モデル、ムービングベルト、ダウンフォース計測装置など全部一人で作り上げてしまうなど、僕も驚かずにはいられないほどモノ造りへの情熱を持っている若手もいます。上の画像はその若手による自作のムービングベルト式風洞実験機です。

確かにF1チームに加入することは簡単なことではありません。しかし、他人にない独自の強みがあれば、この競争を勝ち抜ける可能性はグッと高まると僕は考えています。大学での研究や仕事などを通じて『技術への探求心』を育み、ゼロから何かを生み出す『創造力』を培うこと。ここに紹介した若手エンジニアのように、これを実践することを強くオススメします。

最終章第二弾に向けて…


さて、次回のブログが最終章第二弾にしてF1的な就職活動のススメの最終回となります。F1チームへの応募から契約オファーに至るまでの流れを紹介しつつ、最終的にどんな人が契約オファーを獲得しているのかを書いて最終章を締めたいと思います。

次回の更新もどうぞお楽しみに!

[つづきはコチラ]

2018年11月4日

F1的な就職活動のススメ【履歴書CVとは?】

[前回のブログ]
[重要なお知らせ(Important notification)]


海外就職に必要な書類とは


今回はイギリスなどヨーロッパ圏内での就職活動に求められる応募書類を紹介したいと思います。以前のブログでも応募方法の概要を紹介しましたが、その詳細については踏み込んでいませんでした。そこで、将来ヨーロッパなどの海外で働くことを夢見ている人向けに参考となるであろう具体的な内容を紹介していきます。


まず最初に、応募の際に求められる代表的な書類を紹介しましょう。一般的に必要となるのは以下の三点です。三点目の補足資料は必須ではありませんが、例えば自分の得意分野の紹介プレゼンテーションなど、準備しておくと有利になることもあるのでリストに加えてみました。

  • 履歴書(Curriculum Vitae)
  • 挨拶状(Covering Letter)
  • 補足資料(Support Document)

そして、今回のブログで深掘りして紹介するのはCV(Curriculum Vitae)と呼ばれる履歴書についてです。CVはヨーロッパで就職する際には絶対に求められる重要な書類であり、CVを作らずして就職機会を得られることはあり得ません。エンジニアはもちろん、メカニックなどのポジションでもCVの提出は必須です。また、日本の履歴書と異なりコンビニでテンプレート用紙が売っているわけでもありませんので、自力で作成する必要があります。

そんな自作の自己アピールの履歴書、それがCVなのです。

何を書けば良いのか?


一番最初に浮かんでくるCVについての疑問はその書き方と内容でしょう。一般的に、CVには以下の内容が含まれていることが求められます。ちなみに、画像や写真を紙面に載せてはならず、文字と罫線のみで2ページ以内で構成することがCVの基本的な作法となります。ただし、ドイツ語圏の国では応募者の顔写真を掲載する場合がありますので、各国の慣習に合わせると良いです。

①Personal Information

個人を特定するための情報です。僕の場合は次の六つの情報を織り込みました。

  • 氏名(ローマ字でパスポートと同表記)
  • 現住所(英字表記)
  • 連絡先(メールアドレス・電話番号)
  • 生年月日
  • 家族構成(未婚・既婚など)
  • 国籍

最初の三つの項目(氏名・現住所・連絡先)は必須だと思いますが、残りの三つは必ずしも記入する必要はないと思います。本来は国籍、年齢などで採用判断が左右されるべきではないからです。しかし、日本国籍である僕の場合、イギリスの就労ビザ取得が必須だったため、詳細な情報を含めておきました。

②Professional History

応募時点での職務履歴を書きます。現在から過去の順番でそれまでの経験を以下の情報と一緒に書き出します。

  • 会社名
  • 勤務期間
  • 職務ポジション名
  • 担当業務
  • 成果や貢献した内容

日本の履歴書と決定的に異なるのは、どんなポジションで仕事に従事し、どんな成果を出したのかも具体的に書く必要があることです。成果などについては、要点をまとめた上で箇条書きスタイルで書き出します。

ところで日本人の場合、欧米と比較して転職する回数が少ない傾向にあるので、ずっと同じ会社に勤務している人も多いかと思います。その場合は社内での所属部署での経歴を詳しく書きましょう。

なお、学生の場合は在学中に経験したインターンシップでの職務経験を書くことになりますが、即戦力としての加入を求められる欧米では、このインターンシップの職務経験をCVに書けることが大きなアドバンテージになります。


③Skill&Knowledge

自身のスキルや知識についての情報です。僕の場合は技術的な観点でこの情報を構成してみました。それまでに扱ったことのある技術的なソフトウェアとそのスキルレベル、強みと成り得る工学知識(機械工学、制御工学、電気電子工学など)、語学レベル(英語、日本語、フランス語)などです。

人それぞれアピールポイントも違うので、コレという正解はありませんが、一度自分自身のスキルを見つめ直し、CVに書いておくべきスキルを選定すると良いでしょう。例えば、まだ使用経験が3ヶ月程度のソフトウェアなどはBeginner(初心者)などの脚注を着けるか、経験が十分になるまでCVへの掲載を見送るなどの対応が必要です。

④Educational History

学歴に関する情報です。以下の情報を書きます。ある程度の職務経験がある場合(目安として5年以上)、紙面のスペースを効率的に活用するために最終学歴の記述だけでもOKかも知れませんが、修士号を持っている方は学士号の記載もしっかりと明記します。

  • 最終学歴の学校名
  • 在学期間
  • 取得学位名
  • 卒業成績評点

卒業時の成績評点に関してですが、日本国内共通の評点基準が無いようですので、無理して書かなくても大丈夫だと思います。もし大学での成績が優秀だったのであれば、そのことが分かる記述をしておくのも良いかも知れません。

イギリスの大学を卒業した場合は、必ず大学での評点を記載しましょう。以下の記述はイギリスにおける共通の評点基準です。エンジニアとしてF1チームへの就職を目指す場合、最低でもUpper Second-Class(2:1)が求められることが一般的です。

  • First-Class Honours (First) (70% and above)
  • Upper Second-Class Honours (2:1) (60-70%)
  • Lower Second-Class Honours (2:2) (50-60%)
  • Third-Class Honours (Third) (40-50%)

⑤Reference

推薦人のことをReferenceと言います。必須項目ではありませんが、もし自分を推薦してくれる知人がいるのであれば、書いておくとちょっとだけプラスになることがあります。応募先のチームで働いている知人、大学で卒業研究を担当してもらった教授、過去に働いていた会社の上司などにReferenceをお願いします。

ReferenceとしてのOKをもらえた場合、その推薦人の氏名、会社名、ポジション名、連絡先(メールアドレス)をCVに書きます。その推薦人に問い合わせの連絡が行くことは恐らくほとんどないとは思いますが、ReferenceがあるとCVの信頼度が少しだけ上がります。

以上、5点となります。注意して欲しいのは、ここに書いたのはあくまで一般論であり絶対ではないということです。社会人経験の長い人、就職活動中の学生など、立場によってCVのスタイルは変わりますので、自分の考えるベストなスタイルを模索してみてください。

紙面から伝わる熱意


今回のブログではCVに書くべき内容について解説しましたが、これを読んでいる皆さんはどう感じましたか?CVのことを良く知らなかった人でも『書く内容は日本の場合に比べると少し多いけど、海外ならこれくらいは求められて当たり前なのかもなー…』と感じた人もいるかも知れませんね。とにかく、上に解説した項目を紙面に書き下ろしていけば、それなりの体裁のCVを作ることができると思います。

一方で『CVはちゃんと書いたつもりだし、何度応募しても面接に呼ばれず、お断りのメールばかり…』という人も少なくないと思います。これまでにもイギリス・日本で学ぶ学生さんや後輩に求められCVの書き方についてアドバイスをしてきましたが、全ての人に次のような事を伝えてきました。

『CVを見ればその人の熱意が分かる。』

CV作成は書き手にある程度の自由度と裁量が任されているので、読み手はCVに少し目を通しただけで、書き手がどれほど真剣に書いてきたのかがとても良く分かるのです。良く考えられたCVほど『俺を見てくれ!俺の強みはこれだ!』という熱意を強く感じますし、その人の経歴や強みが理解し易いのです。

このように自分の実力と魅力を余すことなく100%伝えることが、CVを書く上でとても大切なのですが、何度応募しても面接に呼ばれない場合、自分の実力が熱意とともに100%伝わっていない可能性が高いです。このような状況に直面している人は改めて自分のCVを見直すことをオススメします。

CVの改善に終わりはない


F1への就職活動を始めて以来、僕は自分のCVに27回ものメジャーアップデートを重ねてきました。その過程の中で僕が意識するようになったことは次の3点です。

  • 必要十分な情報が抽出され、CVに落とし込まれているか?
  • 文章の表現やレイアウトが美しくまとまっていて理解しやすいか?
  • CVの紙面から自分のプロフェッショナルとしての価値を感じられるか?

このような意識とともに戦略的に考え抜いたCVを作り上げること。これさえできれば、面接に呼ばれる可能性は格段に高くなると僕は考えています。F1に限らず海外での就職を目指している人は、自分自身の珠玉のCVをぜひ作り上げることを強くおススメします。

次回はいよいよF1的な就職活動のススメの最終回となります。最終回は『F1就職最前線』をお届けする予定です。次回更新もどうぞお楽しみに!

[つづきはコチラ]