2019年5月30日

ミニ四駆の運動と制御-第4章-

[前回のブログ]
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タイヤスリップ角の定式化


前回のブログでは、コースの壁からの反作用力がミニ四駆に減速をもたらすことを解説しましたが、今回のブログは詳細に現象を理解するため、各タイヤにおけるスリップ角を定式化します。さらに得られた式からミニ四駆のセッティングとの関連性について考察します。

ダッシュ4号キャノンボール
(引用元:タミヤ公式サイト)
なお、今回のブログは安部正人氏の著書『車両の運動と制御』の第3章に記載のスリップ角の導出をより詳細に解説した内容となっています。車両運動を勉強し始めた学生や、学生フォーミュラのシャシー担当の学生にも参考になれば幸いです。

車両仕様パラメータの定義


まず初めに、定式化に必要となるパラメータを定義する必要があります。次の図にパラメータをまとめてみました。基本的な諸元は一般的な乗用車とほぼ同一ですが、自転中心は車両重心ではなく、前後ローラー間ホイールベースの中心にあることに注意してください。

図(1)諸元一覧
それぞれのパラメータは次のように定義しました。また、正負の定義は車両前方、右方向、時計回りをプラスとしています。今回は特に単位は記載していませんが、SI単位系に準拠するとします。

諸元パラメータ一覧
スリップ角は次の二段階で定式化を進めていくこととします。
  1. 各タイヤの自転による移動速度ベクトルの定式化
  2. 各タイヤの公転による移動速度ベクトルとの合成
なお、上記1および2それぞれの定式化では車両の自転中心に固定された車両座標系を前提としていることに注意してください。


タイヤの自転による移動速度ベクトル


最初に自転による移動速度ベクトルのみを定式化します。タイヤの接地点には次の図に示すように速度ベクトルが発生しており、自転中心とタイヤ接地点の距離および角速度から速度ベクトルを求めることができます。

図(2)自転運動による各タイヤの速度ベクトル
ここで、便宜的に図(2)に示す車両座標系(車両前後方向をx軸、車両横方向をy軸)に基づき、図中の速度ベクトルを分解すると図(3)のようになります。

図(3)各タイヤの速度ベクトルの分解
次に図中の四つのベクトルのx方向とy方向成分を求めます。ここで、各タイヤの自転による速度ベクトルの添え字はタイヤの位置を表します。
  • FL : Front Left
  • FR : Front Right
  • RL : Rear Left
  • RR : Rear Right
各タイヤの速度ベクトルの大きさは自転中心とタイヤ接地点の幾何学的関係によって求まり、次式のように表されます。

式群(1)各タイヤの自転速度ベクトルのx軸およびy軸の成分
それぞれのタイヤに発生している速度ベクトルの大きさ、および車両前後方向の中心線とタイヤ接地点中心の成す角度は、車両諸元と自転中心周りの角速度より定式化することができ、次のように表されます。

式群(2)自転速度ベクトルの大きさと角度の正弦・余弦
上記の式群(2)を式群(1)に代入すると、結果的に次のようにシンプルに定式化されることが分かります。

式群(3)整理後の自転速度ベクトルの大きさ
上記式群(3)は自転による速度ベクトルですから、これらに公転による速度ベクトルを足し合わせる必要があります。今回は左右のローラー軸間距離がフロントとリヤで等しいとしているため、公転による速度ベクトルは車両座標系のx軸方向にのみ速度成分を持ちます。つまり式群(4)に示す各x成分に公転の速度Vを足し合わせるだけでOKです。ベクトル合成の結果を次の図(4)に示します。

図(4)自転ベクトルと公転ベクトルの合成
なお、前後で左右のローラーの軸間距離を不等長とした場合、自転の回転中心周りに定常的な車両スリップ角が発生します。このため、もう少し複雑な式になるのですが、労力と時間の都合上、今回のブログでは割愛させて頂きます(汗)。興味のある方はぜひ定式化にチャレンジしてみてください。

さあ、ようやく自転と公転それぞれの速度ベクトル成分を足し合わせる段階まできました。上述の通り、式群(3)に示されている自転速度ベクトルのx成分に速度Vを足せば次の式群(4)を得ます。

式群(4)公転速度V加算後の速度ベクトルの大きさ
各タイヤのx軸とy軸方向成分が導出できたので、あとは式群(4)を使ってスリップ角を求めるのみです。ここでは、三角関数の近似を適用せず、正接の逆関数で各タイヤのスリップ角を求めることとします。

式群(5)各タイヤのスリップ角
安部正人氏の著書『車両の運動と制御』の第3章では、スリップ角が十分に小さいと仮定し三角関数の近似を適用しているため、もっとシンプルな式になります。しかし、ミニ四駆の場合は近似を適用できるほどタイヤスリップ角が小さくなりそうにないため、近似はせず、逆三角関数をそのままにしていることに注意してください。

ところで、ミニ四駆はコースの壁に沿って走行しているため、式群(5)に含まれる公転速度Vは、公転半径Rと自転の角速度ωの積に等しいという束縛条件を持ちます。この束縛条件を式群(5)に導入すれば、最終的に各タイヤのスリップ角は更にシンプルに次のように表されます。

式群(6)各タイヤのスリップ角(束縛条件適用後)
上記式群(6)の最大の特徴は、スリップ角が全て幾何学的な関係として表現されることです。つまり速度とは無関係にスリップ角が決まるのです。ただし、この束縛条件は定常的な旋回運動の時にのみ成立し、コーナーへの進入・脱出時の過渡的な旋回運動では成立せず、タイヤスリップ角は速度依存性を持ちます。

まとめ


今回のブログでは、タイヤスリップ角の定式化について取り組んだ結果、次のことが分かりました。
  • タイヤスリップ角がホイールベースとトレッド幅に依存する
  • タイヤスリップ角は左右間で異なり、その差異はトレッド幅によって決まる
  • 束縛条件を適用すると、タイヤスリップ角の速度依存性が消える
  • ただし、その束縛条件はコーナー進入・脱出時には適用できない
ここで分かったことを元にコーナリング速度の向上策を考えるならば、『トレッド幅を大きく』しつつ『車両のロール運動を誘発するローラーセッティングを施す』ことなどが挙げられます。

トレッド幅を大きくした場合、外側タイヤのスリップ角は減少する一方で内側タイヤのスリップ角は増加してしまいます。そこで、車両のロールを誘発するローラーセッティングとすることで内側タイヤの荷重を減らす(もしくは接地させない)ことで、内側タイヤの影響を小さくする…というのがこのセッティングの狙いです。

今回のブログの内容は理論に終始したため少々難しく感じたかも知れませんが(汗)、次の最終回では空力とミニ四駆の運動の関係性について解説したいと思います。次回ブログの更新もどうぞお楽しみに!

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