2018年7月21日

F1と学生フォーミュラ【イギリス大会編】

皆さんは『学生フォーミュラ』ってご存知でしょうか??

学生フォーミュラとは学生自らがフォーミュラカーを開発するモノづくり競技のことで、アメリカのSAE International(Society of Automotive Engineering International)が1980年に大会を開催して以来、現在では多くの国で開催されています。

開催国によって名称は少し異なりますが、アメリカではFormula SAE(1980年~)イギリスやヨーロッパではFormula Student(1998年~)と呼ばれています。日本では自動車技術会全日本学生フォーミュラ大会を主催しています。日本大会は今年で16回目の開催を迎え、イギリス大会は今年が20回目の記念大会でした。

Silverstone Circuit International Pit

僕はこの全日本学生フォーミュラ大会に第一回大会(2003年)からスタッフとして関わり始めました。途中、仕事が忙しく関わることのできなかった年もありましたが、16年の長きに渡りこの大会に関わってきました。F1で働く現在もデザイン(設計)審査員としてレポートの査読に関わっています。もはやライフワークになっていると言っても過言ではありません(笑)。

さて、今回のブログでは先日イギリスで開催されたFormula Student UK(FSUK)大会を見学してきたので、その様子を紹介したいと思います。F1チームが数多く拠点を構えるイギリス。その国で開催される学生フォーミュラの特徴についてもフォーカスを当てていきます。



イギリス大会の特徴とは?


F1発祥の地イギリス。そしてイギリスのモータースポーツの聖地とも言えるのがシルバーストーンサーキットです。イギリス大会はこのシルバーストーンサーキットで毎年開催されています。大会会場としては申し分のない場所ですね。これは素直にうらやましいです!かつてメインピットとして使用されていたコプスコーナー寄りのナショナルピットがイギリス大会の開催拠点となります。

ナショナルピット(コントロールタワー寄り)
この写真がナショナルピットです。ナショナルピットの1区画につき4チームが割り当てられています。本物のサーキットで本物のピットを使って開催されているので、否が応でも気分は盛り上がってしまいますね!

ナショナルピット(コプスコーナー寄り)
そしてナショナルピットのパドックからコプスコーナー方向を見るとサーキットに常設のオープンカフェと、移動式のアイスクリーム屋さんが見えます。この時期はイギリスでも最も暑い時期で、しかも当日は天気がかなり良かったのでアイスは飛ぶように売れていました。

…と、ここまでは普段のシルバーストーンサーキットでのイベントと同じなのですが、上の二枚の写真を撮った場所から反対を向くと世界的にも有名な企業などの出展ブースが目に入ってきます。

BOSCH社(ドイツ)の出展ブース
MathWorks社(アメリカ)の出展ブース
ボッシュなどの自動車系企業やマスワークスなどのソフトウェア企業がこぞってアピール用のブースを出展しており、学生とのコミュニケーションを図っています。目的は主に企業の認知度向上ですが、時には優秀な学生をヘッドハンティングすることもあるようです。そしてイギリス大会のサポート企業として最も注目を浴びているのは…

MAHPP社(イギリス)の出展ブース
メルセデスF1のPU開発を担うMercedes AMG High Performance Powertrains(MA-HPP)社です。しかもMA-HPP社は大会の主要スポンサーでもあります。ちなみにF1車両開発を担っているのはMercedes AMG F1 Team(拠点:ブラックリー)で、PU開発はこのMA-HPP社(拠点:ブリックスワース)が手掛けています。ともにイギリスに拠点を置く会社ではあるものの、F1チームとは別の会社でメルセデスF1のPUは開発されているのです。

さらに大会のアンバサダーにはF1界でも大物のエンジニアが名を連ねており、かつてはロス・ブラウン氏もイギリス大会に深く関わっていました。今年はMercedes AMG F1 Teamのテクニカルダイレクターであるジェームス・アリソン氏とWilliams F1のパディ・ロウ氏が大会アンバサダーを勤めていました。

(引用元:Formula Student UK公式YouTubeチャンネル)
また、ルノースポールF1チームのタイトルスポンサーを勤める日産の高級車ブランドINFINITIも大会のスポンサーで『INFINITI Engineering Academy』と呼ばれる学生向けの技術者育成インターンシッププログラムをアピールしていました。世界各地から応募可能だそうですが、なぜか日本はその対象に含まれていませんでした…。これはちょっと残念ですね(汗)。

(引用元:INFINITI Engineering Academy公式サイト)
このようにF1の存在感をとても強く感じることのできるのがイギリスの学生フォーミュラ大会の最大の特徴なのです。




イギリス大会の学生の特徴とは?


学生の特徴について書く前に、まずはイギリス大会に参戦している大学をいくつか紹介してみたいと思います。

■ オックスフォードブルックス大学
Oxford Brookes University

日本人留学生にも人気でオックスフォードに拠点を持つ私立大学です。この大学の学生フォーミュラチームは過去にも優秀な成績を収めており、2018年のイギリス大会では総合2位を獲得するなど、実力は今も健在です。

2018年参戦車両
このチームには日本人留学生がメンバーとして加入していることが多く、今年も空力開発担当として一人の日本人留学生がこのチームで活躍していました。また、過去には日本の学生フォーミュラOBがこのオックスフォードブルックス大学の大学院に留学し、その後F1チームに就職したということもあります。この大学の卒業後にF1チームへ就職したというOBも多いので、F1を目指して留学するなら選択肢の一つになると思います。

■ バース大学
University of Bath

ロンドンから西に200kmに位置する都市バースにあるイギリスの名門国立大学の一つです。この大学の学生フォーミュラチームもイギリスでは強豪チームとして名を馳せており、今年のマシンも意欲的な作りとなっていました。

バース大学チームのピット風景
バース大学のフロントウィング
特に空力開発についてはかなり力が入っていました。製造品質も非常に高く、日本大会で言えば豊橋技術科学大学チームを思わせる美しさが印象的でした。このチームのチームカラーはグリーンなのですが、個人的にとても気に入っています(笑)。

■ サウサンプトン大学
University of Southampton

ロンドンから南西へ130kmほどにある港町の大学、それがサウサンプトン大学です。タイタニック号が出発した街としても有名です。そのサウサンプトン大学の学生フォーミュラチームですが、チームの歴史こそ浅いものの、ここ数年でかなり力を着けてきている印象です。今年はアルミハニカムモノコックを導入し、サスペンション設計も数年前に比べるとかなり進歩している様子です。

アルミハニカムモノコックを採用
このチームにも日本人留学生が一人在籍しているのですが、あるF1チームでの一年間のインターンシップを終え、次学期より再びこのチームで活躍することになるようです。ちなみにその留学生の彼ですが、F1カメラマンの熱田護氏のブログで紹介されています。また本人もブログを書いているので、F1エンジニアを目指して海外留学を検討している方は参考にしてはどうでしょうか?

さらにサウサンプトン大学は、空力の鬼才エイドリアン・ニューウェイ氏の出身大学であることでも有名で、大学には風洞実験室もあり流体力学・航空宇宙工学を学ぶのであれば、オススメの大学かと思います。

■ ラフバラ大学
Loughborough University

ロンドンから北におよそ180kmに位置するラフバラ大学。この大学はHAAS F1 Teamでチーフレースエンジニアを勤める小松礼雄氏が卒業した大学として有名かと思います。今年のチームメンバーには数名の日本人学生が所属しており、うち一名は今年のイギリス大会にも正規メンバーとして帯同していました。

マジメな作りのラフバラ大学チームのマシン
このチームのマシンは一つ一つのパーツに至るまで基本に忠実に作り上げられており、速さと信頼性を兼ね備えているという印象が非常に強かったです。実際、先日のイギリス大会でも速さを見せており、結果は見事に総合10位でした。

            


ここに紹介したチーム以外にも多くの有力チームがイギリス大会に参戦しているのですが、F1チームでインターンシップをしている(していた)学生がたくさんいます。このようにイギリス大会に参加する多くの学生は、F1を始めとしたモータースポーツの世界で働くことを目標に頑張っており、それがこの大会の大きな特徴の一つとなっています。

必ずしも全ての学生がF1チームに採用されるわけではなく、彼らがF1チームに就職するには驚異的な競争倍率を勝ち抜かなくてはなりません。新卒エンジニアのポジションではその倍率は300倍(!)ほどになります。このため、F1を目指す学生たちの学生フォーミュラ活動に掛ける熱意は、ある意味凄まじいものがあります。

バーミンガム大学のマシン
そんな彼らの必死の頑張り。これからも陰ながら応援…と思っていましたが、来年は正式にイギリス大会のデザイン(設計)審査員として関わることになりそうなので、今後はより直接的に応援していこうと思います。

最後になりますが、これまで学生フォーミュラをあまり知らなかった読者の皆さんへメッセージです。全日本学生フォーミュラ大会では、海外チームにも負けない熱意あふれる素晴らしいマシンがたくさん参戦しています。いずれこのブログでも大会の様子を紹介しようと思いますが、ぜひ全日本学生フォーミュラ大会にもご注目ください!

[おわり]


2018年7月15日

僕がF1エンジニアになるまで【完結編②】

[前回のブログ]
[重要なお知らせ(Important notification)]

最終回にあたって。


『僕がF1エンジニアになるまで』いよいよ完結となります。

今回のブログ更新では、フォースインディアF1チームから契約オファーを受けてからの僕の気持ちと現在の意気込みを書きたいと思います。そして、このブログを読んで頂いた読者の皆さんへのメッセージと、これから夢を実現したい人たちへのアドバイスも書きたいと思います。


また、なぜ『僕がF1エンジニアになるまで』を書くことにしたのか?そのモチベーションの源泉となった気持ちも綴ろうと思います。今回のブログはちょっと長くなりますが最後までお付き合いください。そして、『僕がF1エンジニアになるまで』を最後までお読み頂き本当にありがとうございました。

終わりから始まりへ。


フォースインディアF1チームから契約オファーをもらえたことでようやく開いたF1への扉。少しは落ち着ける日が過ごせるようになるかな…と思ったのも束の間でした。安堵と入れ替わるようにして僕が抱いたのは『恐怖』という感情でした。

それまでにF1での業務経験はもちろん皆無でしたし、モータースポーツ車両の開発経験もごく僅か。そんな僕がF1の世界でいきなり結果を出すことができるのか?このような疑問が僕に『恐怖』という感情を持たせたのだと思います。正直、自信なんて全くありませんでしたが、そもそも自信とは結果を出してこそ得られるものです。F1での仕事の自信はF1の世界で結果を出す以外に得られません。

また、F1に辿り着くことは僕のキャリアにとっては単なる通過点であり、始まりでしかありません。このことを再認識した僕は、今更ながら自分が飛び込もうとしている未知の世界に慄くのですが、それと同時に『ワクワク』という感情も持つようになります。

(引用元:フォースインディアF1公式サイト)
具体的には『F1の世界ではどれほどエキサイティングな仕事が待ち受けているのだろう?早くチームの戦力となって速さに貢献したい!』という感情です。そして、自分の人生において最も重要な新スタートを迎えることにあたり、こう決意を新たにします。

『いずれF1で勝てるクルマを開発してみせる!』

今、僕はこの決意とともにシルバーストーンにあるフォースインディアのファクトリーで、Vehicle Science Engineerとしての仕事に日々没頭しています。フォースインディアのような独立系チームがいつかトップチームに打ち勝つ日を夢見ながら。

F1を目指した日々の中で。


長きに渡ってF1を目指して頑張ってきました。決してラクではありませんでした。僕の実力不足が原因で大きな遠回りもしていたと思いますし、とてもツラい日もありました。それでも僕は常日頃からF1への夢をたくさんの人に語っていました。

大学時代の同期、三菱自動車と日産自動車の仲間、全日本学生フォーミュラの設計審査員の仲間、レーシングカートの仲間、ラジコンの仲間、学生フォーミュラで面倒を見てきた学生の皆さん、F1ですでに働いていた先輩の皆さん、そして何よりも自分の家族。自分でも恐ろしくなるくらいに大風呂敷を広げていたと思います。もうあとには引けないほどに。

(引用元:フォースインディアF1公式サイト)
しかし、僕の場合、とてつもなく大きく広げた大風呂敷が功を奏したようです。小さな可能性が少しずつその大風呂敷の中に積もっていき、ある時それが大きな可能性へと昇華したからです。さらに、その大風呂敷に巻き込まれつつも『応援しているよ!』と純粋に言ってくれるポジティブな人間関係も大きな可能性への昇華を手伝ってくれていたように思います。

だから僕は、もし叶えたい夢があるならば、それを誰かに話してみるのがいいと思います。『叶わなかったら恥ずかしいし…』と躊躇する気持ちもなくはないですが、自分の夢を誰かに話すことで自分はもっと頑張ろうとしますし、話相手となった人は『自分も頑張ろう!』と思ってくれるかも知れません。

夢の共有は双方にポジティブな影響を与え合うと僕は思います。多くの人と夢を共有すればする程、ポジティブな人間関係は大きな広がりを持つことになり、いつの日か自分の望む『何か』が起きると僕は信じています。


F1という夢の実現とは。


今、読者の皆さんの心の中にはどんな夢がありますか?人それぞれ様々な夢や想いがあると思いますが、その夢の実現に向けて一歩を踏み出すことは時として大きな勇気とリスクを伴います。だから、僕は夢の追求を安易に人にオススメすることができません。

(引用元:フォースインディアF1公式サイト)
それでも、僕がF1エンジニアになるという目標を達成できたのは、

『少しずつでもいいから、一歩一歩前に進んでいこう』

と決めていたからです。さらに何か決断を下さなければならない時は、

『ちょっとだけ難しい方を選んでいこう』

とも決めていたのです。これが僕の選んだスタイルでした。

僕は夢の実現とは『自分がありたいと思う姿と、今の自分の姿との差分を埋めていく修行の旅』だと考えています。このような旅に、僕のスタイルが全ての人に合うとは思いませんが、これから夢の実現に向けて頑張ろうとする人にとって、僕の経験してきたことが少しでも参考になれば幸いです。

僕が伝えたかったこと、伝えたかった人


2月末より連載を始めた『僕がF1エンジニアになるまで』ですが、この記事を書くにあたり、いくつかのモチベーションがありました。その中に源泉となったモチベーションがあります。正直に書くと、あるたった一人のためにこのブログ記事を書くことを決意したと言っても過言ではありません。

そのたった一人とは、日本で暮らす僕の愛娘です。

海の向こうに広がる世界を見据えて!
今はまだ5歳なので、このブログの存在も知りませんし読むこともできませんが、娘が成長して大きくなれば、彼女の中にきっと夢が芽生えてくると思います。それがどんな夢になるのか今の僕には知る由もありませんが、彼女がその夢を実現しようとした時、恐らく壁にぶつかり、悩み、苦しむと思います。その時に僕がどんなふうに自分の夢や目標を実現してきたのか?それを知ってもらうことが彼女にとって良き道標になればいいな…と、そんな思いでこのブログ記事を綴っていました。

F1を目指す気持ちが強く、自分の夢の実現を優先するあまり、父親としては100点満点であったとは決して言えません。その償い…という訳ではありませんが、F1の世界での夢や目標を実現することで、彼女にとって大いに誇れる父親になれるよう、これからも日々頑張っていきたいと思います。

そして将来、彼女が夢の実現に向けて歩みだした時、僕は彼女の夢を全力で応援してあげたいと思います。

終わりに。


4ヶ月以上に渡る連載ブログ『僕がF1エンジニアになるまで』を最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。このブログを通じて、読者の皆さんの心にポジティブな"何か"が芽生えたのであればとても嬉しい限りです。

それでは、連載ブログテーマ『僕がF1エンジニアになるまで』、最後はこの言葉で締めさせて頂きたいと思います。

『どうか、皆さんの夢も叶いますように。』


[おわり]

2018年7月8日

僕がF1エンジニアになるまで【完結編①】

[前回のブログ]
[重要なお知らせ(Important notification)]

さよなら、リヨン。


フォースインディアF1チームの面接も終わり、結果連絡を待っていた僕は、日本への帰国に向けてフランスならではの少々面倒な日々を過ごしていました。というのもフランスでは手続きごとは書面で通達しないとダメなことがほとんどで、フランス語力ほぼゼロの僕には苦行以外のなにものでもありませんでした(汗)。

アパートからのリヨンの眺望
次の仕事が確定していなかったこともあり、苦行な日々の中での心情はとても複雑なものでしたが、夏のファクトリーシャットダウン明けから2週間以内に連絡をするとのことでしたで気長に待つしかありませんでした。

どうにかこうにか現地の日本人やフランス人の助けのおかげで帰国の準備も無事に終わり、とうとう日本への帰国の日を迎えました。一年にも満たない、たった10ヶ月というフランスのリヨンでの生活。名残惜しさを感じつつ帰国の途に就きました。楽しくもあり、辛くもあったフランス生活でしたが、確実に僕を成長させてくれたように思います。

3.5次転職活動


前職であるSiemens Industry Software SASからは10月まで給与を頂けることになっていたので、すぐにお金に困ることはなかったのですが、オファーがもらえなかった場合に備え、念のため国内での転職活動を始めました。

幸いなことに多くの魅力的な企業からお話を頂くことができたのですが、その中でもドイツに拠点を持つIPG Automotive社の面接を受けさせて頂き、フォースインディアF1チームからオファーがもらえなかった場合はお世話になるという前提で内定を頂くことができました。IPG Automotive社CarMakerという車両運動シミュレーションソフトウェアが有名で、ドイツに拠点を置く会社です。

(引用元:IPG Automotive Japan公式サイト)
実はIPG Automotive社とは日産自動車在職時にちょっとしたご縁がありました。2014年の自動車技術会の春季学術講演会で学術発表をさせて頂いた時、同じ発表セッションにドイツ本社から来日していたIPG Automotive社の方々がいらっしゃったのです。セッションの合間に歓談したり、ちょっとしたビジネスの話もさせて頂いていました。

ただ、そういったご縁があったとは言え、『F1入りが実現しなかったら貴社でお世話になりたい』という、僕の一方的で勝手な都合にご理解を頂けたことについては、感謝しても仕切れません。

このように、僕のF1への転職活動では本当に多くの方々に応援・支援を頂くことができたのですが、そんなありがたい状況に感謝しつつも、いよいよ待望の瞬間を迎えることになるのです。


待望の結果連絡をもらうが…


運命の連絡は2016年8月30日のことでした。現在の上司からまずはメールで連絡が入りました。ドキドキしながらメールを開くと『電話で直接話がしたいのだけど、日本で繋がる番号を教えてくれるかな?』とのことでした。『え?電話で?』と少々戸惑いましたが、電話番号を連絡したところ、すぐに電話が鳴りました。

その時に話したことは極度の緊張のために鮮明には覚えていないのですが、一つだけ鮮明に覚えていることがあります。それはもちろん…

『君に契約のオファーを出したい。』

という言葉でした。F1への扉を開くために何度も、何度も、懲りることなくノックしてきましたが、ようやく…ようやくその扉が開いた瞬間でした。この時の僕の心情は歓喜というよりも安堵の方が強かったことを記憶しています。もちろん電話が終わってからは三回ほどガッツポーズをしましたが(笑)、実際にオファーをもらってみると、これまでのことが思い出され『少しは落ち着けるようになるな…』という安堵感に包まれました。

2016年全日本学生フォーミュラ大会会場にて
F1への就職活動を始めて、日産を退職しフランスへ移住。そして解雇と同時にフォースインディアF1チームとの面接…。仕事そのものだけでなく、自分の将来を切り拓くためにたくさんのことを考えては実行し続けてきました。このため、ずーっと張りつめていた僕の心はちょっと疲れていたのでしょう。安堵感はそんな心模様を反映していたのかも知れません。

この時の上司との電話では、契約オファーの他に年俸の交渉、その後の就労ビザの手続きについての簡単な説明を受け、『近いうちに再会するのを楽しみにしているよ!』という言葉をもらい電話を切りました。ここまでの感情は『歓喜』から『安堵』という流れでしたが、そう簡単に安堵することなどできないのがF1の世界なのかも知れません。

『安堵』の次に僕を包んだ感情は『安堵』とは全く正反対の感情だったのです。

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