学生フォーミュラとは
皆さんは『学生フォーミュラ』ってご存知でしょうか?? 学生フォーミュラとは学生自らがフォーミュラカーを開発するモノづくり競技のことで、アメリカのSAE International(Society of Automotive Engineering International)が1980年に大会を開催して以来、現在では多くの国で開催されています。
開催国によって名称は少し異なりますが、アメリカではFormula SAE(1980年~)イギリスやヨーロッパではFormula Student(1998年~)と呼ばれています。日本では自動車技術会が全日本学生フォーミュラ大会を主催しています。日本大会は今年で16回目の開催を迎え、イギリス大会は2018年が20回目の記念大会でした。
Silverstone Circuit International Pit |
さて、今回のブログでは先日イギリスで開催されたFormula Student UK(FSUK)大会を見学してきたので、その様子を紹介したいと思います。F1チームが数多く拠点を構えるイギリス。その国で開催される学生フォーミュラの特徴についてもフォーカスを当てていきます。
イギリス大会の特徴とは?
F1発祥の地イギリス。そしてイギリスのモータースポーツの聖地とも言えるのがシルバーストーンサーキットです。イギリス大会はこのシルバーストーンサーキットで毎年開催されています。大会会場としては申し分のない場所です。このシルバーストーンサーキット内にある、かつてメインのピットとして使用されていたコプスコーナー寄りのナショナルピットがイギリス大会の開催拠点となります。
ナショナルピット(コントロールタワー寄り) |
ナショナルピット(コプスコーナー寄り) |
…と、ここまでは普段のシルバーストーンサーキットでのイベントと同じなのですが、上の二枚の写真を撮った場所から反対を向くと世界的にも有名な企業などの出展ブースが目に入ってきます。
BOSCH社(ドイツ)の出展ブース |
MathWorks社(アメリカ)の出展ブース |
MAHPP社(イギリス)の出展ブース |
さらに大会のアンバサダーにはF1界でも大物のエンジニアが名を連ねており、かつてはロス・ブラウン氏もイギリス大会に深く関わっていました。2018年の大会はMercedes AMG F1 Teamのテクニカルダイレクターであるジェームス・アリソン氏とWilliams F1のパディ・ロウ氏が大会アンバサダーを勤めていました。
(引用元:Formula Student UK公式YouTubeチャンネル) |
このようにF1の存在感をとても強く感じることのできるのがイギリスの学生フォーミュラ大会の最大の特徴なのです。
イギリス大会に参加するチーム紹介
今回のブログでは、イギリス大会に参戦しているチームの中で日本人留学生とも関係の深い大学をいくつか紹介します。
Oxford Brookes University
日本人留学生にも人気でオックスフォードに拠点を持つ大学です。この大学の学生フォーミュラチームは過去にも優秀な成績を収めており、2018年のイギリス大会では総合2位を獲得するなど、実力は今も健在です。
2018年参戦車両 |
このチームには日本人留学生がメンバーとして加入していることが多く、今年も空力開発担当として一人の日本人留学生がこのチームで活躍していました。また、過去には日本の学生フォーミュラOBがこのオックスフォードブルックス大学の大学院に留学し、その後F1チームに就職したということもあります。この大学の卒業後にF1チームへ就職したというOBも多いので、F1を目指して留学するなら選択肢の一つになると思います。
University of Bath
ロンドンから西に200kmに位置する都市バースにあるイギリスの名門国立大学の一つです。この大学の学生フォーミュラチームもイギリスでは強豪チームとして名を馳せており、今年のマシンも意欲的な作りとなっていました。
バース大学チームのピット風景 |
バース大学のフロントウィング |
特に空力開発についてはかなり力が入っていました。製造品質も非常に高く、日本大会で言えば豊橋技術科学大学チームを思わせる美しさが印象的でした。このチームのチームカラーはグリーンなのですが、個人的にとても気に入っています。
University of Southampton
ロンドンから南西へ130kmほどにある港町の大学、それがサウサンプトン大学です。タイタニック号が出発した街としても有名です。そのサウサンプトン大学の学生フォーミュラチームですが、チームの歴史こそ浅いものの、ここ数年でかなり力を着けてきている印象です。今年はアルミハニカムモノコックを導入し、サスペンション設計も数年前に比べるとかなり進歩している様子です。
アルミハニカムモノコックを採用 |
サウサンプトン大学は空力の鬼才エイドリアン・ニューウェイ氏の出身大学であることでも有名で、大学には風洞実験室もあり、流体力学・航空宇宙工学を学ぶのであればオススメの大学です。
Loughborough University
ロンドンから北におよそ180kmに位置するラフバラ大学。この大学はHAAS F1 Teamでチーフレースエンジニアを勤める小松礼雄氏が卒業した大学として有名です。この大学は日本人留学生にも人気があります。程よくカントリーサイドにあるために学習環境が良く、かつ教育水準が高いという印象です。
マジメな作りのラフバラ大学チームのマシン |
このチームのマシンは一つ一つのパーツに至るまで基本に忠実に作り上げられており、速さと信頼性を兼ね備えているという印象が非常に強かったです。実際、先日のイギリス大会でも速さを見せており、結果は見事に総合10位でした。
ここに紹介したチーム以外にも多くの有力チームがイギリス大会に参戦しているのですが、F1チームでインターンシップをしている(していた)学生がたくさんいます。このようにイギリス大会に参加する多くの学生は、F1を始めとしたモータースポーツの世界で働くことを目標に頑張っており、それがこの大会の大きな特徴の一つとなっています。必ずしも全ての学生がF1チームに採用されるわけではなく、彼らがF1チームに就職するには驚異的な競争倍率を勝ち抜かなくてはなりません。新卒エンジニアのポジションではその倍率は300倍ほどになります。このため、F1を目指す学生たちの学生フォーミュラ活動に掛ける熱意は凄まじいものがあります。
バーミンガム大学のマシン |
キャリアとしての学生フォーミュラ
学生フォーミュラの海外大会では、この活動そのものをF1を始めとしたモータースポーツ系エンジニアへの登竜門として捉えている側面が日本よりも強いという特徴があります。F1エンジニアになるために、必ずしも学生フォーミュラを経験している必要はありませんが、『F1エンジニアになりたい』、『モノ造りが大好き』という人にとっては良い学びを得られる環境だと思います。
2020年以降にイギリスの大学に入学する場合、学生ビザでも卒業後に2年間の就労が許可される予定になるなど、F1エンジニアを目指す日本人学生にとっても挑戦する価値のある大会かと思います。海外留学を考えている学生はぜひ検討してみることをおススメします。
最後になりますが、これまで学生フォーミュラをあまり知らなかった読者の皆さんへメッセージです。全日本学生フォーミュラ大会では、海外チームにも負けない熱意あふれる素晴らしいマシンがたくさん参戦しています。いずれこのブログでも大会の様子を紹介しようと思いますが、ぜひ全日本学生フォーミュラ大会にもご注目ください!
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