2020年3月30日

ミニ四駆の運動と制御-第6章-

[前回のブログ]
[重要なお知らせ(Important notification)]

空力の適用方法を考察する。


前回のブログでは、空力効果によってミニ四駆のジャンプ時の姿勢をコントロールすれば、コースアウトのリスクが低くなり、安定した走行が実現できるのでは?という仮説を紹介しました。今回のブログではその仮説の背景にある考察を紹介します。

ライズエンペラー
(引用元:タミヤ公式サイト)
僕のF1での仕事は車両運動性能の最適化や分析ですが、その仕事の中で空力効果についても取り扱うことになります。しかし、空力そのものが専門ではないため『空力のブログテーマでは専門的な人の見解が欲しいよなぁ』と考えました。

そこで今回のテーマでは特別にムーンクラフトで空力開発に携わる神瀬エンジニアに協力を仰ぎ、アドバイスを監修して頂きました。

もしかしたらこのブログをキッカケに、ミニ四駆における空力デバイスの存在感が今まで以上に高まるかも?知れません。果たして空力を活用する可能性を見出せるのでしょうか?!

空力デバイスの候補


まず初めに、ミニ四駆に活用できそうな空力デバイスを三つリストアップしてみました。
  • 翼型ウイング
  • ディフューザー
  • エアダム型ウイング
ミニ四駆のウイングと言えば、グレードアップパーツでは可変リヤウイングA、ミニ四駆キットではブラックセイバーなどの翼型ウイングがあります。 また、ディフューザーについてはMAシャシーなどでその効果を狙ったと思われる形状もあります。

ブラックセイバー
(引用元:タミヤ公式サイト)
この他にも様々なグレードアップパーツやミニ四駆キットに空力デバイスが見られますが、今回はこの三つの代表的な空力デバイスに絞って考察してみます。


翼型ウイング(Aerofoil)


空力デバイスとしてのウイングと言えば、最初に思いつくのが翼型ウイングです。このウイングの特徴は、ウイングの背面と腹面の空気流れに速度差を発生させ、ウイングの背面と腹面間の圧力差でダウンフォースを得ることです。

F1のリヤウイング
(引用元:Racing Point F1 Team公式サイト)
このタイプのウイングは空気抵抗を抑えつつ、ダウンフォースを効率的に得られることで知られていますが、ミニ四駆には最適なのでしょうか?ここでムーンクラフトの空力エンジニアである神瀬氏の見解を対話形式で紹介します。

神瀬エンジニアの見解

自分
『F1や航空機はこのタイプのウイングが一般的。でも、サイズも小さくて速度域の低い(最大30km/h程度)ミニ四駆だと有意性のあるダウンフォース量は得られないと思っているけど、これについてどう考える?』


神瀬エンジニア
『このタイプのウイングで気を付けるポイントはウイング背面の流れですね。速度は最大30km/hと仮定して、ミニ四駆のボディ形状とウイング搭載位置を考慮すると、ウイング背面の流れにおいて剥離が起きてしまうと思います。』

翼型ウイングの空気流れの概念図

自分
『つまり、ウイング背面に剥離が起きることで、ウイング腹面との圧力差を発生させることは難しいということ?』


神瀬エンジニア
『はい。特にミニ四駆の場合、ボディ形状が複雑なのでウイング背面に乱れのないキレイな流れを導くことが難しそうですよね。なので、この翼型ウイングで有意性のある力を得ることはちょっと難しそうです。』

Photo By Isaias Malta
CC BY-SA 2.0, from Wikipedia

自分
『ふむふむ、なるほど。』


神瀬エンジニア
『ただし、ウイング搭載位置を高くすれば。(上の写真のような)1960年代のF1のように、ウイング背面に乱れのないキレイな流れを確保することができれば、それなりの効果が期待できるとは思います。』


自分
『ミニ四駆の公式レースの規定では最大70mmまでの高さが許容されているから、マウント位置を高くしてキレイな流れを確保することも出来なくもない。』

スワンネック型ウイングマウント
(画像引用元:NISMO公式サイト)

神瀬エンジニア
『モータースポーツの世界ではスワンネック式のマウントってありますよね。あれってウイング背面の流れを乱さないようにするためなんです。とにかく背面の流れを意識する必要があります。』


自分
『う~ん…高さを確保することはできそうだけど、マウント方式やその強度、ウイングのアスペクト比を総合的に考えると、翼型ウイングの発生する力の絶対値は期待するほど得られないかもね。』


神瀬エンジニア
『はい、そんな感じがしますね(汗)。』

翼型ウイング~まとめ


翼型ウイングはその搭載位置を最適化すればダウンフォースを発生させることは可能だが、その発生量は十分ではなさそう…というのが僕と神瀬エンジニアが至った結論です。

また、レーシングカーでは走行中の車体姿勢変化が小さいため、安定した空力性能を期待できますが、ミニ四駆ではジャンプ中の車体姿勢変化により、その効果が大きく変化すると想定されます。

ジャパンカップ公式サーキット
(引用元:タミヤ公式サイト)
前回のブログでも解説したように、近年の公式大会のサーキットレイアウトでは、車体姿勢に影響を受けることなく安定した性能が求められます。このことから、翼型ウイングはミニ四駆にとってはベスト…とはどうやら言えなさそうです。

では、ディフューザーはどうでしょうか?その考察については次章にて!次回のブログ更新もどうぞお楽しみに。

[続きはコチラ]

2020年3月25日

F1ナルホド基礎知識??【F1とシンギュラリティ】

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技術的特異点(シンギュラリティ)とは?


シンギュラリティ(Singularity)という言葉をご存じだろうか?

この言葉の意味するところは多岐に渡るが、最近では技術的特異点として認識される機会が多いのではないだろうか。つまり『人口知能(Artificial Intelligence)の自己進化により、究極的な能力を発揮し始めるポイント』と言う意味だ。近い将来、多くの仕事がAIに置き換わると言われている。

本ブログは上の画像をしっかりと確認した上で読むことを強く推奨
一方、数学・物理学的にシンギュラリティと言えば、状態空間方程式などマトリックスを用いた演算において、行列式がゼロ(detA=0)となり解が存在しないことを意味する。方程式として特異な点があるというわけだ。

つまり、シンギュラリティとは、対象となる系において何らかの特異点が存在すると言って良いだろう。

では、F1においてシンギュラリティとは何を意味するのであろうか?今回のブログでは、将来的にF1に訪れるかも知れないシンギュラリティについて、いくつかの技術的側面から考察してみることとする。

車両運動数値解析におけるシンギュラリティとは?


ご存じの通り、現代のF1ではドライビングシミュレータを使った車両性能開発はもはや必要不可欠と言って良いだろう。残念ながらその開発の舞台裏をこのブログで紹介することはできないが、シミュレーション技術における一般的知識の範囲で解説する。

車両運動シミュレーションでは様々なコンポーネントがモデル化されている。それらはほとんどの場合、様々な非線形特性を持つ。ここではごく簡単な例としてダンパーを紹介する。

ヤマハ パフォーマンスダンパーの内部構造
(引用元:ヤマハ発動機株式会社)
一般的にダンパーはストロークの速度に応じて力を発生するが、ダンパー内にシートバルブを設けることで意図的に発生する力を変化させることもできる。このため、必ずしも速度に比例した力を発生するわけではなく(つまり減衰係数が一定値ではない)、発生する減衰力は速度に対して非線形特性を持つ。

それだけではない。ダンパーのピストンとシリンダー間に発生する摩擦力は、数値解析において不連続性の原因となる。また、ダンパーは作動時間の経過に伴い熱を発生するため、それもまた減衰力特性を変化させてしまう。

このような非線形特性と依存性は陰解法を用いた車両運動数値解析においてシンギュラリティの原因となり、しばしば演算停止または演算負荷の過度な増加の原因となるのである。もちろん、陽解法であれば短時間で解に辿り着けるが、陰解法に比して解の精度が良くないという課題がある。


空力開発におけるシンギュラリティとは?


2000年代になり圧倒的に飛躍してきた技術がある。それがCFD(数値流体計算力学)である。CFDの基礎方程式として有名なNavie-Stokes方程式が提唱されたのは1845年であり、実のところ、流体の挙動を解き明かす理論は100年以上前に先人たちが到達していたのである。

Navie-Stokes方程式
(引用元:株式会社ソフトウェアクレイドル)
しかし、当時はその方程式を手計算で解くなど不可能であった。なぜなら10秒ほどの流れ場を計算するために、現代の計算機であっても数日ほど必要とすることもあるからだ。仮に手計算で取り組むとすると、一生かかっても計算を終わらせることはできないだろう。

つまり、計算機が必要不可欠なのであるが、その計算機の登場は1845年から95年後の1940年、Alan Turingによって開発されたbombeまで待たなくてはならなかった。

デジタルコンピュータの元祖Bombe
(引用元:Wikipedia)
もちろん、1940年当時の計算機でもNavie-Stokes方程式を解くことは不可能であり、CFDとして意味のある計算結果が得られるようになるまで更に60年ほどを要したのである。そういった意味では、空力開発のシンギュラリティはごく最近起こったと言っても良いかも知れない。

なお、ここで言う『Navie-Stokes方程式を解く』とは一般解を求めることではなく、一定の前提条件の下、陰解法で漸近的に数値解析するという意味であることに留意されたい。なお、一般解を導くことができた方はクレイ数学研究所へ報告すると良い。

今後、レーシングカーに求められるシンギュラリティとは?


正直に告白すると、私はこれからF1において起こるであろうシンギュラリティの存在に気付いていた。しかも、それは私が中学3年生だった1992年のことであった。

レーシングカーに限らず、クルマとはタイヤが路面に接地していることが運動の前提条件となる。いや、むしろ基本原理・原則と言って良いだろう。しかし、その原理・原則が根本から覆されてしまったとしたら?

それは正に今回のブログテーマであるシンギュラリティそのものだろう。もしくはラプラスの箱と言っても良い。

今、このブログを読んでいる皆さんに、ここでお願いしたいことがある。28年前に僕が気付いたというシンギュラリティを今から紹介するが、そのことについては秘密にしておいてもらいたいのだ。

この約束を守ってくれる人はこのページをしばらくスクロールして欲しい。あなたはいずれF1の世界に訪れるであろうシンギュラリティの真実を知ることになる。















宙に浮いてもコーナリングフォースを発生する
驚異的なカート
[おわり]

2020年3月15日

F1なるほど基礎知識【F1とその最高速度】

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はじめに。


F1には大きな魅力がたくさんありますが、その魅力の一つに最高速度が挙げられます。その数値は時速350kmを超え、加減速や旋回速度などトータルで考慮すると、地上を走る乗り物としては最速と言っても過言ではないと思います。

画像引用元:F1公式サイト
今回の『F1なるほど基礎知識』では、F1の速度について注目し、その基本を解説してみたいと思います。速度について知れば、レースを見る視点がいつもと違ってくるかも?知れません。

まずは比較してみよう。


何か物事を理解しようとするとき、効率の良いやり方の一つは『身近なものと比べてみる』ことでしょう。ここでは二つの身近なモノとF1を比較してみることにします。

自然現象との比較『台風』

僕がF1の凄さを説明する時によく引き合いに出すのが台風です。最近は非常に強い台風が日本を直撃するようになりましたが、2019年に関東地方を直撃した台風21号の最大風速は秒速50mです。これを時速に換算すると時速180kmになります。

引用元:NASA公式サイト

つまり、非常に強い台風だとしてもF1の最高速度のおよそ半分の風速しかないのです。しかもF1のラップ平均時速は230km/hほどなので、F1マシンとドライバーは台風をはるかに凌ぐ風圧を受けながら走っていることになります。

そして、その速さを生かし、想像を絶するほどのダウンフォースをF1マシンは生み出しているのです。

他の乗り物との比較『新幹線』

地上を走る乗り物で身近な存在と言えば新幹線です。その最高速度は東北新幹線の時速360kmで、F1とほぼ互角と言えます。しかし、F1は直線だけではなく旋回性能が圧倒的に高いことも特徴の一つです。

JR West 500 W8

鈴鹿サーキットの名物コーナーの一つに130Rというコーナーがありますが、この130Rはコーナーの半径が130mであることを意味しています。この130RをF1マシンは時速300kmを超えるスピードで駆け抜けるのですが、新幹線はこのような旋回半径をF1と同じような速度では走れません。 新幹線の場合、400~2000Rほどの半径でも速度を落とさざるを得ないようです。

もちろん、新幹線の用途と重量を考えれば、F1との直接比較そのものに大きな意味はありませんが、少なくともF1が凄まじい風圧の中で強烈な旋回性能を発揮していると言えます。


最高速度は重要か?


さぁ、いよいよ今回のブログテーマの核心に迫ります。F1関係のメディアやテレビ中継では、レース中や予選中の最高速度が紹介されています。次の表は2018年の日本GPでの最高速度をまとめたものです。速度の計測ポイントは130Rの先です。

2018年 日本GP予選トップスピードランキング
この表から分かることは、最高速度の高さが必ずしもラップタイムの速さに直結していないことを物語っています。F1を良く知るコアなファンの方にとっては『コーナーでのダウンフォースを増やしているのだから、最高速度が伸びないのは当然だよ。』という考えが思い浮かんだと思います。

しかし、それだけでは最高速度の重要性を正確に論じたとは言えません。次節でグラフを使ってもう少し詳しく説明してみることにします。

ポイントはコーナーからの立ち上がり速度


ここでちょっとした想像をしてみましょう。F1マシンが鈴鹿サーキットのシケイン、そして最終右コーナーを駆け抜け、ストレートで加速していく様子をイメージしてください。 そして次のグラフを見てください。

車速の時間変化
赤線は高ダウンフォースで、高ドラッグ(大きな空気抵抗)を表し、コーナーは速いけれども最高速が伸びないセッティングA。一方で青線は低ダウンフォースで、低ドラッグ(小さな空気抵抗)を表し、コーナーは遅いけれども最高速が伸びるセッティングB。

このグラフを見れば、セッティングBで最高速を高めても、7.2秒間もの間、セッティングAに対して遅い速度でガマンしなくてはなりません。こうなると、速度で追いつく前にストレートで距離の差をつけられてしまうのです。

コーナーの最低速度をとにかく高めること重要
ここでポイントとなるのはコーナーを駆け抜ける際の最低速度です。手っ取り早くラップタイムを短縮したいなら、ある程度は最高速度を犠牲にしつつ全体的にダウンフォースを増やし、最低速度を高めれば良いわけです。これが必ずしも最高速度が重要ではないという理由です。

そうだとしても!(まとめ)


『なるほど、最高速度を多少は犠牲にしてもいいから、コーナーを速く走れるようになればいいわけね。簡単な話じゃん?』そう思った人もいるかも知れません。しかし、妥協することなく速さを徹底的に追及するのがF1です。

『コーナーも速くして、最高速度も高めたい。』

二律背反する性能を実現するためにはどうしたら良いのか?それを実現するために各チームはマシンに様々な工夫を凝らしています。果たしてどんな工夫がなされているのか…残念ながらこれ以上のことは書けませんが、一つだけ言えることがあります。

『幾多の革新的な技術アイデアがF1マシンには盛り込まれている。』

ということです。妥協を許さず、至高の技術を実現すること。これがF1における技術スポーツなのです。

[おわり]