2019年12月14日

F1ヨーロッパ探訪記【ミルトン・キーンズ編】

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日々の生活とF1と。


僕の住んでいる街は、ノーサンプトン州(Northamptonshire)のブラックリー(Brackley)。ロンドンから120kmほど離れており、のどかな田舎町です。 お隣はバッキンガム州やオックスフォード州ですが、これらの地域には、他の地域にはない特徴があります。

(引用元:Racing Point F1 Team公式HP)
それはF1を始めとした『モータースポーツ』を生活の中に感じれること。今回のブログテーマ『F1ヨーロッパ探訪記』では、イギリスやイタリアなどのF1チームやモータースポーツにスポットを当て『F1チームってどんな街にあるの?』という素朴な疑問に、探訪記スタイルでお届けします。今回取り上げる街はミルトン・キーンズ(Milton Keynes)。さぁ、この街にあるF1チームとは一体?!

ミルトン・キーンズってどこ?


ミルトン・キーンズはロンドンの中心から北北西85kmに位置する街です。ロンドンのユーストン(Euston)駅から電車に乗れば42分ほどで街の中心にあるMilton Keynes Central駅に到着します。

Milton Keynes Central駅
このミルトン・キーンズという街の中心部はイギリスには珍しく近代的な街並みをしています。碁盤目状にキレイに区画整理されるなど、いくつかの画期的なコンセプトの下に都市開発されたそうです。が…街を歩いていると近代的な街並みにどことなくワビサビを感じさせる雰囲気があります。空きテナントもちょっと目立つ街の中心ですが、駅からの徒歩圏内(←と言っても20分)には、日本が誇る彼らの拠点があるのです!


HRD Milton Keynes


そう、Honda Racing F1のイギリス開発拠点のHRD Milton Keynes(←これが正式名称でいいのかな?)です。実は大学自動車部のT先輩がMK開発拠点の立ち上げに携わっていたそうで、それなりの縁を勝手に感じています。

HRD Milton Keynes (敷地内の標識には…)
僕にとっての(←あくまで僕にとっての)HRD Milton Keynesの最大の特徴は、正門ゲートに勤務する女性警備員です。僕は日本から友人が訪問してくると、F1に関連する施設を見せて回るのですが、今のところ100%の確率でこの女性警備員に呼び止められます。

警備員
『ちょちょ、ちょっと、あなたたち!どこから来たの!!』


友人
『あ、日本からです…。(!!もしかして怒られる?!)』


自分
『僕はイギリスに住んでて…友人にHRDを見せてあげたくて…。』


警備員
『あら、そうなの?もうこの辺りは観光したの?!』


友人
『いや、それがまだなんです(汗)。』


警備員
『だったら、あの街に行きなさい。あの街はいいわよぉ~。』


ここから彼女の話は止まりません…(汗)。そう、とってもおしゃべり好きな警備員さんなのです!訪問者が来るとテンションが上がってしまうのでしょう。ちなみにこの女性警備員さんの話好きはHRD Milton Keynesのスタッフ間でも有名(?)だそうで、『ああ、俺も彼女につかまると長いね(汗)』という某F氏の談話も。

残念ながら関係者以外は敷地内には入れませんが、外から眺めることは可能なので、イギリス旅行の際にはHRD Milton Keynesの正門前で警備員さんとのトークを楽しんでみてはどうでしょうか??

ただし…女性警備員の話は長いッス…。

Red Bull Racing


ミルトン・キーンズに所在するF1チームとは?そう、2019年からホンダPUを搭載してF1を戦っているレッドブルF1チームです。過去には日産自動車の高級車ブランドINFINITIと提携するなど、ホンダだけでなく日本人との縁があったF1チームでもあります。

Red Bull Racingのファクトリー正面玄関
とても近代的な外観の建物の正面にはF1マシンがドドーンと展示されています。もちろんファクトリーの中には入れませんが、外から眺めているだけでも『おお~ここで最新のF1マシンが開発・製造・メンテナンスされているのかっ!』と感動すること間違いなしです。

正面玄関脇に飾られているF1マシン(恐らく旧型のRB7)
現在はRed Bull Racingの他にRed Bull Advanced Technologies社の建物も新たに建設されているので、そのファクトリーも外から見学することができます。ブラックで統一された建物外観は圧巻の一言です。

Red Bull Advanced Technologies正面玄関
イギリスは公共交通機関が日本ほど充実していないので、これらのファクトリーを訪問するにはレンタカーやタクシーでの移動が推奨されますが、レースでなくともF1開発の最前線基地を訪れることはF1ファンならば興奮すること間違いナシです。

日本のF1ファンにまずは訪問をおススメしたい街。それがミルトン・キーンズです!

[つづく]

[余談]
※ミルトン・キーンズに住む日本人はミルトン・キーンズのことをミルキンと略します。


2019年12月12日

X-By-Wire(エックスバイワイヤ)技術が拡げる自動運転技術の可能性②

[前回のブログ]
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自動運転とX-By-Wire技術の関係


前回のブログで解説したように、自動車におけるX-By-Wire技術では、ドライバーの運転操作を信号に置き換えて自動車を走行させることを目的としています。しかし、航空機と異なり、ドライバーの操作力でも自動車の運転操作は可能であるにも関わらず、導入に至ったのはなぜでしょうか?

その理由は、ドライバーの運転操作が必ずしも正しいとは限らないことにあります。例えば、ドライバーが不適切なアクセル操作を操作すれば燃費の悪化に繋がりますし、ドライバーの意図通りの加速が得られないこともあるでしょう。

ダイレクトアダプティブステアリング(引用元:日産自動車公式HP)
しかし、X-By-Wire技術を応用すればドライバーの運転操作の情報に基づき、最も適切な運転操作を算出して修正することが可能となります。現在ではドライバーの運転操作には何らかの修正が加えられることは、もはや当たり前となっています。

このように、ドライバーの運転動作は何らかの形で電子制御による介入を受けていますが、エンジンスロットル、ブレーキ、ステアリングそれぞれの電子制御への介入の割合が100%となること、これがまさに自動運転です。つまり、X-By-Wire技術そのものが自動運転の土台になっているのです。

現在、全ての運転操作にX-By-Wire技術の適用が実用化されていることから、もはや自動運転の実現は時間の問題と言っても良いかも知れません。

それでもなぜ、自動運転技術の実現が難しいのか?


X-By-Wire技術はドライバー操作への介入が可能です。しかし、その介入は安全性を考慮した上で限られた条件下でのみ、作動されるように設計されています。この限られた条件を外すことが自動運転を実現することを意味しますが、この地球上に存在するすべてのドライバー、すべての道路、すべての環境条件においてドライバーの安全を担保して初めて自動運転が実現したと言えます。

しかしながら、すべての走行条件を考慮することは不可能と言っても良いかも知れません。走行条件の数は天文学的な数にのぼり、自動運転ロジックはその全てに対応できなくてはならないからです。しかし、だからと言って自動運転の実現が不可能かと言うとそうでもありません。実は不確定な条件を一つ除外すれば短時間での実現は十分に可能です。


その不確定な条件とは「人による運転操作」です。全ての運転操作を電子制御の判断に置き換えれば、不確定な条件を確実に取り除くことができます。

ドライバーの体調、気分、性格は運転操作に大きな影響を与える一方、電子制御システムは常に同じ判断を短時間で正確に下すことが可能です。技術的な観点で極論を言えば、この世に存在する全てのクルマにおいてドライバーの運転動作への関与を除外する(つまりドライバーレスにする)ことで技術的なハードルは各段に下がります。

自動運転開発ロードマップ(引用元:日産自動車公式HP)
もちろん、ドライバーレスをいきなり実現できるほど簡単ではないのが自動運転の技術開発であり、10年単位での時間が必要でしょう。ドライバーレスに関しては賛否両論ありますが、この圧倒的に困難な技術開発に対して有効な技術的パラダイムシフトの誕生に期待しつつ、自動運転の技術開発の進化には今後も目が離せません。

まとめ


自動運転を実現するには、X-By-Wire技術の動作シーンの圧倒的な拡大が必要であり、その拡大には困難を伴うことは明らかです。

自動車メーカー、IT企業それぞれ単独での開発ではユーザーにとって真に価値のある完全自動運転(Level 4)の実現は困難ですので、双方の強みと技術アセットを、会社の枠組みを超えて融合させていくことこそが、自動運転の実現のキーポイントになるのではないかと思います。また、その流れはすでにAlphabet(Google)が子会社化したWaymoの動向にも顕著に現れています。今後、IT企業、自動車メーカーがどのようにコラボレーションし、自動運転技術で抜きんでてくるのか?その動向にも注目です。

[おわり]

2019年12月9日

X-By-Wire(エックスバイワイヤ)技術が拡げる自動運転技術の可能性①

[重要なお知らせ(Important notification)]


はじめに。


近年、自動車メーカーに限らず様々な研究機関、IT企業による自動運転の技術開発競争が激化しています。今後もこの流れは続くと見込まれますが、一方でGoogleの自動運転技術開発の路線変更(当該事業の子会社化 + 自動車メーカーとの積極的な協業)、TESLA社の自動運転中と思われる死亡事故、Dyson社の電気自動車事業からの撤退など、電気自動車や自動運転の技術開発が難航していると思わせるニュースが少なくありません。


Steer-By-Wire搭載の日産スカイライン
(引用元:日産自動車公式HP)
なぜ、自動運転技術の開発は難しいのでしょうか?

本コラムでは、その難しさを解決するためのキー技術、『X-By-Wire(エックスバイワイヤ)技術』を紹介しつつ、自動運転技術開発の難しさの本質に迫ります。

開発工数の肥大化


この20年で自動車には数多くの統合電子制御システムが搭載されるようになってきました。その背景には、Bosch社による車載用通信プロトコルCAN(Controller Area Network)の普及があります。様々な電子制御が通信によって繋がることで、これまで実現が難しかった機能が数多く実現できるようになりました。

インテリジェントクルーズコントロール
(引用元:日産自動車公式HP)
その代表格はインテリジェントクルーズコントロールではないでしょうか。エンジン、ブレーキ、カメラ、レーダー、それぞれの電子デバイスをネットワークで繋ぎ統合制御することで、前車との距離を適切に保つ機能が実現可能になりました。このような電子制御システムの統合化は、絶大な恩恵をドライバーにもたらしますが、統合電子制御システムの開発はエンジニアにとっては大仕事を意味します。

そのシステムを世の中に出すに当たり、『安全性と信頼性を確保する』ための長大な開発プロセスが待ち受けているためです。


求められる安全性・信頼性開発力


なぜ、システムの統合化にあたり気の遠くなるような開発プロセスが求められるのでしょうか?その理由は『安全性・信頼性開発』にあります。

安全性・信頼性開発では、FMEA(Failure Mode and Effect Analysis)や、FTA(Fault Tree Analysis)などの手法に基づき、故障時のフェールセーフ機能をシステムに織り込みますが、 故障モードは多岐に渡るため、膨大な数のフェールセーフが必要になります。さらにISO26262(車載用電子制御システムの安全性・信頼性に関する国際規格)の適用が本格化したため、統合化対象の電子制御システムの数が増えると、安全性・信頼性開発の工数が指数関数的に増大することになるのです。

ISO26262の概要(引用元:ISO公式HP)
しかし、クルマに乗るお客様の命を預かる以上、その仕事に抜け目があることは許されません。まさにエンジニアにとって安全性・信頼性開発のスキルは、身に着けなくてはならない重要な技術的リテラシーです。一般的に電子制御システムは、その機能開発よりも安全性・信頼性開発の方が圧倒的に難易度が高いのです。機能性を損なうことなく、安全性・信頼性も同時に実現する。このような技術的リテラシーを持つエンジニアは自動車会社において一流と言っても過言ではありません。

もちろん、この技術的リテラシーは自動運転技術に携わるエンジニアにとっても重要なのですが、IT企業に上述のような技術的リテラシーを持つエンジニアがいるかと言えば、残念ながら現時点では『非常に限定的な数である』と言わざるを得ないでしょう。そして、このような人材の確保・育成こそが自動運転の技術開発に挑むIT企業にとって、大きな課題になっていると考えられます。

「エックスバイワイヤ(X-By-Wire)技術」とは?


明確な定義があるわけではありませんが、簡単に一般化すれば『人間の操作入力を電子信号に変換し、制御対象をモーターやアクチュエータなどの動力で制御すること』でしょうか。

この技術の輸送用機器への最初の適用事例としては航空機が最初で、当初はFly-By-Wireと呼ばれていました。Fly-By-Wire技術では、パイロットの操縦桿の動きをストロークセンサで検知、電子信号に置き換え、ラダーやエルロンを電子制御式の油圧アクチュエータなどで作動させます。

Photo By Ralf Roletschek - Own work, CC BY-SA 2.5
なぜ、Fly-By-Wire技術が開発されたのでしょうか?その理由は航空機の大型化・高速化です。第二次世界大戦の頃、航空機には自動車と同じレシプロエンジンが採用されていました。パイロットの操縦は機械式が採用されており、パイロットの手足の動きが機械的にエンジンスロットル、ラダーに伝わり、機体の動きを制御していたのです。

しかし、ジェットエンジンの登場で航空機の速度が著しく増加したことで人力による制御が困難になります。この課題を解決するため、より大きな力で、かつ正確な位置制御が可能なFly-By-Wire技術が開発されました。現在では様々な分野にFly-By-Wire技術は適用されていますが、制御対象が航空機だけでなくなったことから、X-By-Wire技術と呼ばれるようになったのです。

自動車において、X-By-Wire技術は、エンジンスロットル、ブレーキにも採用され、現在では一般的な技術として広く普及しています。また、これまでに適用が難しいとされていたステアリングシステムについても、日産自動車が実用化に成功しています。このように、現在の自動車はドライバーの運転操作が全て電子信号に置き換えられて走行することが可能となっているのです。

[つづきはコチラ]

2019年12月8日

車載用通信ネットワークの"開国"-第2章-

[前回のブログ]
[重要なお知らせ(Important notification)]

CANは限界を迎えつつある。


電子制御システムの増加により、膨大な情報がCANを使って共有されていることは前回のブログで解説した通りですが、すでに通信バスは負荷限界に達しています。複数のCANを用意し負荷を下げるも、電子システムに求められる機能の高度化にはとても対応できない状況になりつつあります。

日産IDS コンセプト(引用元:日産自動車公式HP)
このような課題を解決するため、通信速度が圧倒的に速いEthernet導入をドイツのBOSCH社が提唱しています。インターネットがEthernetを使っている現状を鑑みれば、Ethernetを車載用に転用することは当然の選択と言えます。また、既存のインターネット用プロトコルが使えるようになれば、システム間通信速度の圧倒的な向上に加え、インターネットへのアクセスが容易になります。正に”コネクテッド・カー”には必須と言っても過言ではないかも知れません。

今回のブログでは、Ethernetがどのようにして車載用通信ネットワークを鎖国から開国へと導くことになるのか?その見通しを論じてみることにします。

Ethernetがもたらすメリットとは?


Ethernetの導入により想定されるメリットとしては、電子制御システムの遠隔アップデートが挙げられます。ソフトウェアに関するリコールが発生した場合、ユーザーはディーラーに車両を持ち込み、ソフトウェアのアップデート処理をする必要がありました。しかし、ネット経由で新しいソフトウェアにアップデート出来るので、ユーザーはソフトウェアの配信を待つだけで済みます。

(引用元:日産自動車公式HP)
また、好みの運転フィールを実現するために、スポーティなエンジン制御マップやステアリングアシスト制御のロジックをメーカーHPからダウンロード販売で購入するなど、ユーザーカスタマイズなどにも活用出来そうです。このように、これまで鎖国化されていた車両ネットワークがインターネットと繋がることで、これまでに想像もしなかった驚きの機能が実現されることになるでしょう。


Ethernet化に伴い更なるリスクヘッジが必要となる。


一方でEthernetの導入による課題は何でしょうか?

それは”セキュリティの確保”です。これはEthernetの導入を提唱するBOSCH社も課題として認識しており、悪意のあるハッキングからクルマを守ることは最重要課題と言っても過言ではありません。セキュリティが不十分でハッキングされてしまった場合、走行中にクルマが突如加速し、意図しない方向に吹っ飛んでいくといったサイバーテロも十分に考えられます。

(引用元:マカフィー公式ブログ)
運転中の車両ハッキングは人命に関わる課題ですので、この点は自動車メーカーに限らず、IT業界も巻き込んでの十分な対策が必要と言えます。今後は自動車メーカーがインターネットセキュリティ会社と緊密な連携の下に協業していくことになりそうです。

まとめ


上述のように長らく「鎖国状態」にあった車載通信ネットワークですが、今後は自動走行技術の発達と伴走するようにクルマはめまぐるしいスピードでネットワーク化が進んでいくのではないかと想像します。もっといえば、クルマとクルマ、クルマと道路、クルマと家や建物など、都市全体がネットワークでつながっていく時代の到来もそう遠くないでしょう。

とはいえ、繰り返しになりますがそこにはハッキングや悪意あるサイバーテロの標的ともなりやすいという側面も持ちます。クルマのIoT化は、自動車技術のパラダイムシフトに繋がる可能性を大いに秘めていますが、PCや携帯電話と異なり人命に直結しているものなので、相応のセキュリティ対策や注意深い運用が必要になります。

今後のクルマの発達は、まさに技術発展とそれを逆手に取ろうとするサイバーテロリズムとの一進一退の攻防をくぐり抜けて行くことになるとも言えそうです。

[おわり]

車載用通信ネットワークの"開国"-第1章-

[重要なお知らせ(Important notification)]

はじめに。


近年、“IoT (Internet of Things)”という言葉は、IT業界ではもちろん一般の人でも多くの人が知るほど市民権を得た言葉になりました。私たちの身の回りのモノがネットワークに繋がり、今の生活をより便利に、そしてこれまでに不可能であったことが可能になる時代が到来しつつあります。

自動車業界にもIoTの波は押し寄せてきており、コネクテッド・カーと呼ばれるクルマが開発され、各自動車メーカーはIoT化による新たな価値の創出に力を入れ始めています。

日産IDS コンセプト(引用元:日産自動車公式HP)
コネクテッド・カーは、簡単に言うと『インターネットとのインターフェースを持ち、何らかの情報を外部とやり取りする機能を持つクルマ』です。インターネット普及の歴史とクルマ開発の歴史を良く知る人からすれば、『クルマとインターネットを繋げるくらい、もっと昔からあっても良かったのでは?』と考えるかも知れません。実はコネクテッド・カーの登場が遅れた背景には”車載用通信ネットワークの鎖国”があり、その鎖国こそがIoT化の最大の障害となっているのです。

今回のコラムでは、車載用通信ネットワークの技術を紹介しつつ、鎖国化に至った背景とそのネットワーク解放によるメリット・デメリットを解説します。

車載用通信ネットワークCANとは?


CANとはController Area Networkの略で、1986年にドイツのBOSCH社が提唱した車載用電子システムの相互通信プロトコルのことです。現在販売されている自動車には数多くの電子システムが搭載されていますが、各電子システムが持つセンサー情報や演算結果を効率的に共有するためにCANは開発されました。

現在では、カーオーディオ、ナビゲーションシステムに始まり、インテリジェントクルーズコントロール、先進ドライバー運転支援システム(ADAS)など、様々な電子システムがCANによりネットワーク化されています。

CAN(引用元:メンター・グラフィックス・ジャパン株式会社公式HP)
CANの最大のメリットは、CANコントローラICを各電子システムに搭載し、2本の導線でシステムを結合しさえすれば、低コストで簡単にネットワークを構築できることです。このような簡便性を背景に、現在ではシマノ製自転車のギヤシフトシステムにも採用されるなど、自動車産業以外にも広く普及しました。また、個人レベルでもCANネットワークを活用した電子工作例もたくさん見られます。

このように、CANはそもそもの目的であった『車載用』という枠組みを超えたネットワークプロトコルとして様々な範囲で市民権を得たのです。


どのように活用しているのか?


参考としてインテリジェントクルーズコントロールシステム(ICC)を例に、CANがどのように活用されているのかを紹介します。ここではICCが、『ICC統合制御ユニット』、『エンジン制御ユニット』、『ブレーキ制御ユニット』によって構成されているとします。

各ユニットには複数のセンサーが搭載されており、クルーズコントロールで代表的なセンサーと言えば、前走車との距離を計測するレーダーセンサーなどがあります。エンジン制御ではエンジン回転数やアクセル開度、ブレーキ制御では各タイヤの回転数やブレーキの操作量などがセンサーにより計測され、CAN上で各電子システムと共有されています。

(引用元:日産自動車公式HP)
ICC統合制御ユニットはCAN上で共有されている情報から、最適な車両速度、車間距離などを計算し、それを実現するのに必要なエンジン出力やブレーキ動作量を計算します。そして再びCANを経由して、計算結果を指令値としてエンジン制御ユニットおよびブレーキ制御ユニットに送信します。

このように、従来は単独で動作していた制御システムの連携が可能となり、新たな機能を創出することが可能になりました。クルマの中だけの世界で言えば、実はすでに”コネクテッド”な関係がCANを中心として構築されていたのです。

CANの課題は何か?


電子システム間の効率的な連携が実現可能というメリットを享受できる一方で、課題がない訳ではありません。その課題とは、CAN信号へのアクセスを一切認めない『鎖国』という自動車メーカーの対応です。つまり、CAN上でどのような信号情報が供給されているのか?その情報のほぼ全てが秘匿化されているのです。

なぜこのような対応がなされているのか?また、今後、CANのような車載ネットワークが開国される可能性はあるのか?次回のブログではその核心に迫ります。

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