2020年11月6日

本田技術研究所への想いとメッセージ

[重要なお知らせ(Important notification)]


はじめに。


2020年10月2日、ホンダがF1活動の終了が発表されました。このニュースを知った時、僕はイヤな予感が当たってしまった…と思いました。この発表以前から2022年以降のF1活動継続の発表がなかったので『もしかしたら…』という気がしていたからです。

ある程度予感していたからでしょうか。ホンダのF1活動終了を知っても、その時は『とても残念』という以上の感情は起きず、不思議と動揺することはありませんでした。

McLaren MP4/4
(引用元:ホンダF1公式サイト)
とは言ったものの、僕にとってホンダは中学生の頃にF1への夢を与えてくれたとても大切な存在。F1の世界で彼らと競い合うことは自分にとって仕事への大きなモチベーションの一つになっていましたし、ホンダF1で活躍する友人には負けまいと意気込みながら仕事に取り組んでいました。

そんな彼らがF1から来年末にはいなくなってしまう。この事実をどう受け止めるか?そして、どう言葉にするか?頭の中の整理にちょっと時間が掛かりましたが、僕のホンダF1への想いとメッセージを今回のブログに書きたいと思います。

技術研究という原点。


今回のホンダF1活動終了に関して様々な視点での記事を読みましたが、僕は一人の技術者として今回の事態を見つめることにします。その前に、ここでホンダの原点を振り返ろうと思います。

『本田技術研究所』

これがホンダの会社の正式名称(技術開発系)です。日本国内の自動車メーカーの中でも少し雰囲気が異なり、社名に『技術』、『研究』という言葉が含まれています。いかにも理科系バリバリの会社という感じがします。

ホンダジェット
(引用元:本田技研工業公式サイト)
その社名に『自動車』という言葉が含まれていないことから分かる通り、ホンダは自動車の開発・販売のみを生業とする企業ではないことは良く知られています。2輪、ロボット、航空機、発電機など、その技術領域は多岐に渡ります。このように、本田技術研究所の本来の使命は『様々な技術・研究を通じて社会に貢献すること』と言えると思います。


F1はホンダのDNAか?


率直に言うと、この問いはホンダに投げかける問いとして適当ではないと僕は考えています。もし、僕が彼らに問いを投げかけるとしたら『技術と研究はホンダのDNAか?』です。恐らく本田技術研究所で働く全ての技術者はこの問いに対し『Yes』と答えるでしょう。いや、そうでなくてはなりません(もし、そうではない人がいるならば由々しき事態ですが…)。

確かにホンダには長きに渡るF1での歴史と輝かしい実績がありますが、歴史的慣行としてF1に参戦することがホンダが負うべき使命ではありません。なぜなら、ホンダの技術者にとってF1参戦はあくまで技術・研究の尖った実力を培うための少々特殊な手段であり、F1に参戦していることが目的ではないからです。

Red Bull RB16
(引用元:本田技研工業公式サイト)
そして、本来のホンダのDNAである『様々な技術・研究を通じて社会に貢献すること』が果たせなくなるのであればF1を去ることもまた、正しい決断だと僕は思います。

正直なところ、今回のホンダF1活動は始まりから終わりまで決してスマートだったとは言えません。また、今回の決断は『F1はずっと続ける。F1はホンダのDNAだ。』という始まりの言葉を信じたモータースポーツファンに対する背信行為なのかも知れません。僕も一人のモータースポーツファンとして残念に思う気持ちは皆さんと一緒です。

しかし、今一度ホンダの抱く『夢』を皆さんに見つめ直して欲しいのです。

一つではない夢が技術者たちにはある。


F1を筆頭にクルマの極限性能を追い求めるホンダ。2輪ではスーパーカブからCBRまで幅広い製品を世に送り出し、発動機を活用したパワープロダクトや、和光研究所でのホンダジェットやASIMOの開発など、彼らの技術研究は多岐に渡っています。

このことが意味すること。それはホンダの技術者たちはF1以外にも、たくさんの夢を追求し続けているということです。その夢はホンダがF1で勝つことと同等か、もしかしたら、それ以上に大切な夢かも知れません。

『この技術課題をどうやって克服すべきか…』
『そうだ、この手法なら何とかなるかも!』
『ダメだ…これだと残る目標性能が達成できない…』
『よし、皆で論議しよう。ワイガヤだ!』
『ん?…これは解決策になるんじゃ…?!』
『出来た!やったぞ!目標達成だ!』

こんな風に壁にぶち当たっては転び、その度に起き上がり、課題解決や目標達成に挑戦することが技術者たちの日常なのです。また、ホンダでエアバッグ開発の第一人者となった小林三郎氏のように一つの夢の実現に技術者人生の全てを費やすことも決して珍しくありません。

ホンダがF1活動で勝利を目指すことはF1活動に関わるホンダの技術者にとって確かに夢のあることですが、一方でF1に携わっていない技術者にもそれぞれに叶えたい大切な夢があるのです。そのことをモータースポーツファンの皆さんにも知って欲しいと思います。今のホンダはそんな技術者たちの夢を力強く支援しなくてはならない時にある、僕は今回のホンダの決定をこのように理解しています。


最後に。


残念ながらF1はホンダにとって優先度の高い夢ではなくなってしまいました。しかし、今回の決断で多くのホンダの技術者たちの夢が叶うのであれば、とても素晴らしい決断であったといつかは言えるようになるはずです。もちろん、F1から去るからにはホンダがこれから挑戦する目標は絶対に達成して欲しいですし、期待を大きく超える成果で世界をあっと驚かせて欲しいと思います。

夢の実現に挑戦すること。忌憚なく言えば、ホンダの技術者にとってはそれがF1という舞台であるかどうかは最重要ではないのかも知れませんが、全てのホンダの技術者の皆さんの今後の健闘を祈りつつ、今回のブログを締めたいと思います。

最後までお読み頂きありがとうございました。

[おわり]

2020年9月6日

シミュレータ技術の世界とその基礎-第4章-

[前回のブログ]
[重要なお知らせ(Important notification)]


はじめに。


ブログテーマ『シミュレータ技術の世界とその基礎』もいよいよ最終回です。これまで3回に渡り、シミュレータやシミュレーションに関わる技術や考え方について解説しましたが、今回はいよいよ核心的なトピックである『Simレーサーとリアルレーサー』の違いについて解説したいと思います。

iRacing
(引用元:iRacing公式サイト)
そして、多くの人が疑問に思っているであろう『Simレーサーがリアルレーサーに転向して成功することは可能なのか?』という疑問にも、僕のこれまでのエンジニアとしての経験、そしてF1の世界で培った経験も踏まえてお答えします。本テーマの最終回、ぜひ楽しみながら読んでもらえると嬉しいです。

今回は結論から言おう。


最終的な結論が気になって仕方ない人が多い(?)と思うので、まずは結論から書くことにします。僕が辿り着いた結論は以下の通りです。

『Simレーサーがリアルレーサーに転向することは可能だが、プロフェッショナルなレーシングドライバーとして成功する可能性は低いかもしれない』

この結論に関しては賛否両論あるのは間違いないと思います。シミュレータの愛好家の方からすると、この結論を残念に思う方もいらっしゃるかと思いますが、なぜこのような結論に至ったのか?そのロジックをドライバーの運転行動様式と心理、これら2つの視点を交えながら解説します。


ドライバーの運転行動様式


以前のブログではドライバーがどのような行動サイクルに基づいて運転しているのかを解説しました。ここでは復習を兼ねて簡単にその内容を振り返ってみましょう。まずは次の図を見てください。


ドライバーは自身が置かれている状況を『認知』し、様々なことを『判断』します。例えば、視覚情報として赤信号を『認知』すれば、減速・停止するという『判断』を下します。そして、その『判断』に基づきブレーキを『操作』します。 その後、ブレーキ操作入力を受けた車両は減速をし始めるのですが、その『車両挙動』の変化を受けてドライバーは再び『認知』、『判断』、『操作』を繰り返します。これがドライバーの運転行動様式です。

シミュレータでも、次の図に示すように基本的にはリアルと同じ運転行動様式となります。リアルと大きく異なる点は、ドライバーへの車両挙動のフィードバック情報量が大きく制限されてしまうことでしょう。また、ゲーミングシミュレータではドライバーにフィードバックされる情報が現実の車両挙動から乖離していることも課題です。


ここで注意すべき点は、上で述べたシミュレータの抱える課題がSimレーサーとリアルレーサーの優劣を決めるものではないということです。リアルレーサーは実車から膨大な車両挙動の情報を処理して速さを実現する能力がある一方、Simレーサーは非常に限られた車両挙動フィードバックの中で驚異的な速さを絞り出す能力に長けるからです。

つまり、運転行動様式という観点で言えば、どちらもそれぞれの環境で卓越したスキルを持っていると言えるのです。

ドライバーの心理状況の違い


リアルレーサーとSimレーサーで心理状況はどのように異なるのでしょうか?僕の考えとしては、この心理状況の違いを克服することがSimレーサーがリアルレーサーに転向するに当たって最も大きな課題であると考えています。

ここでは例として、富士スピードウェイのストレートを時速250km/hで走行することを想定してみましょう。リアル、シミュレータ、どちらも時速250km/hを出すことは難しいことではないでしょう。しかし、リアルな走行では人間の心理には『生命の危険』が確実に生じます。

© DUTCH PHOTO AGENCY/RED BULL CONTENT POOL
実際にレースとなると、その心理状況の差は顕著になるはずです。リアルでは時としてバトルでの接触や車両トラブルによる事故は自分だけでなく、相手の生命に危険が及ぶこともあります。このため、リアルでのドライバー運転行動の『判断』には、当然ながら慎重さが求められることは言うまでもありません。

加えて、肉体的にも極限まで追い込まれた状況で常に適切な『判断』と『操作』を実行しレースで強さを発揮する能力は、やはりリアルでしか得られないものでしょう。


まとめ。


Simレーサーがリアルに転向した場合、恐らく『速さ』という点ではリアルレーサーに匹敵ないし凌駕することは十分に考えられます。しかし、リアルでは、シミュレータとは絶対的に異なる心理状況にドライバーが置かれることから、Simレーサーはリアルなレースでの『強さ』という点では苦戦する可能性が高いと言えます。

これが、このブログの冒頭で述べた結論、『Simレーサーがリアルレーサーに転向することは可能だが、プロフェッショナルなレーシングドライバーとして成功する可能性は低いかもしれない』に至った理由です。

Lando Norris (引用元:F1公式サイト)
もちろん、ゲーミングシミュレータは今後もどんどん進化していくと予想されるので、『速さ』を追求するという点では非常に効果的なトレーニングツールとして活躍してくれるでしょう。もし、プロのレーシングドライバーを目指すなら当然シミュレータを活用しない手はありません。

リアルなレースを通じて『強さ』を、シミュレータでのトレーニングで『速さ』を、これら2つをバランス良く獲得した新世代のドライバーがF1の世界でもすでに活躍していることから、今後この傾向はどんどん高まってくることでしょう。もしかしたら、シミュレータでの『速さ』の追求はプロドライバーになるための必須条件になっている、すでにそう言っても過言ではないのかも知れません。

[おわり]

2020年8月22日

シミュレータ技術の世界とその基礎-第3章-

[前回のブログ]
[重要なお知らせ(Important notification)]


はじめに。


前回のブログでは、どんな現象をどこまで再現したいのか?目的に応じてモデリングレベルを決めることが重要ということを解説しました。シミュレーションはクリック一つで結果を出してくれるとても便利なツールですが、モデリング手法が変われば結果も変わります。計算結果については非常に慎重な検証が必要なのです。

ADAMS Car
(引用元:MSC Software公式サイト)
さて、取り扱いに慎重さが求められるシミュレーション技術ですが、今回のブログでは、車両運動や車両システムのモデリングに用いられる代表的なソフトウェアを紹介したいと思います。果たしてどのような世界観なのか?ちょっと専門用語が多くなりますが、その雰囲気を感じてもらえれば幸いです。

車両モデルソフトウェア


ここでは主に、車両を統合的にモデル化する際に使うソフトウェアを紹介します。まず最初は、僕が国内自動車メーカーでエンジニアをしていた頃にお世話になったソフトウェアです。その特徴を紹介しましょう。

1D系車両運動解析ソフトウェア


日本国内はもちろん、世界中の自動車メーカーで幅広く使われているのがCarSIMやCarMakerを代表とする1D系車両運動解析ソフトウェアです。このタイプのソフトウェアの特徴は、サスペンション、トランスミッション、エンジンなどの車両コンポーネントを簡素な運動方程式や、特性マップを用いて構成していること(1Dモデリング)です。このため演算速度が速く、拡張性の高さがメリットです。

CarSIM
(引用元:バーチャルメカニクス公式サイト)
各コンポーネントのモデル詳細度が低いため、動的特性の再現には制約がありますが、精密な動的車両挙動の再現が求められない場合(自動運転制御ロジックの性能評価など)に幅広く活用できます。ちなみにiRacingやrFactorなどはこの1D系車両運動ソフトウェアに分類されますが、CarSIMやCarMakerは、詳細度および拡張性という点でゲーミングシミュレーションソフトを大きく上回る機能性を有しています。

3D系車両運動解析ソフトウェア


前述した1D系車両運動解析ソフトウェアが再現できない部分を再現可能とするのが、3D系車両運動解析ソフトウェアです。代表的なソフトウェアとして、ADAMSやSIMPACKなどがあります。これらのソフトウェアは、別名としてMulti Body Dynamicsとも呼ばれ、3次元形状と3次元空間の動きを再現できることが特徴です。また、各座標点に弾性力、減衰力などの特性を織り込むことも可能で、様々な動的特性を再現できます。

ADAMS Car
(引用元:MSC Software公式サイト)
デメリットとしては、モデルの非線形が高く、演算時間が長くなってしまうことです。また、陰解法を主体としたソルバーを使うことが一般的で、場合によっては演算が収束せず停止してしまうことも。このため、モデリングには非線形性を低減するちょっと高度なスキルが求められます。


複合物理解析ソフトウェア


クルマをモデリングする…この言葉の意味することが、果てしなく膨大な仕事であることを実感できる人はシミュレーション技術に精通しているヒトでしょう。なぜなら、クルマには様々な物理特性を持つシステムがあるからです。

AMESim (引用元:LMS Imagine Lab.公式YouTube*)
燃料噴射システムを例として挙げると、このシステムには以下の工学領域が含まれます。

  • 流体力学(燃料の流れ)
  • 機械工学(ポンプの機械的特性)
  • 電磁気学(ポンプモーターやインジェクタソレノイドの特性)
  • 制御工学(燃料ポンプのモータの制御ロジック)
  • 熱力学(各コンポーネントによる発熱とその伝熱)

簡単に言うと、世の中に存在する全てのシステムは、様々な物理現象と関連しており、それぞれが相互に影響しあっています。このような複雑な現象を解析するために用いられるのが、複合物理解析(Multi Physical Analysis)ソフトウェアです。代表的なソフトウェアとして、AMESimやDymolaなどがあり、上に紹介した車両運動ソフトウェアとの連携も可能です。

この種類のソフトウェアには様々な物理モデルライブラリと使いやすいユーザーインターフェースが備わっている一方、モデルの妥当性検証には高度な技術と知見が求められます。手前味噌ですが(汗)、現在の僕はその技術と経験を有していることが大きな強みの一つだと考えています。

*現在の社名はSIEMENS Industry Software S.A.S.

まとめ


今回のブログでは、クルマのモデル化に必要なシミュレーションソフトウェアを紹介しました。それぞれにメリット・デメリットがあり、前回のブログでも解説したように、目的に応じて適切な車両運動解析ソフトウェアを選定する必要があります。また、複合物理解析ソフトウェアは、複雑な現象の解析に対応可能で、車両モデルの詳細度を高めることにも活用できます。

何度も書きますが、シミュレーション技術は『クリックすれば正解が得られる万能な魔法』では決してありません。正解を得るため、使い手であるエンジニアが適切な手法でモデリングし、適切な手法で妥当性を検証しなくてはならない技術なのです。ぜひ、このことだけは知っておいてもらいたいと思います。

今回はちょっと専門用語の多いブログとなってしまいましたが、シミュレーション技術が必ずしも万能ではなく、使い手次第ということを少しでも実感してもらえたならば嬉しい限りです。次回のブログではいよいよ今回のテーマの核心ともいえるトピック、『Simレーサーとリアルレーサーの違い』について書きます。次回もどうぞお楽しみに!

[つづきはコチラ]

2020年6月27日

シミュレータ技術の世界とその基礎-第2章-

[前回のブログ]
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はじめに。


前回のブログでは、シミュレータなどの数値計算技術が離散化によって成り立っており、パラパラ漫画のような世界であることを解説しました。今回のブログでは、そもそもどのようにしてクルマがコンピュータ上でモデル開発されるのか?その考え方と手法を紹介します。

Multi Body Dynamicsモデル
(引用元:Dassault公式サイト)
なお、今回はTwitterのアンケートで要望の多かった『サスペンション』を例に挙げて解説を進めたいと思います。サスペンションはタイヤと共に車体を支える装置として知られていますが、このブログを通じそのモデリング手法の奥深さ(厄介さ?)を感じてもらえれば幸いです。

最初にやるべき大事なこと。


『サスペンションってどうモデル開発するんだろ?早く知りたい~!』と思っているそこのアナタ。焦ってはいけません。モデル開発を考える前に一番重要なことを考えなくてはなりません。それは…

『モデル開発の目的を明確にすること』

例えば『タイヤ摩耗を最小化できるレース車両のサスペンションを設計する』、『シミュレータゲームで多くのユーザーが運転しやすいサスペンション特性を明確にする』、『異なる車種の車両モデル間で共有することが可能なサスペンションモデルを設計する』などです。

Kevin Decherf from Nantes, France / CC BY-SA
どんな事でも同じことが言えると思いますが、目的を持たずに走り出しても、どこまで行き着けば良いのか分かりませんし、その目的の達成までに何が必要なのかも分からなくなってしまいます。モデル開発も同じで、まずは『再現したい特性や現象』を明確に定義する必要があります。


どこまで再現するか?するべきか?


目的を明確にした後にやること、それがモデリングレベルの決定です。このモデリングレベルの解説にあたり、サスペンションのモデル開発における要素を段階的にリストアップしてみることにします。

サスペンション幾何学モデル
(引用元:OptimumG社公式サイト)

Modelling Level-1

  • サスペンションの幾何学的軌跡
  • ダンパーの減衰特性
  • スプリングの弾性要素

ちょっと専門的な表現が出てきましたが、上の3つはサスペンション設計の基本ともいえる要素で、過去ブログで紹介した1自由度のバネマスモデルを拡張することで再現できます。ここではこの三つの要素をモデリングレベル1とし、次のモデリングレベルに踏み込んでみましょう。

Modelling Level-2

  • サスペンションの静的保持剛性
  • サスペンションの動的保持剛性
  • ダンパー内流体の動粘性係数
  • スプリングの弾性要素の非線形特性

このレベルでは実際のサスペンションの特性をさらに詳細に再現できるようになります。その特徴は、動的特性(微分項に依存して特性が変化)と、非線形特性が再現されることです。これらの要素の再現をモデリングレベル2とします。筆者は、市販のシミュレーションソフト(iRacingやrFactor)はレベル1を少し超えたあたりに到達しており、現在はレベル2に到達することを狙っているのでは?と推測しています。

このレベルともなれば、一般の人から見れば十分に高い再現度に見えるかも知れません。しかし…これでもまだ実物との乖離は大きいのです(汗)。そこで、今回はもう一つ上のレベルにまで踏み込んでみましょう。

Modelling Level-3

  • サスペンション部品のたわみ・座屈などの弾性変形
  • 温度変化に起因する弾性および減衰特性の変化
  • サスペンション部品間の摩擦によるヒステリシス特性
  • ダンパー内部品の弾性・摩擦によるヒステリシス特性

このレベルに到達すると、場合によっては単一の解析ソフトウェアでのモデル開発は困難になります。例えば、上記の『サスペンション部品のたわみ・座屈』をシミュレーション上で詳細に再現したい場合、線形有限要素法(FEM)との連成解析が必要になります。

一通りのモデリングレベルを紹介したので、その特徴などを表にまとめてみましょう。この表の内容を見れば、難しい技術用語は理解できずとも、モデリングレベルの概念を理解しやすくなると思います。


さて、ここで改めてモデル開発の『目的』を振り返ってみましょう。市販のシミュレータゲームで言えば、その目的はドライビングを楽しむことなので、あえて大まかに言ってしまえばモデリングレベル1でも十分かも知れません。

一方、自動車メーカーでは、サスペンション設計や運動性能開発にも対応可能な高いモデリングレベルが求められます。その場合、ハードウェアとソフトウェアに必要なコストはまさにケタ違い……一般向けのシミュレータソフトウェアと比べて4ケタくらい違っても驚かないくらいです。

日産自動車NTCにあるドライビングシミュレータ
(引用元:日産自動車公式YouTubeチャンネル)
このように目的に応じつつ、時には確保した予算に応じて決めるモノ、それがモデリングレベルなのです。

まとめ


今回のブログでは、サスペンションを例としたモデリングレベルの解説を通じ、モデル開発の考え方とその手法を紹介しました。ここで要約すると、モデル開発とは複雑な物理現象をいくつかの側面から切り出すことです。

このため、モデルそのものは完全ではありませんし、現実とは違う部分が必ずあります。しかし、そのこと自体は大きな問題ではありません。モデリングレベルを適切に決定し、目的を満足しさえすればそれで充分なのです。

以上がモデル開発の考え方と手法です。概念的な説明が多く、エンジニアではない読者の方にとっては少々難解だったかと思いますが、いかがだったでしょうか?次回のブログでは、エンジニアではない人にとってはまず触れることのない、シミュレーションソフトウェアの世界を紹介します。

次回更新もどうぞお楽しみに!

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2020年6月20日

シミュレータ技術の世界とその基礎-第1章-

[重要なお知らせ(Important notification)]


はじめに。


コロナウイルスによって2020年の生活様式は大きく変わってきましたが、皆さんはどのように暮らしを変えましたか??自宅で過ごす時間が長くなった分、苦労が絶えなかったかと思います。

そんな中、モータースポーツ好き、クルマ好き、さらには多くのプロレーシングドライバーまでもが取り組むようになったアクティビティがあります。そう、ドライビングシミュレータです。

VI-grade Driving Simulator
(引用元:VI-grade公式サイト)
今ではオンラインでの対戦が繰り広げられ、現役F1ドライバーたちも参加する公式eレースのチャンピオンシップが人気を博しており、今後の発展を予感させてくれました。このようなポジティブな発展が見られる一方、SNS上ではシミュレータ技術に関する誤解や、Simドライバーとリアルドライバーの優劣に関するちょっと過激な議論が繰り広げられていることに目が止まりました。

そこで、eレースやSimレーサー、そしてリアルレーサーの凄さをより深く理解することをサポートするため、今回のブログテーマではシミュレータ技術の世界を紹介します。

ところで、シミレータは英語でSimulatorと綴ります。シミレータではありませんので、まずは言い間違えにご注意下さい(汗)。

Lando Norris on Simulator
(引用元:Lando Norris Official Twitter)

学生時代の授業の想い出と言えば?


もし、『シミュレータなどの数値解析技術を、誰にでも分かりやすく説明するなら、どう例える?』と聞かれたら、僕は真っ先にパラパラ漫画と答えます。中学生の頃の僕はそれなりにマジメな生徒でしたが、時としてパラパラ漫画を授業中に描きたくなる衝動を抑えきれなかったものです…。その想い出のパラパラ漫画で数値解析を例えます。

どういうことか?それをグラフ図を使って解説します。次のグラフ図を見てください。

連続時間
このグラフ図は現実世界における、ある車両姿勢を時間軸で模した図です。私たちは、このグラフのように途切れることのない連続時間の世界で生きているのですが、ごく当然のことだと実感できると思います。

一方、同じ車両姿勢を数値解析の世界のグラフ図で表すと次のようになります。

離散時間
現実世界との違いを明確に理解できたかと思います。数値解析は、ある時間間隔ごとの状態量を計算しているのみで、現実世界のように連続ではありません。まさにパラパラ漫画のように時間が細切れにされた世界なのです。

このように、ある事象を断続的に表現することを離散化と言います。今回は時刻毎に離散化することを前提としましたが、数値流体解析CFDや有限要素法FEMなどの形状モデルのメッシュ化に適用されるなど、様々な分野で離散化の概念が使われています。


なぜ、離散化が必要なのか?


あなたがPCで何かを計算する時(例えそれがコンビニでのお釣りの計算であったとしても!)、その計算結果を得るには必ず時間経過が伴います。簡単な計算であれば、その結果は瞬く間に画面に表示されるでしょう。

では、PCで車両姿勢を計算する場合はどうでしょうか?この場合、サスペンションの動き、タイヤが発生する力、エンジンを含むパワートレインの挙動、空力特性の変化など計算しなくてはならないことがたくさんあるため、すぐに計算結果は弾き出されません。

Full Vehicle Model
(引用元:Claytex公式サイト)
ともあれ、いずれの場合も大なり小なり時間がかかるワケです。もし、ある時刻の力学的な釣り合い状態だけを計算するのであれば、計算所要時間が長くとも大きな問題にはなりません。一方、シミュレータでは絶え間なく続くドライバーからの入力に応じ、リアルタイム演算を成立させながら計算を続けなくてはなりません。

では、ここで先ほどの離散化のグラフ図をちょっと拡大しつつPCの稼働状況も載せてみることにします。

リアルタイム演算の概念
この図で離散化が必要な理由がお分かりですね??各時刻における計算の完了には一定時間が必要となるため、連続時間を断続的に区切って状態量を表現するしかないのです。また、シミュレータの場合、決めた断続時間の合間に計算を完了させなくてはならず、一般的にその断続時間は0.001秒であることが求められます。

これが離散化が必要となる大きな理由の一つなのです。

まとめ


シミュレータなどの数値技術解析では、離散化によって現実世界をパラパラ漫画のように細切れにせざるを得ないことを解説しました。今後、量子コンピュータ技術などにより演算能力が向上し、細切れの時間間隔は短くなるでしょう。

しかし、どんなに演算能力が向上しようとも計算時間をゼロにすることは現実的ではなく、離散化から逃れることはできません。言い換えれば、連続時間で成り立つ現実世界を数値解析で完全に再現することは不可能だと言えるのです。この事実を数値解析に携わるエンジニアは理解しておく必要があります。

『え?じゃ、なんで現実の完全再現が不可能な技術を活用するのさ?』

このような疑問を持った人もいるでしょう。次回のブログでは『モデリングの考え方とその手法』というテーマでその疑問にお答えしたいと思います。次回更新もどうぞお楽しみに!

[つづきはコチラ]

2020年5月26日

F1的な就職活動のススメ【F1とメディア】

[前回のブログ]
[重要なお知らせ(Important notification)]


はじめに。


今回のブログのテーマは『F1とメディア』です。Twitterで『F1を始めとしたモータースポーツのメディアやジャーナリストを目指している人ってどれくらいるのかな?』と呟いたところ、想像以上の反響があったのでこのブログ記事を執筆することにしました。

イギリス人F1ジャーナリスト
(引用元: Sam Collins's twitter)
まず最初に、これを読む皆さんにお伝えしておかねばならないことがあります。それは、僕自身にメディア・ジャーナリストの経験はなく、あくまで一介のエンジニアでしかないということです。そんな僕がF1やモータースポーツのメディアについて書くことは、実際にメディア・ジャーナリストとして活躍されている方々に対し、とても畏れ多いことだと考えています。

それゆえ、このテーマで書くことはこの一回限りとするつもりです。また、今回のブログの目的は、ジャーナリズムの世界を目指す若い人たちを勇気づけること、将来に向けてキッカケとなるヒントを、F1の世界にいる側の人間として提供することです。そして執筆に当たり、メディア・ジャーナリストとして活躍されている方々へ最大限の敬意をここに表しつつ、執筆することをご理解頂ければ幸いです。

少々堅い書き出しとなってしまいましたが(汗)、最後まで読んで頂ければ幸いです。

まずは課題から洗い出してみよう。


僕がF1の世界で働くようになって以来、『F1ジャーナリストになってみたいが、どうすれば良いのか分からない…』という嘆きにも近い質問をもらうことが多く、そのことが強く印象に残っています。社会人経験のない学生にとってはそもそも進学の悩みの方が大きく、考える余裕がないでしょうし、社会人として働いている人にとっても就職活動で希望の会社に入れなかった…など様々な事情があると思います。

そんな悩みを抱えている方々に代わり、僕なりの考え方を今回のブログでは共有してみたいと思います。

では、F1ジャーナリストの世界を目指す上で、どんな能力やスキルが必要になりそうか?細かい課題は数多あるかと思いますが、僕なりにその課題を次のように大きく三つの課題に分け、体系的にまとめてみました。

① 情報収集能力
② 知識力・情報量
③ 情報発信能力


ポイントは『体系的にまとめた』ことで、上の序列はそれぞれの重要性を表してはいません。どういうことか?それを次の図で説明します。

2020年5月14日

僕の未来とF1と。

[重要なお知らせ(Important notification)]


変わりゆく世界の中で。


『もうこれまでの世界ではなくなってしまうのかも知れない。』

こんなことを人生で二度も考えることになるとは……かつての僕は想像できただろうか?一度目は2011年の東日本大震災と原発事故。放射能汚染が東北地方を中心に東日本でも問題となり(もちろんそれは今でも決して解決できていないのだけれども)、小さい可能性ながらも自分の生命が脅かされた瞬間だった。

(引用元:F1公式サイト)
そして、今回の新型コロナウイルスの世界的なパンデミック。

ブログを書いているこの瞬間もたくさんの人が様々な苦難に直面していると思う。幸いなことに、ロックダウンで封鎖された世界でも僕は健康に過ごすことができているが、万が一感染した場合には自分の生命が助かるという保証はどこにもない。

そんな状況の中、残念ながらネットやニュースには真偽の分からない情報、批判、批難に溢れている。その真偽や賛否をここで論じても全く不毛なので、そのことには触れず、これからの未来をどう考えると良さそうか?前進する気持ちを鼓舞するためにも、自分の考えをちょっとだけまとめてみたいと思う。

僕たちが想像する世界。


今、あなたはどんな夢を持っていますか?その夢を達成するためにどんなことを頑張っていますか?そしてその夢はどんな風に達成されると想像していますか?

『明確にではないけど、何となく…』とか『いや、全く想像もつかん(汗)』など、色々あると思うけれども、ここで僕の最近のツイートを紹介したい。


ここで僕が言いたいのは、実際に訪れるであろう未来は僕たちが想像する以上の世界になることがほとんどだと言うこと。願わくばその世界は良い方向であって欲しいけれど、コロナウイルスのパンデミックや震災など悪い方向もある。

残念ながら、自分たちがどんなにあがいてもコントロールできない状況は確実にある。けど上にも書いたように、その世界が自分が想像する以上に、なおかつ良い方向に実現する可能性だってもちろんある。


過去を振り返ってみると。


現役での大学受験では全て不合格となり浪人したこと。 でも、諦めずに一年の浪人を経て慶應理工に合格できたこと。

レーシングカートに没頭するあまり留年しそうになったこと。 でも、大学院入試ではトップ10に入る成績で合格できたこと。

新卒で三菱自動車に入社してキャリアスタートしたこと。 でも、二度目のリコール隠し事件を当事者側として経験したこと。

念願叶って三菱WRC活動に仕事で関わる機会に恵まれたこと。 でも、2006年に三菱がWRC活動からの撤退を決定したこと。

日産自動車入社直後は自分の実力の無さを痛感して泣いたこと。 でも、本当に素晴らしい仲間に恵まれて成長できたこと。

フランスのエンジニアリング会社に転職し、ヨーロッパに移住したこと。 でも、上司と衝突して期せずして解雇されたこと。

失意の中、F1の世界にエンジニアとして入れたこと。 でも、今はコロナウイルスによりF1が開幕できずにいること。

でも、でも、どうだろう?

過去を振り返れば、決してネガティブなことだけじゃなくて、ちゃんとポジティブなことが起きていて、幸運なことにポジティブな方でちょっと貯金が出来ているじゃないか。

自分の限界は自分の想像の外に。


今はちょっとネガティブなことが起きている。けど、その先には僕たちが想像する以上のポジティブな何かがきっと待っているんじゃないだろうか?

それはどんなポジティブ?

いや、そんな野暮な想像はやめよう。それは想像を超えてくるに違いない。だから今は考えずに突っ走る時なのだと思う。ポジティブな何かがいつか起きると願いながら、小さなことでも良いから可能性を追い求めてみようじゃないか。自分がどこまで出来るのだろうか?その限界はどこ?そんな考えも想像の外に置いてしまえばいい。

RP20 (引用元:F1公式サイト)
僕は新型コロナウイルスのパンデミックが起きたことで、F1というスポーツがたくさんの人たちの心を潤していることを知った。世界中から求められていることを知った。だから、これからどんなネガティブなことが起きようと、それでもF1は続いていく訳だ。

そして僕の責務はF1エンジニアとしての仕事を続けていくことだ。

だから、約束しよう。ファクトリーのシャットダウンが解除され、仕事が再開されたら僕は再び全力で仕事に取り組もう。

F1を待ちわびるファンのみんなのために、新型コロナウイルスではない、歓喜のパンデミックを引き起こしてみせようじゃないか。

[おわり]



2020年5月1日

ミニ四駆の運動と制御-第8章-

[前回のブログ]
[重要なお知らせ(Important notification)]


RCバギーでは必須の空力デバイス


これまでのブログでは翼型ウイング、ディフューザについて考察しました。その結果、どちらも有意ある効果を得ることは難しいということが分かりました。それではエアダム型ウイングはどうでしょうか?

シューティングプラウドスター
(引用元:タミヤ公式サイト)
エアダム型ウイングはRCバギーの世界では必須アイテムとも言える空力パーツですが、その目的は一つではなくジャンプ時の姿勢制御にも活用されています。今回のブログでは、このようなウイングの特徴と理論について考察します。

エアダム型ウイングの特徴


まずはエアダム型ウイングがどのようにしてダウンフォースを発生するのか?そのメカニズムについて簡単に解説してみたいと思います。翼型ウイングがウイング下面に負圧を発生させることでダウンフォースを得る一方、エアダム型ウイングでは上面に正圧を発生させることでダウンフォースを発生させます。

エアダム型ウイングにおける空気流れのイメージ
(引用元:Team AZARASHI)
上図に示す様に、ウイング上面において空気を停留させる流れにすることで正圧が発生します。ウイング下面の流れに関わらず、上面の正圧さえ確保できれば容易にダウンフォースが得られることから、RCカーやミニ四駆などで有意ある効果が期待できそうです。しかし、その形状からも想像できるように、空気抵抗の大きさが想定以上に最高速度の低下を招く懸念がありそうです。


エアダム型ウイングと揚抗比の関係


一般的な話で言えば、旅客航空機にエアダム型ウイングは採用されていません。なぜなら、得られる浮力(Lift Force)の大きさに対して空気抵抗力(Drug Force)が小さいことが旅客航空機には求められるからです。この浮力と抵抗力のバランスを評価するためのパラメータとして、揚抗比L/D(浮力÷抵抗力)が用いられます。

それでは例によってムーンクラフトの空力エンジニアの神瀬氏に登場してもらい、エアダム型ウイングとその揚抗比についての見解を聞いてみましょう。

神瀬エンジニアの見解

自分
『空力効果を得ることが難しい速度域で走るミニ四駆でも、エアダム型ウイングならそれなりに効果が見込めるのでは?と考えたのだけれども、その点についてはどう考える?』


神瀬エンジニア
『ミニ四駆の速度域での超低レイノルズ数流れにおいては、エアダム型ウイングが一番効果が見込めると思います。ミニ四駆のボディ形状なども考慮すると、この手法が最も手っ取り早いと言えますね。』


自分
『懸念事項は?』

神瀬エンジニア
『空気抵抗が翼型ウイングやディフューザに比べると大きくなることですね。揚抗比としては不利になりそうですが、実は揚抗比に関してちょっと興味深い研究結果があるんですよ。』

アメリカのハーバード大学が開発した小型飛行ロボット
(引用元:ハーバード大学公式YouTube)

自分
『ほう。それは?!』


神瀬エンジニア
『近年、昆虫型マイクロ飛行ロボットの研究開発が盛んなのですが、トンボの羽のような薄板形状ウイングが採用されています。そして、超低レイノルズ数流れにおいては、揚抗比が翼型ウイングよりも良いという結果が得られているそうです。』


自分
『それは興味深い…』


神瀬エンジニア
『はい。エアダム型ウイングの空気抵抗が、翼型ウイングのそれと比べて小さいということはないはずですが、もしかしたら板形状ウイングの一種とも言えるエアダム型ウイングの揚抗比は思うほど悪くないかも知れません。』


エアダム型ウイングのまとめ


エアダム型ウイングについて『有意なレベルのダウンフォースの獲得が見込める』という結論を得ました。また、板形状ウイングは翼型ウイングに対し、超低レイノルズ数流れでの揚抗比において優れるという研究結果があることも分かりました。

さらに第6章~第8章の考察をまとめると『ミニ四駆にはエアダム型ウイングが最適』だと言えると思いますが、それではミニ四駆でそれをどう実現するのか?次回のブログではその実践例を紹介します。

次回更新もどうぞお楽しみに!

[つづく]

2020年4月1日

ミニ四駆の運動と制御-第7章-

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ディフューザについて考察する。


前回のブログでは翼型ウイングについて、ムーンクラフトの神瀬エンジニアと一緒に考察しました。今回のテーマは『ディフューザ(Diffuser)』です。F1やモータースポーツを良く知る人にとってはお馴染みの空力デバイスです。

ゴッドバーニングサン
(引用元:タミヤ公式サイト)
ディフューザについて良く知らない…という人もいると思うので、まずはその仕組みを簡単に紹介します。その次に、神瀬エンジニアとの考察を紹介したいと思いますが、その考察の中で『超低レイノルズ流れ』というキーワードが登場します。

果たして、このキーワードがミニ四駆の空力とどのように関係してくるのでしょうか?

ディフューザ(Diffuser)とは?


車体底面の空気流れを利用してダウンフォースを得る空力デバイスがディフューザです。F1マシンを後ろから見ると、車体フロア面が持ち上がるようにして上方に反り返っている部分のことです。ちょっと年代は古いですが、次の写真は1992年のBenetton B192というF1マシンで、赤い鎖線で囲った部分がディフューザです。

F1におけるディフューザの搭載例
フロア(車体底面)の前方から流入した空気は、ディフューザを通過する時に空間が拡がることで流速が上昇します。そして、下図に示す平面フロア後端の周辺圧力が低下することで、フロア上面との圧力差によるダウンフォースが発生します。

ディフューザによるダウンフォース発生メカニズムの概念図
このようなメカニズムでディフューザはダウンフォースを発生するのですが、果たしてミニ四駆では有効と言える程の効果が期待できるのでしょうか?


超低レイノルズ流れという障壁


それではここで前回と同様に、ムーンクラフトで空力エンジニアとして活躍している神瀬氏にアドバイザーとして登場してもらいましょう。

神瀬エンジニアの見解

自分
『翼型ウイングに続いて今度はディフューザについて。まず、僕の結論から言うと、ディフューザはミニ四駆においては十分な効果を期待できないと思う。その理由は次の3点。

①絶対的な速度が低い
②効果が見込めるディフューザ形状を作るのが難しい
③路面とフロア間の距離が安定しない

神瀬エンジニア
『ところで、ミニ四駆だとディフューザの代表長さはどれくらいですか?』


自分
『おおよそだけど、MAシャシーで最大80mmくらい。』

MAシャシー底面部
(引用元:タミヤ公式サイト)

神瀬エンジニア
『車速が最大30km/hでしたよね?ちょっと待ってください(←何やら計算を始める)。レイノルズ数を計算してみましたが、およそRe=4.42×104で、超低レイノルズ流れに相当します。通常のレーシングカーのレイノルズ数のレンジがRe=105~106なのに対し、ミニ四駆の場合は2桁もオーダーが小さいことになります。』


自分
『2桁も違うと、だいぶ大きな差だね(汗)。』


神瀬エンジニア
『なので、このような超低レイノルズ数だと、レーシングカーに期待されるレベルの効果が得られるかというと難しいと思います。ただ、非常に安定した走行条件下であれば、数グラム程度のダウンフォースが得られるかも知れません。』


自分
『ちなみにミニ四駆がジャンプすると…』


神瀬エンジニア
『お察しの通りダウンフォースは一切発生しません。地面あってのディフューザなので。僕の結論としては、ミニ四駆にディフューザは無いよりはあった方がいいけれども、過度な期待はできないかな…という感じです。ただし、ディフューザは使い方によってはリフトフォースを発生し兼ねないので、F1のような大きな形状のディフューザである必要はないです。』


ディフューザ~まとめ


『ディフューザによって有意なダウンフォースを得ることができのか?』という問いに対する結論は『非常に限定的』というものでした。

ミニ四駆の走行するサーキットの路面は完璧な平坦ではなく、最低地上高が絶え間なく変動します。このため、安定した効果を期待することはやはり難しいと言えそうです。今回、ディフューザについては少々厳しい結論に至りましたが、超低レイノルズ流れに関する調査の中で非常に興味深い文献を発見しました。

次回のブログではエアダム型ウイングについて考察しつつ、その文献の内容についても紹介したいと思います。次回更新もどうぞお楽しみに!

[つづきはコチラ]

2020年3月30日

ミニ四駆の運動と制御-第6章-

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空力の適用方法を考察する。


前回のブログでは、空力効果によってミニ四駆のジャンプ時の姿勢をコントロールすれば、コースアウトのリスクが低くなり、安定した走行が実現できるのでは?という仮説を紹介しました。今回のブログではその仮説の背景にある考察を紹介します。

ライズエンペラー
(引用元:タミヤ公式サイト)
僕のF1での仕事は車両運動性能の最適化や分析ですが、その仕事の中で空力効果についても取り扱うことになります。しかし、空力そのものが専門ではないため『空力のブログテーマでは専門的な人の見解が欲しいよなぁ』と考えました。

そこで今回のテーマでは特別にムーンクラフトで空力開発に携わる神瀬エンジニアに協力を仰ぎ、アドバイスを監修して頂きました。

もしかしたらこのブログをキッカケに、ミニ四駆における空力デバイスの存在感が今まで以上に高まるかも?知れません。果たして空力を活用する可能性を見出せるのでしょうか?!

空力デバイスの候補


まず初めに、ミニ四駆に活用できそうな空力デバイスを三つリストアップしてみました。
  • 翼型ウイング
  • ディフューザー
  • エアダム型ウイング
ミニ四駆のウイングと言えば、グレードアップパーツでは可変リヤウイングA、ミニ四駆キットではブラックセイバーなどの翼型ウイングがあります。 また、ディフューザーについてはMAシャシーなどでその効果を狙ったと思われる形状もあります。

ブラックセイバー
(引用元:タミヤ公式サイト)
この他にも様々なグレードアップパーツやミニ四駆キットに空力デバイスが見られますが、今回はこの三つの代表的な空力デバイスに絞って考察してみます。


翼型ウイング(Aerofoil)


空力デバイスとしてのウイングと言えば、最初に思いつくのが翼型ウイングです。このウイングの特徴は、ウイングの背面と腹面の空気流れに速度差を発生させ、ウイングの背面と腹面間の圧力差でダウンフォースを得ることです。

F1のリヤウイング
(引用元:Racing Point F1 Team公式サイト)
このタイプのウイングは空気抵抗を抑えつつ、ダウンフォースを効率的に得られることで知られていますが、ミニ四駆には最適なのでしょうか?ここでムーンクラフトの空力エンジニアである神瀬氏の見解を対話形式で紹介します。

神瀬エンジニアの見解

自分
『F1や航空機はこのタイプのウイングが一般的。でも、サイズも小さくて速度域の低い(最大30km/h程度)ミニ四駆だと有意性のあるダウンフォース量は得られないと思っているけど、これについてどう考える?』


神瀬エンジニア
『このタイプのウイングで気を付けるポイントはウイング背面の流れですね。速度は最大30km/hと仮定して、ミニ四駆のボディ形状とウイング搭載位置を考慮すると、ウイング背面の流れにおいて剥離が起きてしまうと思います。』

翼型ウイングの空気流れの概念図

自分
『つまり、ウイング背面に剥離が起きることで、ウイング腹面との圧力差を発生させることは難しいということ?』


神瀬エンジニア
『はい。特にミニ四駆の場合、ボディ形状が複雑なのでウイング背面に乱れのないキレイな流れを導くことが難しそうですよね。なので、この翼型ウイングで有意性のある力を得ることはちょっと難しそうです。』

Photo By Isaias Malta
CC BY-SA 2.0, from Wikipedia

自分
『ふむふむ、なるほど。』


神瀬エンジニア
『ただし、ウイング搭載位置を高くすれば。(上の写真のような)1960年代のF1のように、ウイング背面に乱れのないキレイな流れを確保することができれば、それなりの効果が期待できるとは思います。』


自分
『ミニ四駆の公式レースの規定では最大70mmまでの高さが許容されているから、マウント位置を高くしてキレイな流れを確保することも出来なくもない。』

スワンネック型ウイングマウント
(画像引用元:NISMO公式サイト)

神瀬エンジニア
『モータースポーツの世界ではスワンネック式のマウントってありますよね。あれってウイング背面の流れを乱さないようにするためなんです。とにかく背面の流れを意識する必要があります。』


自分
『う~ん…高さを確保することはできそうだけど、マウント方式やその強度、ウイングのアスペクト比を総合的に考えると、翼型ウイングの発生する力の絶対値は期待するほど得られないかもね。』


神瀬エンジニア
『はい、そんな感じがしますね(汗)。』

翼型ウイング~まとめ


翼型ウイングはその搭載位置を最適化すればダウンフォースを発生させることは可能だが、その発生量は十分ではなさそう…というのが僕と神瀬エンジニアが至った結論です。

また、レーシングカーでは走行中の車体姿勢変化が小さいため、安定した空力性能を期待できますが、ミニ四駆ではジャンプ中の車体姿勢変化により、その効果が大きく変化すると想定されます。

ジャパンカップ公式サーキット
(引用元:タミヤ公式サイト)
前回のブログでも解説したように、近年の公式大会のサーキットレイアウトでは、車体姿勢に影響を受けることなく安定した性能が求められます。このことから、翼型ウイングはミニ四駆にとってはベスト…とはどうやら言えなさそうです。

では、ディフューザーはどうでしょうか?その考察については次章にて!次回のブログ更新もどうぞお楽しみに。

[続きはコチラ]

2020年3月25日

F1ナルホド基礎知識??【F1とシンギュラリティ】

[重要なお知らせ(Important notification)]


技術的特異点(シンギュラリティ)とは?


シンギュラリティ(Singularity)という言葉をご存じだろうか?

この言葉の意味するところは多岐に渡るが、最近では技術的特異点として認識される機会が多いのではないだろうか。つまり『人口知能(Artificial Intelligence)の自己進化により、究極的な能力を発揮し始めるポイント』と言う意味だ。近い将来、多くの仕事がAIに置き換わると言われている。

本ブログは上の画像をしっかりと確認した上で読むことを強く推奨
一方、数学・物理学的にシンギュラリティと言えば、状態空間方程式などマトリックスを用いた演算において、行列式がゼロ(detA=0)となり解が存在しないことを意味する。方程式として特異な点があるというわけだ。

つまり、シンギュラリティとは、対象となる系において何らかの特異点が存在すると言って良いだろう。

では、F1においてシンギュラリティとは何を意味するのであろうか?今回のブログでは、将来的にF1に訪れるかも知れないシンギュラリティについて、いくつかの技術的側面から考察してみることとする。

車両運動数値解析におけるシンギュラリティとは?


ご存じの通り、現代のF1ではドライビングシミュレータを使った車両性能開発はもはや必要不可欠と言って良いだろう。残念ながらその開発の舞台裏をこのブログで紹介することはできないが、シミュレーション技術における一般的知識の範囲で解説する。

車両運動シミュレーションでは様々なコンポーネントがモデル化されている。それらはほとんどの場合、様々な非線形特性を持つ。ここではごく簡単な例としてダンパーを紹介する。

ヤマハ パフォーマンスダンパーの内部構造
(引用元:ヤマハ発動機株式会社)
一般的にダンパーはストロークの速度に応じて力を発生するが、ダンパー内にシートバルブを設けることで意図的に発生する力を変化させることもできる。このため、必ずしも速度に比例した力を発生するわけではなく(つまり減衰係数が一定値ではない)、発生する減衰力は速度に対して非線形特性を持つ。

それだけではない。ダンパーのピストンとシリンダー間に発生する摩擦力は、数値解析において不連続性の原因となる。また、ダンパーは作動時間の経過に伴い熱を発生するため、それもまた減衰力特性を変化させてしまう。

このような非線形特性と依存性は陰解法を用いた車両運動数値解析においてシンギュラリティの原因となり、しばしば演算停止または演算負荷の過度な増加の原因となるのである。もちろん、陽解法であれば短時間で解に辿り着けるが、陰解法に比して解の精度が良くないという課題がある。


空力開発におけるシンギュラリティとは?


2000年代になり圧倒的に飛躍してきた技術がある。それがCFD(数値流体計算力学)である。CFDの基礎方程式として有名なNavie-Stokes方程式が提唱されたのは1845年であり、実のところ、流体の挙動を解き明かす理論は100年以上前に先人たちが到達していたのである。

Navie-Stokes方程式
(引用元:株式会社ソフトウェアクレイドル)
しかし、当時はその方程式を手計算で解くなど不可能であった。なぜなら10秒ほどの流れ場を計算するために、現代の計算機であっても数日ほど必要とすることもあるからだ。仮に手計算で取り組むとすると、一生かかっても計算を終わらせることはできないだろう。

つまり、計算機が必要不可欠なのであるが、その計算機の登場は1845年から95年後の1940年、Alan Turingによって開発されたbombeまで待たなくてはならなかった。

デジタルコンピュータの元祖Bombe
(引用元:Wikipedia)
もちろん、1940年当時の計算機でもNavie-Stokes方程式を解くことは不可能であり、CFDとして意味のある計算結果が得られるようになるまで更に60年ほどを要したのである。そういった意味では、空力開発のシンギュラリティはごく最近起こったと言っても良いかも知れない。

なお、ここで言う『Navie-Stokes方程式を解く』とは一般解を求めることではなく、一定の前提条件の下、陰解法で漸近的に数値解析するという意味であることに留意されたい。なお、一般解を導くことができた方はクレイ数学研究所へ報告すると良い。

今後、レーシングカーに求められるシンギュラリティとは?


正直に告白すると、私はこれからF1において起こるであろうシンギュラリティの存在に気付いていた。しかも、それは私が中学3年生だった1992年のことであった。

レーシングカーに限らず、クルマとはタイヤが路面に接地していることが運動の前提条件となる。いや、むしろ基本原理・原則と言って良いだろう。しかし、その原理・原則が根本から覆されてしまったとしたら?

それは正に今回のブログテーマであるシンギュラリティそのものだろう。もしくはラプラスの箱と言っても良い。

今、このブログを読んでいる皆さんに、ここでお願いしたいことがある。28年前に僕が気付いたというシンギュラリティを今から紹介するが、そのことについては秘密にしておいてもらいたいのだ。

この約束を守ってくれる人はこのページをしばらくスクロールして欲しい。あなたはいずれF1の世界に訪れるであろうシンギュラリティの真実を知ることになる。















宙に浮いてもコーナリングフォースを発生する
驚異的なカート
[おわり]

2020年3月15日

F1なるほど基礎知識【F1とその最高速度】

[重要なお知らせ(Important notification)]


はじめに。


F1には大きな魅力がたくさんありますが、その魅力の一つに最高速度が挙げられます。その数値は時速350kmを超え、加減速や旋回速度などトータルで考慮すると、地上を走る乗り物としては最速と言っても過言ではないと思います。

画像引用元:F1公式サイト
今回の『F1なるほど基礎知識』では、F1の速度について注目し、その基本を解説してみたいと思います。速度について知れば、レースを見る視点がいつもと違ってくるかも?知れません。

まずは比較してみよう。


何か物事を理解しようとするとき、効率の良いやり方の一つは『身近なものと比べてみる』ことでしょう。ここでは二つの身近なモノとF1を比較してみることにします。

自然現象との比較『台風』

僕がF1の凄さを説明する時によく引き合いに出すのが台風です。最近は非常に強い台風が日本を直撃するようになりましたが、2019年に関東地方を直撃した台風21号の最大風速は秒速50mです。これを時速に換算すると時速180kmになります。

引用元:NASA公式サイト

つまり、非常に強い台風だとしてもF1の最高速度のおよそ半分の風速しかないのです。しかもF1のラップ平均時速は230km/hほどなので、F1マシンとドライバーは台風をはるかに凌ぐ風圧を受けながら走っていることになります。

そして、その速さを生かし、想像を絶するほどのダウンフォースをF1マシンは生み出しているのです。

他の乗り物との比較『新幹線』

地上を走る乗り物で身近な存在と言えば新幹線です。その最高速度は東北新幹線の時速360kmで、F1とほぼ互角と言えます。しかし、F1は直線だけではなく旋回性能が圧倒的に高いことも特徴の一つです。

JR West 500 W8

鈴鹿サーキットの名物コーナーの一つに130Rというコーナーがありますが、この130Rはコーナーの半径が130mであることを意味しています。この130RをF1マシンは時速300kmを超えるスピードで駆け抜けるのですが、新幹線はこのような旋回半径をF1と同じような速度では走れません。 新幹線の場合、400~2000Rほどの半径でも速度を落とさざるを得ないようです。

もちろん、新幹線の用途と重量を考えれば、F1との直接比較そのものに大きな意味はありませんが、少なくともF1が凄まじい風圧の中で強烈な旋回性能を発揮していると言えます。


最高速度は重要か?


さぁ、いよいよ今回のブログテーマの核心に迫ります。F1関係のメディアやテレビ中継では、レース中や予選中の最高速度が紹介されています。次の表は2018年の日本GPでの最高速度をまとめたものです。速度の計測ポイントは130Rの先です。

2018年 日本GP予選トップスピードランキング
この表から分かることは、最高速度の高さが必ずしもラップタイムの速さに直結していないことを物語っています。F1を良く知るコアなファンの方にとっては『コーナーでのダウンフォースを増やしているのだから、最高速度が伸びないのは当然だよ。』という考えが思い浮かんだと思います。

しかし、それだけでは最高速度の重要性を正確に論じたとは言えません。次節でグラフを使ってもう少し詳しく説明してみることにします。

ポイントはコーナーからの立ち上がり速度


ここでちょっとした想像をしてみましょう。F1マシンが鈴鹿サーキットのシケイン、そして最終右コーナーを駆け抜け、ストレートで加速していく様子をイメージしてください。 そして次のグラフを見てください。

車速の時間変化
赤線は高ダウンフォースで、高ドラッグ(大きな空気抵抗)を表し、コーナーは速いけれども最高速が伸びないセッティングA。一方で青線は低ダウンフォースで、低ドラッグ(小さな空気抵抗)を表し、コーナーは遅いけれども最高速が伸びるセッティングB。

このグラフを見れば、セッティングBで最高速を高めても、7.2秒間もの間、セッティングAに対して遅い速度でガマンしなくてはなりません。こうなると、速度で追いつく前にストレートで距離の差をつけられてしまうのです。

コーナーの最低速度をとにかく高めること重要
ここでポイントとなるのはコーナーを駆け抜ける際の最低速度です。手っ取り早くラップタイムを短縮したいなら、ある程度は最高速度を犠牲にしつつ全体的にダウンフォースを増やし、最低速度を高めれば良いわけです。これが必ずしも最高速度が重要ではないという理由です。

そうだとしても!(まとめ)


『なるほど、最高速度を多少は犠牲にしてもいいから、コーナーを速く走れるようになればいいわけね。簡単な話じゃん?』そう思った人もいるかも知れません。しかし、妥協することなく速さを徹底的に追及するのがF1です。

『コーナーも速くして、最高速度も高めたい。』

二律背反する性能を実現するためにはどうしたら良いのか?それを実現するために各チームはマシンに様々な工夫を凝らしています。果たしてどんな工夫がなされているのか…残念ながらこれ以上のことは書けませんが、一つだけ言えることがあります。

『幾多の革新的な技術アイデアがF1マシンには盛り込まれている。』

ということです。妥協を許さず、至高の技術を実現すること。これがF1における技術スポーツなのです。

[おわり]