はじめに。
近年、自動車メーカーに限らず様々な研究機関、IT企業による自動運転の技術開発競争が激化しています。今後もこの流れは続くと見込まれますが、一方でGoogleの自動運転技術開発の路線変更(当該事業の子会社化 + 自動車メーカーとの積極的な協業)、TESLA社の自動運転中と思われる死亡事故、Dyson社の電気自動車事業からの撤退など、電気自動車や自動運転の技術開発が難航していると思わせるニュースが少なくありません。
Steer-By-Wire搭載の日産スカイライン (引用元:日産自動車公式HP) |
本コラムでは、その難しさを解決するためのキー技術、『X-By-Wire(エックスバイワイヤ)技術』を紹介しつつ、自動運転技術開発の難しさの本質に迫ります。
開発工数の肥大化
この20年で自動車には数多くの統合電子制御システムが搭載されるようになってきました。その背景には、Bosch社による車載用通信プロトコルCAN(Controller Area Network)の普及があります。様々な電子制御が通信によって繋がることで、これまで実現が難しかった機能が数多く実現できるようになりました。
インテリジェントクルーズコントロール
(引用元:日産自動車公式HP) |
そのシステムを世の中に出すに当たり、『安全性と信頼性を確保する』ための長大な開発プロセスが待ち受けているためです。
求められる安全性・信頼性開発力
なぜ、システムの統合化にあたり気の遠くなるような開発プロセスが求められるのでしょうか?その理由は『安全性・信頼性開発』にあります。
安全性・信頼性開発では、FMEA(Failure Mode and Effect Analysis)や、FTA(Fault Tree Analysis)などの手法に基づき、故障時のフェールセーフ機能をシステムに織り込みますが、 故障モードは多岐に渡るため、膨大な数のフェールセーフが必要になります。さらにISO26262(車載用電子制御システムの安全性・信頼性に関する国際規格)の適用が本格化したため、統合化対象の電子制御システムの数が増えると、安全性・信頼性開発の工数が指数関数的に増大することになるのです。
ISO26262の概要(引用元:ISO公式HP) |
もちろん、この技術的リテラシーは自動運転技術に携わるエンジニアにとっても重要なのですが、IT企業に上述のような技術的リテラシーを持つエンジニアがいるかと言えば、残念ながら現時点では『非常に限定的な数である』と言わざるを得ないでしょう。そして、このような人材の確保・育成こそが自動運転の技術開発に挑むIT企業にとって、大きな課題になっていると考えられます。
「エックスバイワイヤ(X-By-Wire)技術」とは?
明確な定義があるわけではありませんが、簡単に一般化すれば『人間の操作入力を電子信号に変換し、制御対象をモーターやアクチュエータなどの動力で制御すること』でしょうか。
この技術の輸送用機器への最初の適用事例としては航空機が最初で、当初はFly-By-Wireと呼ばれていました。Fly-By-Wire技術では、パイロットの操縦桿の動きをストロークセンサで検知、電子信号に置き換え、ラダーやエルロンを電子制御式の油圧アクチュエータなどで作動させます。
Photo By Ralf Roletschek - Own work, CC BY-SA 2.5 |
しかし、ジェットエンジンの登場で航空機の速度が著しく増加したことで人力による制御が困難になります。この課題を解決するため、より大きな力で、かつ正確な位置制御が可能なFly-By-Wire技術が開発されました。現在では様々な分野にFly-By-Wire技術は適用されていますが、制御対象が航空機だけでなくなったことから、X-By-Wire技術と呼ばれるようになったのです。
自動車において、X-By-Wire技術は、エンジンスロットル、ブレーキにも採用され、現在では一般的な技術として広く普及しています。また、これまでに適用が難しいとされていたステアリングシステムについても、日産自動車が実用化に成功しています。このように、現在の自動車はドライバーの運転操作が全て電子信号に置き換えられて走行することが可能となっているのです。
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