2018年2月18日

レーシングカートのハンドリング性能とその特殊性②

[重要なお知らせ(Important notification)]

さて、前回のブログではリジッドアクスル機構の特性について紹介しましたが、今回はそのデメリットをレーシングカートはどのように解決しているのか?その手法について紹介します。さらにセットアップ変更とハンドリング性能の関係についても解説していくことにします。

(後ろから3台目に注目…)



レーシングカートのステアリング機構の特徴


見た目はとてもシンプルなレーシングカートのステアリング機構ですが、とある極端な特徴があります。実は前回のブログの執筆後に自宅近くのサーキットへレース見学に行ってきたのですが、そこで分かりやすい写真を撮ることができました。さっそく下の写真を見てください。


ステアリングを切った方向のタイヤが完全に片下がりしているのがはっきりと分かると思います。このようなフロントタイヤの動きはレーシングカート特有のステアリングジオメトリによって実現しているのですが、次の写真で詳しく解説してみることにしましょう。


写真からも分かるようにステアリングを動かすと、フロントタイヤはキングピン軸を中心に回転します。キングピン軸と地面の交点は、タイヤの接地点中心近く(少なくともタイヤトレッドの範囲)に存在することが一般的なのですが、レーシングカートの場合、それらはお互いに遠く離れた場所に位置しています。つまりスクラブ半径が大きい設計になっているのです。


また、キングピン軸はレーシングカートを横から見ると後ろ方向に傾いているので(キャスター角)、スクラブ半径を大きく設定することにより、ステアリング操作時に内輪側のタイヤが下に大きく動くようになっているのです。

これがレーシングカートのステアリング機構の最大の特徴なのです。




リジッドアクスル機構のデメリットを消す


それではなぜ内輪側のフロントタイヤを下に大きく動かすのでしょうか?

その理由は前回のブログで紹介したリジッドアクスル機構のデメリットを消すためです。左右輪がつながっていることがコーナリング開始時に走行抵抗になるのであれば、内輪側のリヤタイヤの荷重を小さくする、または接地させないようにしてゼロにしてしまえば良い、ということです。


そこで先にも述べた通り『内輪側のフロントタイヤを下に大きく動くようにする』ことで、同じ内輪側のリヤタイヤを持ち上げてしまおうというわけです。これがいわゆるレーシングカートの『インリフト』と呼ばれる動きです。また、コーナリング中のレーシングカートがスムーズな挙動を見せるのは、このようなステアリング機構によってタイヤ左右間の接地荷重が絶妙にコントロールにされているからなのです。

レーシングカートをコースサイドで見ていると、タイトコーナーへの進入時に内輪側が一瞬だけ持ち上がる瞬間がありますが、上手なドライバーほど一発できれいにカートの向きが変わり、スルスルと加速していくのが分かると思います。ぜひ注目してみてください。



インリフトをコントロールするセットアップ


今回のブログではさらにインリフト量をコントロールするセットアップにまで踏み込んでフォーカスしたいと思います。


上の解説図はフロントトレッドの幅が大きい場合と、小さい場合のインリフト量を示しています。図に示すように内輪側のリヤタイヤは外輪側のリヤタイヤを回転中心(上の図で言うと赤線左側の点)*として持ち上げられることになります。

(*:厳密に言うと内輪側フロントタイヤの接地点と、外輪側リヤタイヤの接地点を結んだ線を中心軸として3次元的にシャシーが回転します)

フロントトレッドを大きくした場合はインリフト量が大きくなるため、ハンドリング性能はオーバーステア傾向になり、フロントトレッドを小さくした場合はその逆でアンダーステア傾向になります。

また、フロントトレッドはそのままでリヤトレッドを大きくした場合、インリフト量は基本的に変わりませんが、シャシーのロール角が小さくなることでアンダーステア傾向になり、リヤトレッドを小さくした場合はその逆でオーバーステア傾向になります。

ここで傾向をまとめると…


となります。路面コンディションやその他のセッティングにもよりますが、おおまかにはこの傾向となります。



前後トレッドのセットアップの進め方


さて、前後トレッドの変更でハンドリング性能の傾向が変化することを紹介しましたが、前後どちらを先にセットアップすれば良いのだろう?という疑問が出てくると思います。

インリフトの絶対量はフロントトレッドで決まるので、まずはフロントトレッドのセッティングに取り組むと良いと思います。フロントトレッドのセットアップでおおよそ狙いのハンドリング特性になったところで、リヤトレッドで微調整をすると良いでしょう。

また、大切なのは常にタイヤトレッド表面の摩耗具合をチェックして、タイヤ性能がしっかり使い切れているかどうかの確認を怠らないようにしてくださいね。



今回のまとめ


ちょっと長くなりましたが、レーシングカートの特徴的なステアリング機構について紹介しました。出来る限り写真と図解を用いてみましたが、いかがでしたでしょうか?今後の活動の参考になれば幸いです。

Shenington Kart Racing Club
最後になりますが、F1を始めとしてプロを目指すカートドライバーや学生フォーミュラチームの皆さんへのアドバイスです。

闇雲にセットアップを進めてもそれは速さにはすぐ直結しません(←これはかつての自分に対する反省点でもありますが…汗)。それなりに理屈が分かった上でセットアップを進められるようになれば、短期間でも効率的に結果を出せるようになるはずです。『走っては考える。考えては走る。』この繰り返しによって更なる高みを目指して頑張ってください。

頂点を目指すカートドライバーを僕は応援しています!いつか日本人F1ドライバーと一緒に仕事できることを楽しみにしています。

(おわり)

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